第6話 交渉

 俺が連れて行かれた先は王城にあるサイモン講師の執務室だった。

その執務机の手前に応接セットのソファがあった。


「どうぞ、そちらへ座ってください」


 サイモン講師に促されて、サイモン講師の対面のソファに腰かける。

そして、2人ともしばし沈黙が過ぎる。


 俺は意を決して口を開いた。


「サイモン講師、俺の職業とスキル、王国で問題になっているのでしょう?」


 もうぶっちゃけるしかなかった。

この後の俺の要求が通ってくれるのを期待して。


「仰る通りです。

あのスキルオーブの結果が最後の機会チャンスでした」


 サイモン講師が苦悶の表情で認める。


「やはり……」


「この世界では、召喚者は勇者一行として扱われ重要な任務と優遇が与えられます。

だけどそれは、本当に召喚したかった・・・・・者たちのみです」


「ああ、俺は巻き込まれて召喚された、只の人ってことですね?」


 やはり、この世界に召喚された主人公は高校生たちだけなのだ。


「ええ。重要な任務とは、国を救うといった崇高なものになります。

なので、それが出来る者だけに・・・優遇措置があるわけです」


「俺には、その優遇するだけの能力がないということですね」


「簡単に言えばそうです。

ですが、巻き添えとはいえ、召喚してしまった責任は王国も感じているのです」


「となると、俺はどうなりますか?」


「一定の補償金を与えて王城から追放ということになるかと」


 やはり俺は追放だった。

どう見ても他の者より俺は役に立ちそうにない。

まあ、処刑と言われなくて良かったが。

この国にもそれなりに、召喚してしまった良心の呵責というものがあるようだ。


「そのお金では一生暮らすことは出来ないのでしょう?」


「ええ、長くて5年、散財すれば1年持ちません。

なので、出来れば手に職をつけて働いてもらうのが理想です」


 ちなみに1年は360日で12カ月、1か月は全て30日になる。

勝手に誘拐して放り出して、その保証が5年分の生活費か……。

主人公高校生たちとはえらい違いだな。


「そのためのスキルオーブ?」


「はい。そこで大当たりが出れば勇者の補佐役も有り得ますが、だいたいはその後生きるための手助けをするのが目的ですね」


 つまり、俺たち巻き添え組は全員が追放されて終了ということか。

だが、田沼なんかはゴネそうだぞ。


「そんなに簡単に全員が応じるのか?

もし応じなかったら?」


「まあ、それなりの措置があるとお考えください」


 それ以上の詮索はヤバそうだった。

だが、俺の立場はもっとヤバイ。

王国にとって少しも期待が出来ないのだから。


 その生きる力がハズレスキル……いや、そうだった【α2J】で再変換して【剣聖技】が使えるんだった。

あれ? これは城を追い出されてもやっていけそうか?

うん、面倒な連中とつるむのも嫌だし、ここで一人抜け出すか。


「わかりました。

でも、俺の職業とスキルでは正直生きて行くのも厳しい。

もう少し色をつけてもらえませんか?

ほら、安いスキルオーブを買ってもう1回チャンスを貰えるぐらいの金額を」


 俺は最後の賭けに出た。


「そうですね。

では、補償金1000万DGのところを1100万DG出すように掛け合いましょう」


「ありがとうございます」


 サイモン講師も無駄な説得が必要なくなるのは有難いようだ。

補償金の100万DG値上げに応じてくれた。

それが新たなスキルオーブ1つの金額ということだろう。

だがそれならば、スキルオーブをもう1つ与えて結果を見てから、俺の追放の判断をしても良いはず。

つまり、ハズレスキル×ハズレ職業では、どうにもならないってことなんだろうな。

そのことがスキルオーブがSRに上がってもハズレスキルを引いた事実から確定したということだろう。

100万DGはサイモン講師の恩情なのだろう。

これを生活費にあてれば僅か半年分だが、生き残る期間が増えるのだ。


 それにしても5年で1000万DGということは、1年200万DG、1日にすると5400DGぐらいか。

宿代が3000DG、食事が1食300DG、その他の衣類や雑貨を買ってと思うと、確かに贅沢さえしなければこの世界の物価で5年やれていける感じだな。


 だが、俺はその補償金でスキルオーブを買って、新たなスキルを得て、それを再変換して有意義なスキルにしてやろうと考えていた。

いざとなったら、【剣聖技】を使って冒険者をやっても良いしな。


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