第5話 最後のチャンス

 続けてスキルオーブを開けたのは40代サラリーマンの山田氏。

細身の疲れた中間管理職といった風体だ。

オーブから発せられたのは銅色。

おそらく、満足の行くレアスキルが得られたのだろう、満面の笑みを浮かべている。

そして、サイモン講師にスキルを耳打ちした。


 そう、スキルは大声で言わなくても良いのだ。

ラノベでも冒険者がスキルの公表はご法度と、冒険者ギルドのうっかり職員とトラブルになる描写がある。

それと全く同じで、スキルは隠した方が良い。

スキルを報告するのはサイモン講師だけで良いのだ。

田沼のように俺たちに聞こえるように嘘のスキルを言う必要などない。


 続けて、主婦の佐藤さんと斉木さんもスキルオーブを開けた。

共に銅色の光。

そのスキルを聞いたサイモン講師も、笑みがこぼれるほどの良いスキルだったようだ。


 そして、俺の順番が来た。

いや、別に順番決めをしたわけではない。

覚悟の決まった者から開けて行っただけだった。


「開けるぞ」


 俺がスキルオーブを開けると、銀色の光が発せられた。

これはSRスーパーレアエフェクト!


「おお!」


 サイモン講師も期待の声を上げる。

そして得たスキルは?


スキル【牽制】:他人を牽制できる。


 目の前にステータス画面のように文字がAR表示された。


 【牽制】?

「他人を牽制できる」って「誰々を牽制する」というような微妙な処世術になるのか?

ダメじゃん、これもハズレスキルじゃんか。

確かに珍しいスキルで、使いどころによっては凄いスキルなのかもしれないけど……。

スーパーレアというのは珍しいだけで、これは無駄なスキルではないのか?

これをもしサイモン講師に告げたら、それこそ俺は追放か処刑されるのではないのだろうか?


 そう悲観したとき、【牽制】スキルにギフトスキル【α2J】が反応する。


[次候補【権勢】【県政】【憲政】【剣聖】~]


「なんだこれは?」


 このスキル、使いどころが全く判らなかったのだが、こんな所で使えるとは!

まさか、これって既存のスキルを再変換できる?

【α2J】という名前は、確かに前の世界の日本語入力支援ソフトと同じで、誤変換の場合に次候補が出るという機能も同じだが、本当にそんなことが出来るというのか?


 試しに【剣聖】を選んでみる。

尤も【剣聖】はスキルではなく職業だ。

その結果がどうなるのかは未知数だった。


スキル【剣聖技】:剣士系の技、それも剣聖という最上級の技が使える。


 スキルは【剣聖】に技を付けた【剣聖技】になっていた。

これは田沼のスキルであろう【剣士技】の上位スキルになる。

田沼が見栄で言った【剣鬼技】の2つ上のURアルティメットレアだ。

ラノベでは基本の【剣技】に【剣技(鬼)】とか【剣技(帝)】とか【剣技(聖)】とか表記されるやつだろう。


 言えない。これは正直に伝えても嘘だと思われる。

SRエフェクトでURスキルだなんて、田村と同じように見栄を張ったと思われる。

二番煎じだからこそ恥ずかしすぎる。

俺はサイモン講師にどのように伝えようかと困ってしまった。


 【牽制】よりは【権勢】かな?

威圧系っぽいし。

だが、それがSRスキルなのかというと難しいところだった。

ここは正直に元出たスキルを言うしかないか。

何か問題があるならばこの国から逃げればよい。


「サイモン講師」


「何というスキルでしたか?」


 サイモン講師の期待の目が辛い。

それはそうだ。銀のエフェクトが出て1ランク上のスキルが手に入ったはずなのだ。


「【牽制】というスキルでした」


「ケンセイとは?」


 しまった、これはこの世界に無い単語だったか。

それは同音異語で判断が付かないという意味ではない。

どうやらステータスに載っているのは日本語で、だから日本語の誤変換として再変換出来たようだ。

つまり、この世界に【牽制】に該当する別の発音の単語があるのだ。

俺はこの世界の言語で伝わるように牽制を強くイメージして話した。


「ああ【牽制】ですね。

うーん、確かに凄く珍しいSRですが、使いどころの無いスキルですね」


 どうやら伝わったようだが、また日本語に変換されて聞こえてしまっている。

しかも伝わったことで、サイモン講師が困った顔をしている。

ここで実は日本語変換スキルで【剣聖技】になったなんて言っても信じてもらえそうにない。


「サイモン講師、この後、内密のご相談が……」


 俺は最後の賭けに出ることにした。


「そうですね。私の方からもお話ししておいた方が良いかもしれません」


 サイモン講師も話があるという。


「では、今日の講義はここまでにします。

各自、後は自由行動ということで。

笠井さんは、私と一緒に」


 俺は頷くと、サイモン講師の後に続いてリビングを出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る