第4話 Rスキルオーブ
サイモン講師が黙ってしまったまま、俺たちは王城へと馬車で戻った。
「私はちょっと上に報告しに行って来ます」
城に到着するやいなや、サイモン講師は報告に行くと急いで立ち去った。
やはり、俺のハズレスキルとハズレ職業が問題になっているのだろう。
にこやかだったサイモン講師が、あれ以来ニコリともしなくなっていた。
「やばいな、これはまずい展開かもしれない」
俺の頭に処刑という最悪の事態が浮かんだ。
役立たずな召喚者は殺してしまえという暴論だ。
これだけ召喚者の受け入れ体制が整っているということは、異世界召喚が少なくない回数行われて来た事を意味している。
そこのマニュアルに、役立たずはどうすると書いてあるのか?
それが俺の運命を分けそうだった。
◇
俺はサラリーマンと主婦で集められた部屋へと戻された。
そこでは、俺の教会行きを知っている田沼がニヤケながら問い詰めて来た。
「笠井サンよ、
俺が無職だったことにマウントを取りたいのだろう、田沼がわざわざ訊ねて来た。
無職=職安行きというつまらない言葉遊びをドヤ顔で言って来るのにイラッとする。
「ああ、貰えたよ」
「ぷぷぷ、なんて職業?」
どうせまた、その職種でバカにしようと思っているのだろう。
ここは煙に巻いてやろう。
「それはサイモン講師に口止めされている。
「ちっ!」
特殊と聞いて、田沼が舌打ちをする。
特殊、特別、必要以上にレア度の印象が増す単語に、田沼が劣等感を覚えたようで直ぐに引っ込んだ。
まあ、嘘は言っていない。
サイモン講師にハズレ職業と言われたことなんて、教えられるわけがないからな。
それにしても、
この後、数少ない同郷人の中で、孤立したいのか?
まあ、自分が偉いと思っている権勢症候群なのかもしれないが、それは嫌われ者一直線の茨の道だ。
まあ、向こうの世界の法律が及ばないということで、タガが外れているのかもだが、それに俺が付き合ってやる道理はない。
そんな田沼を無視して、俺は自分の個室に入った。
その入り口は魔法の鍵がついており、俺の魔力で認証して開け閉めが出来る。
基本的に他の者が勝手に入ったり出来ないようになっている。
まあ、共有部分以外でそうなっていなければ、男女混合のスイートルームなど女性たちが納得するわけがない。
基本的に、というのはマスターキーが存在するからだ。
ホテルだってそうだろう?
一時的に間借りしている部屋ならば当然だろう。
例えばベッドメイクのために、ホテルならば従業員が入る。
尤も、この城ではメイドさんが俺たちの許可を得てから入っていたので、本当に不測の事態のためだけにマスターキーはあるようだ。
「!」
俺は誰かが俺の部屋に侵入した痕跡を発見した。
それは些細なものの位置の微妙な違いだった。
ベッドの横の文机、その引き出しが開けられた形跡があった。
そこには、俺が前の世界から持って来た、この世界にとっての異物が入っている。
それはスマホや腕時計といった、この世界で大っぴらに見せられない物のことだ。
外出するにあたり着替えた時に、この世界の者の目に触れないようにと置いて行ったものだった。
ちなみに引き出しに鍵はない。
その代わり、俺は引き出しを
賊は引き出しを開け、そして
気付かないぐらいの隙間、それが無くなっていたのだ。
俺は引き出しの中を確認した。
「盗まれた物は無いか……」
となると、開けた理由はなんだ?
何を持っているか、盗むべき物はあるかという確認か?
いや、忍び込んだは良いが、盗む価値のあるものが無かったということか。
「嫌だねぇ」
おそらく誰かが特別なスキルで部屋の魔法認証を破ったのだ。
このスイートルームの中に盗みの常習者が居るのかもしれない。
「あーーっ!!!」
その時、田沼の部屋から叫び声が聞こえた。
慌てて俺は部屋からリビングへと顔を出した。
どうやら皆同じように驚いたようで、何事かと部屋から出て来ている。
いや、斉木さんだけはドアを閉じて顔も出していない。
「俺の飴ちゃんが盗まれた!
おまえが盗ったのか!」
なぜか田沼が俺を犯人扱いしやがった。
「俺は今教会から帰ったところだ。
立派なアリバイがあるだろうが!」
「じゃあ、おばちゃんか?」
田沼は根拠の無い疑いを佐藤さんにかけた。
「はあ? 私の買い物も少し無くなってるんだけど?
まさか、騒いでる奴が犯人ってことじゃないだろうね?
態と騒いで疑われないようにするって犯人の常套手段だからね」
「お、俺じゃねーよ。
じゃあ、山田のおっさんだろ!」
「証拠もなく他人を犯人扱いするな!」
何こいつ?
絶対に一緒にやっていけないわ。
◇
翌日、俺たちはサイモン講師の授業に参加していた。
「今日は、皆さんにスキルオーブを与えたいと思います。
スキルオーブは後天的にスキルを覚えることが出来るオーブです。
前回、【お財布】スキルを得たのと同じ行程ですが、今回のオーブは貴重な銅色、
オーブにはその中から出て来るレアリティが確定しているオーブが存在し、色によって見分ける事が出来るそうだ。
黄色が
金色に虹色は滅多に出回らない国宝級や伝説級に神話級になる。
つまり銅色の
そしてサイモン講師は、1人1人にスキルオーブを手渡して行った。
そして、俺のところに来ると「頑張って良いスキルを手に入れてくださいね」と耳元で囁き、スキルオーブを渡した。
「皆さんには、お持ちの職業に合わせた変動幅の広い特別なスキルオーブをご用意しました。
その種類やランクを決めるのは、皆さんの資質によります。
是非とも良いスキルを手に入れて下さい。
それが、
サイモン講師が俺に囁いたのはそういうことだったのだ。
今後の身の振り方、どうやらハズレスキルにハズレ職業の俺の立場は崖っぷちのようだ。
「それでは開けてみてください」
「俺から行くぜ!」
田沼がスキルオーブを開ける。
その光は赤。
「おお、スゲーな! 俺は【剣鬼技】だってよ」
そう田沼が言う。
「嘘はやめてください。
赤の光は
サイモン講師が冷静に突っ込む。
それは【剣士技】【剣鬼技】【剣帝技】【剣聖技】と
田沼の嘘は簡単に見破られた。
嘘をついてまで、どうして自分を上に見せたいんだ田沼?
そもそも【剣鬼技】というスキルが存在しなかったらどうするつもりだった?
「しかし、
サイモン講師が不思議がる。
それは確定放棄、再抽選になってハズレたということらしい。
田沼は見栄を張ったせいで更なる大恥をかいていた。
「まあ、ごく稀に1つ上や1つ下になることがあるとは聞きますが……」
田沼は、
日頃の行いが悪いからそうなる。
ざまぁだ。
だが、これは俺も嘘を付けないということだ。
この世界のスキルの名前も知らない。
それがどのレアリティかも知らない。
見捨てられないようにと誤魔化す事は不可能だった。
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