第3話 職業を得る
俺だけ職業が無職だったため、俺は職業がもらえるという教会に行って儀式を受けることになった。
職業というが、それはRPGのJOBのことであり、その人物が何の職業に適性があるかという指針だった。
この国では、10歳になる時に教会で儀式をし、職業を得る事になるのだそうだ。
それにより子供たちは、将来の適性を知り、それらに特化した教育を受けたり、厳しい修行により違う職業へとジョブチェンジを試みたりする。
ジョブチェンジは難関だが、不可能ではないらしい。
尤も、勇者などというチート職には、逆立ちしても成れはしないのだが。
俺とサイモン講師は馬車に乗って王城から出た。
どうやらサイモン講師が教会での儀式をお膳立てしてくれるようだ。
右も左も判らない俺には、それは大変有り難いことだった。
馬車は箱馬車という貴族が乗るような立派なもので、先にサイモン講師が正面を背にして座り、その正対する座席に俺が座った。
どこが上座であって身分差があるからどうこうといったマナーをサイモン講師は気にしないようだった。
道中の様子は窓から見る事が出来た。
別に止められなかったので、俺に見せて問題があるようなものは無いということのようだ。
制限されるかもと思っていたのは、取り越し苦労だったようだ。
俺たちは王城の召喚の間と宛がわれた部屋しか知らなかったため、俺が唯一外の様子を目にすることとなった。
やはり、この異世界は中世ヨーロッパの文明レベルで、そこに魔物の存在や魔法というファンタジー要素が加わった、まるでゲームのような世界だった。
まあ、それも異世界転移のお約束と言って良いだろう。
交通手段は馬車か馬、いや、大きな鳥や2本足で立つトカゲに鞍をのせて乗っている者もいる。
荷馬車をコモドオオトカゲのような四つ脚で這うように歩くトカゲが引いているのも見かける。
トカゲというか、大きさは恐竜と言っても良い感じだ。
RPGでいう走鳥とか走竜、地竜とかいうやつだろうか。
そこらへんは、ある程度お約束なので、俺も理解が早かった。
「着きました」
御者に到着を告げられ、サイモン講師と一緒に箱馬車を降りる。
サイモン講師は貴族っぽいのに、自ら扉を開けて馬車から降りた。
やはり、マナーや貴族慣習のようなものに厳しくない様子だ。
馬車から降りると、そこはレリーフや彫像で飾られた立派な教会の正面入り口前だった。
ヨーロッパの歴史ある石造建築の教会、そんな感じだった。
「では、行きましょうか」
俺はサイモン講師に連れられて教会の奥へと進んだ。
サイモン講師が勝手知ったる感じで躊躇わずにずんずん進んで行く。
そして暫く行った先に、関係者以外立ち入り禁止と思われる豪奢な扉があった。
いかにもお偉いさんの部屋だ。
「アビントン枢機卿、ご無沙汰しております」
サイモン講師は、その扉をノックし、アビントン枢機卿なる名前を呼んだ。
枢機卿とは教会の中でも上から数えた方が早い重鎮だろう。
いきなり誰何もされずにその部屋の前へとやって来たサイモン講師とは何者なのだろうか?
いや、宮廷書記官だというのは知っている。
しかし、どう見ても彼は貴族だ。
それもかなり位が高いのかもしれない。
「その声はサイモン卿かな? どうぞお入りなさい」
扉の向こうから穏やかな声が響いた。
これが聖職者の慈愛に溢れた声かと俺は納得した。
「失礼します」
そう言いながらサイモン講師が扉を開けて部屋に入った。
俺もそれに続く。
部屋に入った正面には、執務机があり、その向こうにはサンタクロースとカーネル・〇ンダースの中間ぐらいの白い髭を蓄えた恰幅の良い老齢の男性が座っていた。
それがアビントン枢機卿だった。
「ほう、この方が例の……」
俺に視線を止めると、アビントン枢機卿がそう言った。
おそらくアビントン枢機卿は王国による召喚の儀式の実施を知っていたのだろう。
そして、俺が無職であり、職業を得る儀式を必要としているということも。
「そうです。
このことはご内密に」
サイモン講師が声を潜めるが、重鎮の部屋だけあって誰も聞いていそうにない。
「解かっておる。
ならば、この場で儀式をしてしまおうか」
祭儀場に向かえば確かに目立つ。
何しろこの国の住人ならば、この儀式は10歳で終えているはずなのだ。
大人がやっていれば悪目立ちするに違いない。
アビントン枢機卿が、部屋の隅に簡易祭壇を用意する。
それは膝上ぐらいの高さの平机の上に、女神様の彫像と、いくばくかの祭儀道具を並べたものだ。
その左横にアビントン枢機卿が立つと、俺に跪くように促した。
俺は簡易祭壇の前に跪く。
それを確認したアビントン枢機卿が祈りのような言葉を発した。
すると、女神像から光が発して、俺を包み込んだ。
どう見ても異世界不思議現象だな。
「ふむ、無事に終わったようじゃな」
光が収まるとアビントン枢機卿が疲れたような表情を見せた。
どうやら儀式には、なんらかの魔法的な要素があったらしい。
MPでも消費しているのだろうか?
「ステータスを確認してみなさい」
そう促されて、俺はステータスを見た。
この世界では、滅多に他人のステータスは見ないようだ。
ステータスオープンという、よくある他人にステータスを見せる呪文は使わないのがマナーのようだ。
「ありました。 職業があります」
俺の職業欄に職業が存在した。
儀式は成功したようだ。
それだけで俺は喜びの声を上げた。
「何という職業でした?」
そうサイモン講師に言われて、俺は職業自体を良く見ていなかったことに気付く。
職業を授かって良かったという気持ちだけが先行していたのだ。
無職なことで田沼にバカにされたのが案外堪えていたのだろうか。
よくよく職業を確認すると……。
「なんだこれ?」
「どうされました?」
「いや、これ変な職業なんですけど?」
俺はその職業の名に戸惑った。
「え?」
サイモン講師も戸惑う。
そして、何かに気付いて、慌てて帰り支度をした。
「アビントン枢機卿、今日はありがとうございました」
そして、アビントン枢機卿に聞かせるのはまずいと思ったのか、早々に退出することを告げた。
俺たちは乗って来た箱馬車に乗って早々に退散した。
そして人目が無いことを確認したサイモン講師が、俺に近付くと耳打ちするように言う。
「職業を伺っても?」
「ええ、これ何でしょうね?
それは……」
「それは?」
「操語技術者だそうです」
「……」
それを聞いたサイモン講師が黙ってしまった。
「まさかと思いますが、ギフトスキルも?」
そして沈黙の末、訊ねて来た。
表情が深刻で思わず気圧される。
それはギフトスキルも不可思議なものかと訊ねていると俺は解釈した。
「そうです。
【α2J】というスキルです」
そう俺が言うとサイモン講師の表情が変わった。
「ハズレスキル……」
その表情は落胆だろうか?
今までのにこやかさは影をひそめてしまっていた。
「え?」
「それはハズレスキルにハズレ職業です。
その組み合わせは、この世界では何の役にも立たないと言われています」
俺はその言葉に衝撃を受け、しばし言葉が出なかった。
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