第2話 この世界を知る

「マーランド王国、宮廷書記官のサイモンと申します。

この度、私めが皆さまにこの世界の基礎知識をお教えいたします」


 俺たちの大部屋に20代後半と思しき男性講師がやって来て、この世界のことを教えると言った。

そして、初っ端の彼の自己紹介で、この国がマーランド王国というらしいことを知った。

なぜカトリーヌ王女は、俺たちに国名を告げるのを渋ったのか?

そこが意味不明だった。

後で講師が教えるからということだったのか、俺たちを下に見た選民意識からだったのかは良く解からない。


 そして、サイモン講師の講義が始まった。


「この国の通貨単位はDGデージー、正式にはドロップゴールドといいます」


 これは世界共通通貨だそうだ。

なぜか?

全ての通貨は神様から齎されたものであり、偽造が不可能な完璧な通貨だったからだ。

品質も統一されていて、最も信用のおける通貨だったため、国々の独自通貨を駆逐してしまったのだ。

このDGは魔物を倒すことの報酬としてドロップする。

そのDGが物の価値を決め、商取引の全てを支配しているというのだ。


「では、皆さまにはアイテムオーブを開けてもらい、【お財布】を手に入れてもらいます」


 アイテムオーブを開けると、黄色いエフェクトの後、オーブは消えて【お財布】が現れた。

それはオーブの中に入っていたとは思えない大きさだった。


「指に針を刺し、その血を【お財布】に吸わせてください。

それであなた個人以外がお金を出し入れすることが出来なくなります」


 個人認証というやつか。

【お財布】はポーチのような形状で紐でベルトと繋げられるようになっていた。

こんなに簡単な取り付け方法ならば盗まれてしまいそうだが、神様はスリを許さなかった。

他人が中のお金を得る事は出来ず、もし【お財布】を盗まれたり無くしても、新しい【お財布】を手に入れるだけで、中身が復活するらしい。


「これは全国民が持っていると言われるアイテムで、DG通貨の出し入れから、キャッシュレス決済まで行うことが出来ます」


 そこからガチャオーブの説明が続いた。

オーブの総称はガチャオーブ。

その中で、アイテムが封入されたオーブをアイテムオーブと呼ぶそうだ。

この世界では、そのアイテムオーブを開けることで、そこに閉じ込められていたアイテムを得ることが出来るのだ。

スキルが封入されたスキルオーブ、魔法の技能が封入された魔法オーブもあるそうだ。

これらのオーブはダンジョンの宝箱の中からも手に入るが、主にモンスターを倒した時のモンスタードロップとして手に入る。

そのドロップ時に抽選要素がありオーブのランクが決まる。

またオーブを開ける時にも抽選要素があり、そのランクの中で上位から下位の物の何が出るかはわからない。

魔物によって出易いアイテム種類があり、それを狙って特定の魔物討伐が人気になっているらしい。


 【お財布】は神様が齎した最も数の多いノーマルアイテムオーブであり、そのアイテムオーブは外観から簡単に見分けが付くようになっている。

なので100DGという安価で取引され、誰でも所持しているのだという。


「続けて【生活魔法】の魔法オーブを開けてください」


 これも基本的なオーブで【生活魔法】という便利魔法が使えるようになる。

風呂の代わりに【クリーン】を使うとか、少量の水を出すとか、種火として火をつけるとかのあれだ。


「魔法オーブとスキルオーブは中身を特定したと称して売られていることがありますが、詐欺も多いので信用のおけるお店で買うようにしないとなりません」


「その信用のおけるお店でスキルオーブを買えば、もしかして強くなれる?」


「強力なスキルほどスキルオーブは高額になります。

スキル破産をして奴隷落ちするぐらいにね」


 サイモン講師によると、借金をして高額のスキルオーブを買ったのに、使いこなせなかったり、騙されてハズレを引いた者が破産して奴隷落ちするなんてことがあるそうだ。


「ちょうど話題に出たので奴隷の説明もしましょうか」


 そう、奴隷。

この世界には奴隷がいる。

国によって制度が違うそうだが、この国では借金奴隷や犯罪奴隷、戦争奴隷の売買や所持が認められているという。

俺たちも国の役に立たなければ、かかった経費で奴隷に落とされる可能性があるのかもな。

そこは気を付けなければならないところだ。

この国はカトリーヌ姫の態度からも信用しきれないところがある。


「次に貨幣の説明をします。

そこにある硬貨がそれです」


 サイモン講師が実物の硬貨を見せて説明する。


「鉄貨1枚1DG、銅貨1枚10DG、大銅貨1枚100DG、銀貨1枚1千DG、大銀貨1枚1万DG、金貨1枚10万DGで、ここにはありませんが金板1枚100万DG、白金貨1枚1千万DGとなります」


 ちなみに金板と白金貨はなかった。

庶民は金貨までしか目にしないらしい。

その上は国からの恩賞の授与を儀式的に行う時以外は、商人もキャッシュレス決済をしてしまうので滅多に見ないとか。


「貨幣価値は、パン1個が銅貨数枚で、肉串が大銅貨1枚で買えるという感じですね。

仕立てた衣類は金貨1枚、出来の良い手作りの武器などは金板1枚が必要な感じでしょうか。

尤もノーマルアイテムオーブから出た服や武器防具もありますので、それは安価で手に入ります」


 ほとんど1DG=1円の感覚で良さそうだが、食べ物は安く、工業製品は高いという感じのようだ。

総じてノーマルアイテムオーブから出る物は安いようだ。


 そんな感じで、この世界の基礎知識をサイモン講師に教えてもらった。

これはもしも城から放り出された時に役立つ知識だ。

気に食わないからと、直ぐに逃走しなくて正解だったようだな。


「まあ、今はこんな感じまででしょうか。

訓練が始まる前に、職業を調べて何の武器が合うか検討しましょう」


 サイモン講師が説明を終え、訓練が始まるなどと言い出した。

だが、そこには問題があった。


「ちょっと待ってくれ。

俺はまだ職業が決まっていない。

このままで訓練は早いのではないか?」


 このままでは落ちこぼれる。

職業がある方が、ステータスの伸びが良いという説明を受けたばかりなのだ。


「ああ、そうでしたね。

では、先に教会で儀式を受けていただきましょうか」


 こうして俺は、職業を決めるために教会へと行くことになった。

無職から、まともな職業になれれば良いが……。

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