変なスキルは日本語変換?不明スキルのせいで追放された俺は異世界を気ままに生きる事にしたークズスキルを変換して有用スキルに出来るって神スキルか?ー

北京犬(英)

第1章 冤罪

第1話 お約束、それは集団転移

 駅前の歩道を歩いていたのは覚えている。

そして、前を歩いている男子2人に女子3人の高校生の足元に魔法陣のようなものが浮かんだ記憶もある。

そして、目の前が眩い光に包まれたこともはっきり覚えている。


 気が付くと俺は、石壁に囲まれた学校の体育館ほどの広間に立っていた。

高校生5人組と周囲にいたであろうサラリーマンや、駅前商店街に来ていた主婦なんかが一緒にいる。

どうやら、高校生を中心に、半径3mぐらいの人達がここに居るようだ。

俺を含めて全部で10人といったところか。


 高校生は前述のように男子2人に女子3人、そこそこの偏差値の私立校の制服だった。

男子2人は体格が良く運動部系に見える。

女子3人は優等生タイプと武道をやってそうな凛々しいタイプ、そしてギャルだった。

ギャルはこのグループにしては浮いた存在だ。

そして、他の女子2人とはお友達とは思えないぐらいの壁がある。

もしかするとどちらかの男子の彼女だろうか?


 サラリーマンは俺を含めて3人。

細身の40代男と、生意気そうな20代男、そして30代男の俺だ。

主婦は30代ぐらいだろう小太りと20代のスレンダー美人。

高校生以外は無作為に集められたと思われる、そんな人選だった。


 周囲には中世ヨーロッパ、或いは剣と魔法のファンタジー映画のような鎧の騎士とローブを纏い杖を持った魔法使いのような人物たちが囲んでいる。


 これは異世界転移、しかも集団転移だと俺は察した。

あの魔法陣に触れてしまった範囲の人達が、異世界に連れて来られたのだ。

それはもう、お約束と言って良い展開だろう。


「なんだこれは?」

「マジでやだー、何これ?」

「何なの? 何なの?」

「何が起こったんだ?」


 男子高校生A、ギャル、20代主婦、40代サラリーマンが状況が解らずに騒ぎ出す。

だが、俺はそれらを無視して頭の中で『ステータス』と唱えた。

俺には確認しなければならないことがあったからだ。


「やはりそうか……」


 俺は集団転移のお約束を確認したかったのだ。

それも密かに。

それによって今後の身の振り方が違って来るはずなのだ。


 その確認したかったお約束とは……。

この目の前に浮かんだAR映像のようなステータス画面が見られることではない。

俺が主人公側か巻き込まれ側・・・・・・かを確認したかったのだ。


 そして、俺が落胆した理由、それは俺が明らかに巻き込まれ側だったからだ。

まあ、魔法陣の中心が高校生5人組だったので当然だろう。


 でも、多少は期待していたのだ。

俺でも異世界に来たら転移特典でチート主人公に成れるのかと。

だが、そんな期待は早くも崩れ去っていた。


 俺が巻き込まれ側だと判断したのは、転移特典と言われるチート能力の有無だった。

異世界召喚者には、神からスキル特典といったものがもらえるのがセオリーだ。

それがステータスにギフトスキルとして表示されていた。

俺のギフトスキルは【α2J】。

加えてお約束の【異世界言語】、これが無いとこの世界の人達と言葉が通じない。

そして、何故か職業欄が無職。

転移前の世界の日本語入力支援ソフトと同じ名前のスキルと、このしょうもない職業は、俺が明らかに巻き込まれ側の非主人公モブなのだと思い知らしめたのだ。


 いや、俺が元々無職だったというわけではない。

少なくともSEとして働いていた社会人だった。

職業とはRPGでの役割、所謂JOBのことだろう。


 主人公側はこの職業が勇者とか賢者というお約束職業になっているわけだ。

俺の職業は所謂オマケ、巻き込まれた一般人ということを示していた。


「皆さま、まず謝罪させてください」


 俺たちより一段高いところ、体育館で言う舞台上に、まるでお姫様のような豪奢な衣装の人物が現れると謝罪をした。


「申し遅れました。

わたくしは、この国の第一王女、カトリーヌ……と申します」


 いや、本物のお姫様だった。

だが、王族ならば、その下の家名も名乗っても良いはずなのに、なぜか口籠った。

そういえば、国の名もこの国・・・と伏せていたな。

ちょっと引っ掛かる。 何かあるのか?


 だが、俺以外の連中は呆気にとられているだけだった。

何の謝罪だろうという怪訝な表情を浮かべている。

そこには俺も興味があったが、そこじゃないだろう。

交渉相手に不審な点があるというのは、後々困ったことになる布石だ。


「皆さまは、この国の都合により異世界召喚されました。

そして、残念ながら元の世界に帰る手段はございません。

そのことをお詫びすると共に、皆さまには今後の手厚い支援をお約束いたします」


 やはり異世界転移だった。

まあ、それは良いとして、帰れないことを謝罪するとは珍しい展開だ。

ラノベで多いのは、帰るために魔王と戦え、戦って勝てば帰る方法が判るというパターンだからだ。

そして、やはり国の名を伝えようとしない。

何か裏があるのか?


「冗談じゃない!」


 40代サラリーマンが激怒し、食ってかかる。

その様子を俺はスルーしつつ、今後の対応を考える。

サラリーマンの激怒も尤もだが、帰れないならば、国に盾突くのは悪手。

国に保護されつつ、時機を見て自由を手に入れた方が得策だろう。

おそらく、この後、俺たちは国の手先として戦わされるのだろう。

モブだと発覚した俺にはそんな危険行為は御免だ。


 40代サラリーマンが騎士により制圧された。

これで力では敵わないことを全員が理解したことだろう。

そして、逆らうならば謝罪相手であっても力で制すという実例を示してくれた。


「バカじゃねーの?」


 20代リーマンが言わなくても良いことで40代リーマンを貶している。

心底性格が悪そうだ。

あんな奴とは付き合いたくないものだ。


「それでは、ステータスと唱えてください。

そこに職業あるいはJOBという項目があると思います。

それを申告してください」


 どうやら、他人のステータスは見えないようだ。

ここはステータスオープンで、他人にも見えるようにする展開だろうに、それは出来ないようだ。


「無理やりステータスを見る手段も有りますが」


 出来るのかい!


「これは皆さまへのわたくしたちの誠意と受け取ってください」


 なるほど、嘘を申告も出来るが、それをすれば後が怖いってことだな。


 そして、高校生たちが素直に告げた職業は、やはり主人公側のもののようだ。

殊の外、お姫様がお喜びになっている。

20代リーマンに40代リーマンも2人の主婦も微妙な職業だったようだ。

お姫様の表情が悪い方に違う。


 そして俺の番になる。


「俺の職業は無職だ」


 俺は正直に話すことにした。

後で魔導具で調べられて、嘘だと判る方が危ないと思ったのだ。


「ぷ、無職だってよ」


 20代リーマンが盗み聞きして大声で周囲に知らしめた。

わざわざ誰にも職業が聞こえないように伝えていたのに、こいつやってくれたな。

おまえ、後で覚えてろよ。

まあ、今の俺のスキルでは、こいつにさえ太刀打ち出来そうもないが。


「大丈夫ですよ。

教会で祝福を受ければ、職業は得られます。

むしろ、何が出るか楽しみですね」


 カトリーヌ姫が笑いをかみ殺しながら告げた。

こいつ絶対性格悪いな。


 無職とは職業なしの事らしい。

言い換えれば空欄ということか。

紛らわしいな!


 教会で職業を得れば、逆転も有り得るのかと思ったが、姫の失礼な様子から特別な職業を得るのは絶望的なのだろうと理解した。


 その後、俺たちは高校生とその他で分けられて、部屋へと案内された。

たぶん、勇者様一行とモブとで待遇に差がつくのだろう。


 俺たちはサラリーマン3人に主婦2人だった。

男女一緒だなんてと30代主婦が不満を漏らしている。

俺だって、既婚者のおばさん如きに不審者の目で見られるのは嫌だわ。


 そして、部屋の中に案内されると、男女混合でも問題ないと納得せざるを得なかった。

そこはホテルでいうスイートルームだろうか。

リビングを中心に、壁側にいくつも個室があって、男女一緒でもプライベートが守られるようになっていた。


「これなら、女性も大丈夫かしらね」


 雑魚寝でも襲わないってば。

そんな不満も持ちつつ、顔に出さないのが現代人だろう。


「はあ? ババァなんて襲わねーよ!」


 20代リーマンが言わなくても良いことを口にして空気を悪くする。

トラブルを起こす天才か?


「まあまあ、これから一緒に生活する中です。

揉め事は無しにしましょう。

とりあえず、部屋を選んだらリビングに集まって自己紹介しましょうか」


 40代リーマンの仕切りで、各々が自由に部屋を選び、その後リビングに集まって自己紹介をした。


「山田です。 よんじゅう「年はいらねぇよ! 年上だからって偉そうにされたくないからな!」


 山田の自己紹介を遮ったのが20代と思われる奴だ。

いちいち突っかかって来て印象が悪い。


「別にそんなつもりで言おうとしたわけではない。

だいたいなんだお前は!」


「まあまあ、そこらへんにしておきましょう」


 喧嘩になりそうなところを俺が止めに入る。


「君もだ!「ああっ? 君ってなんだよ!」


 20代リーマンがいちいち突っかかって来る。


「名前を知らないからだろ。

だから自己紹介しているとことだろうよ」


「ふんっ! 俺は田沼だ」


「私は佐藤です」


「私は斉木です」


「おっ、斉木何ちゃん?」


 また田沼だ。


「言いません!」


 いちいち田沼が絡んで来る。

面倒臭い奴だ。

既に全員に嫌われたのが理解出来ているのだろうか?


「俺は笠井だ」


 一応、俺も名乗っておいた。

最低限名字だけでも認識しておかないと、何かあった時に声をかけにくいからな。

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