舞鷹市魔界転移
魔界に転移した舞鷹市
第65話 魔界転移した舞鷹市
俺が目が覚めた時、先に目が覚めたピンクは立ち上がってキョロキョロと周囲を見渡していた。変身は解けていないものの、衣装はボロボロ。今まで魔法少女衣装がダメージを受けているのを見た事がなかったので、俺もすぐに自分の服の様子を確かめる。
すると、確かに所々が破けていた。パワーアップをしていたはずなのに。
「はは、服が破けるとは思わなかったよね」
「ピンク、一体何が起こったの?」
「詳細は……。でもブルーが起きて良かった。一緒に帰りましょ」
こうして俺達は一旦仁さんの家に戻る。戻る道中で俺は周囲を見渡した。どうやら異常な事が起こったとは言え、街はそのままの姿で残っているようだ。見た感じだと、空の色がだけが違う?
いや、多分それだけではないはずだ。空気も何か変だし、そのせいで息苦しさも感じる。俺は衣装に解毒魔法を常に流しているから体の不調は感じないものの、アチコチで咳き込んでいる人やしゃがみこんでいる人の姿が目に入っていた。
「ピンク、これって……」
「状況分析は私の家に帰ってからにしましょ」
こうして、俺達は無事に残っていたアパートに戻る。変身を解いてドアを開けると、室内にはマルとミーコ、瞳さんに真紀さんがいた。全員無事のようだ。俺達が部屋に入ると、全員が一斉に玄関に集まってきた。
「2人共無事で良かった」
「生きてるよね? あーし、幻を見てる訳じゃないよね?」
「無事に戻ってきて良かったです」
「大丈夫なようで安心したよ。で、一体何があったの?」
留守番組は全員俺達を心配していたらしく、一斉に質問攻めにあう。仁さんは回答を俺に丸投げして先に室内に入っていった。お茶を入れると言い残して。
と言う訳で、4人の質問を回答する役目を負わされた俺は、自分達の無事を証明しつつ、事の顛末を簡潔に話した。
「四天王は倒せたけど、魔王が現れて一撃でやられたんだ。で、気がついたらこんな事に」
「魔王だって? よく無事だったね」
「マル、魔王について詳しく知ってるの?」
「伝説では次元王の連合でやっと封印にこぎつけたって……魔法少女2人程度じゃ勝てるはずがないほど強いんだよ」
マルの話を聞いた俺達は、さっき遭遇したばかりの魔王の印象と認識をすり合わせる。確かに絶対に勝てない桁違いの圧を感じた。あの存在は確かに伝説になるレベルに達していると肌で理解出来る。
俺達、あんな化け物と戦ってよく無事だったな。殺す価値もないってやつだったのかな……。
「ワシも聞きたい事があるけん、まずはお茶にしよか」
いつの間にか人数分のお茶を入れていた仁さんは、俺達をリビングに呼んだ。全員で向かうと、人数分のお茶と羊羹が並んでいる。和風だなあ。ま、好きだけど。
全員が椅子に座ったところで、仁さんが留守番組の顔を見る。
「この街に一体何が起こったんや……。ワシらは意識を失っとったけん、何も知らんのや」
「それは僕が説明するよ」
話に割り込んできたのは黒猫妖精のマル。うん、この状況を説明するのに一番ピッタリの存在だよ。彼は話す前に丁寧に顔を洗って、キリッとした凛々しい表情を俺達に見せた。
「街に異変が起こったのは1時間ほど前になる。突然次元断裂が発生したんだ。これは普通なら有り得ない事。説明は省くけど、今、舞鷹市は魔界に接続されている」
「そう、舞鷹市魔界化計画が成功したって事なのよ。さっきの誠君の話からすると、多分、魔王が強引にやらかしたのよね」
「やっぱりほうやったんか。どうやったら元に戻せる?」
「それは……これから調べるよ。何か方法はあるはず」
マルは困り顔を見せて歯切れの悪い返事を返す。いつも用意周到なマルが言葉を濁すって事は、状況の把握は出来ていても、改善策はこれからと言う事なのだろう。このやり取りを聞いていた俺は指を顎に乗せる。どうやら、とんでもない事態になったようだ。
事態の深刻さに一瞬会話が途切れる。そこで俺は顔を上げた。
「で、ここが魔界になると、具体的にどうなってしまうんだ? 空の色が気持ち悪くなって空気が淀んできたのは分かったけど……」
この質問に誰も答えられない中、ここでもマルが説明をする。
「舞鷹市は街ごと転移したからすぐには分からないかもだけど、これからどんどんヤバくなっていくよ。まずは水だ。瘴気が溶け込んでそのままだと飲めなくなる。それによって地下水や川の色も変色する。空気の組成も変わったから、鳥も虫も飛べなくなるだろうね」
「じゃあ、俺達は死ぬ……?」
「水も空気もそこまで猛毒に変わった訳じゃないから即死と言う事はないよ。けど、そのまま摂取し続けると、やがて体が魔界に適応しようとして体調を悪くする人が増えるだろうね。適応出来た人は魔界人に近付いていくし、出来なければ最悪は……」
マルは淡々と魔界化の影響を説明してく。その感情を廃したナレーションのような説明口調もあって、情報が素直に耳に入ってくるのと同時に俺は恐怖も感じていた。
ここでずっと黙って話を聞いていた仁さんが、マルの顔をマジ顔で見る。
「ほいじゃあ、人がまだまともでいられる時間はどのくらいなんや?」
「持っても3ヶ月くらいじゃないかな? だからそれまでに元の世界に戻る方法を見つけ出さないと」
「出来るんやろな?」
「最善は尽くすよ」
こうして、俺達の当面の目標は決まった。舞鷹市を元の場所に戻す事だ。それが可能かどうかは現時点では分からない。魔王の目的もこれで完了したとも限らない。何も分からなくても、ここで手をこまねいている訳には行かなかった。
どうすればいいか分からなかった俺達は、まずは現状を把握するために外に出る事にする。外界と完全に隔離された事で情報が全く入らなくなったからだ。電気の供給が途切れたので、何かを知るには実際に体験するしかない。
「それじゃあ、外に出てみるけん」
「気をつけてね」
「無法者が襲ってくるかもやけん、戸締まりはしっかりな」
「お2人も無茶しないでくださいね」
真紀さんと瞳さんに見送られて、俺達は玄関のドアを開けた。そこに広がっていた光景はパニックになる住民達の姿。何の前触れもなく一瞬で魔界になってしまったのだから、混乱するのも当然の話だろう。しかも、それを誰も説明出来ないのだから。
一応事情を知っていた俺達もここで迂闊な事は口に出来ない。魔界化を止められなかった責任を追求されて、魔女狩りのようになってしまいかねないからだ。
取り合えず俺達は街の様子を詳しく見て回る。やはり目立つのは体調を悪くしている人の多さだ。外出している人の半分以上は顔面蒼白だったり、道端にしゃがんでいたり、ヒドく咳き込んだりしている。
俺達は魔法少女に変身すれば平気だけど、この人達に対してどうすれば助けられると言うのだろう。俺は何も出来ない自分が歯がゆくなる。
「仁さん、俺、何か出来ないでしょうか?」
「まずは現状を把握せな。何かするんはそれが出来てからや」
「ですね」
病院の前を通りかかると、施設に収まりきれなかった人々が外に溢れている。それは当然の話だろう。空気の質すら変わってしまったのだから。合わない人は息をするだけで体を病んでしまう。
こんな状況なのに、地球から離れてしまったから助けを呼ぶ事も出来ないんだ。この事実が分かれば、更に多くの人が絶望するだろう。本来なら真実が分かった方が安心するのに、混乱している方がまだ希望を持てるってどんな皮肉だよ。
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