第64話 四天王戦と戦いの結果

「マジカルブルースター!」


 ステッキの先から発生した青い魔法の矢がシーラに向かう。この攻撃を察したガドリスが体張って俺の攻撃を弾いた。


「オマエの攻撃、届かせない! オマエ、許さない!」


 シーラを狙った事で怒らせたのか、ガドリスは強い念のこもった言葉で俺を脅す。両手の拳を胸の前で強く打ち付けると、そのまま殴りかかってきた。単純な物理攻撃には単純な防御反射魔法で対処するのが一番だ。


「マジカルアンブレラ!」

「ウゴプ!」


 呪文によって作り出された魔法の傘がガドリスのパンチを弾いて、腕をありない方向に曲げる。これでヤツの攻撃手段は潰した。ただ、傘も力を全て受け止めきれずにガドリスの攻撃を弾いたと同時に消滅。俺も地面に尻餅をついた。


「キャッ!」

「オデ、腕くらいすぐに治る。オマエの負けだ」


 ガドリスは地面を思っきり蹴ってジャンプして大口を開ける。噛みつき攻撃だ。ミサイルのように上空から超高速で向かってくる。ならばと、俺はステッキを両手で握ってこの状況に相応しい呪文を唱えた。


「マジカルブルーブースト!」


 物理には物理。ブーストで全ての能力値を上げた俺は素早くスライディングして飛び出してきたガドリスの下に潜り込む。そこには無防備なトカゲの腹部があった。タイミングを合わせ、俺はこの柔らかい腹に向かって連打を開始。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラアッ!」

「グポオオオオ!」


 防御する事も出来ずにダイレクトに殴られ続けられたガドリスは、そのまま白目をむいて気絶。俺はその巨体を担ぎ上げると上空に10メートルほどジャンプして地面に叩きつけるように放り投げた。

 大地を震わすほどの大きな音を立てて地面にクレーターを作り、その中央に横たわるトカゲ男。こうしてガドリスは完全に沈黙。このバトルは俺の勝利に終わった。


「ふう、脳筋で助かっ」


 倒れたガドリスを見下ろしながら髪を掻き上げたところで、天空から発生した雷が俺を襲う。雷は音より先に光が落ちてくるので、俺は逃げる事も出来ずに超強力な電撃で感電した。


「ギャッ!」


 パワーアップした魔法少女衣装でも流石に雷のエネルギーを全て受け流す事は出来ず、俺はその場に倒れる。その直後に轟音が鳴り響いた。


「やったわ! 魔法少女を倒したァ!」


 シーラは少女のように喜びの声を上げる。彼女もまた魔法使いタイプらしい。しかも攻撃魔法の使い手だ。黒魔術師と言ったところだろうか。

 シーラが自分の攻撃の成果を確かめるために近付いたところで、俺は何事もなかったかのように起き上がる。


「いててて……」

「うっそおおお! 何で?」

「こう見えて、魔法少女はタフなの」


 俺がステッキをかざすと、警戒した彼女はまた距離を取った。少し緊張感が和らいだところで、俺はちらりとピンクの様子を確認する。どうやらヒュラといい勝負をしているようだ。目に見えないほどのスピードで格闘戦をしていた。

 安心した俺が視線を戻すと、今度はヌーンが納得の行かない表情を浮かべる。


「何故だ! 何故お主に攻撃が通らぬ?」

「もしかして毒? それは対策済みなの」


 そう、初戦で倒された時から俺はヌーンの見えない攻撃についての対策を練っていた。新しい衣装は魔法を付与する事が出来る。そこで、同じ攻撃で二度と倒れないように衣装に解毒魔法を流し続けているのだ。つまり、毒攻撃は無効。

 これが純粋な四天王だけとの戦いなら、今から反撃に出るパターンでいい。しかし、どうにも違和感を覚えていた俺は周囲を警戒する。ここにいないもう1人の幹部、レイラが戦況を見定めてる気がしてならなかったのだ。


「お主、どこを見ている! 舐めるなっ!」

「そうよ! ここからが本番!」


 ヌーンとシーラが声を合わせる。ここからどんな攻撃が来るだろう? ただ、脳筋な直接攻撃で攻めてこない事だけは確かだ。

 まだブルーブーストの効力は残っている。俺はこの素早さを活かす戦略を取る事に決めた。


「あちきの攻撃魔法で死になッ!」


 今度のシーラの魔法は火炎。無数の炎の柱が一斉に地面を伝ってやってくる。かなり早い。逃げられない。俺は体を焼き尽くされた。

 こうして丸焦げになったところで、彼女は勝利を確信する。


「やったわ!」

「いや、よく見ろ」

「え?」


 流石はヌーン。戦況をよく見ている。逆にシーラは何故注意されたのか分かっていないようだ。やがて、焦げたはずの俺の体はすうっと消える。この現象を目にした彼女は目をパチクリさせた。

 そこで、俺は種明かしをする。


「残像だッ!」

「えっ?」


 ブーストでスピードアップしていた俺は素早くシーラの背後に移動して、気絶チョップをかます。この一撃で彼女は昏倒した。俺はそのまま方向転換するとヌーンの目の前に瞬間移動のように超高速移動。

 そこでパンチを繰り出そうとしたところで、彼も白目になって倒れた。


「まだ殴ってないのに」


 どうやら島の廃工場での1件以降、この魔法での攻撃がヌーンのトラウマになっていたようだ。とにかく四天王の内の3人を行動不能に出来て一息ついた俺は、すぐにピンクの戦っている方に顔を向けた。

 すると、そのタイミングでヒュラが倒れる。ピンクも四天王を倒せたみたいだ。


「ブルー、お疲れー」

「おつかれさ……!!」


 お互いの苦労を労っている途中で、俺は四天王とは別の存在の気配を感じる。すぐにその違和感の方に視線を向けると、黒ローブのレイラがまるで始めからそこにいたみたいに出現していた。

 彼女が何をしていたのかと言うと――。


「魔素活性柱? いつの間に!」


 そう、高さ10メートルはあろうかと言う大きくて真っ黒な魔素活性柱を立てていたのだ。俺が柱の存在に気付いたタイミングで周囲の気配が一気に重くなる。柱の機能が発動したのだ。

 異変は地上付近だけでなく、上空の空も曇り始めた。地面も振動しているし、このまま放置すれば何か良からぬ事が起こってしまいそうだ。


 優先順位を考えた俺は、レイラを無視して柱の破壊に走る。ピンクも同じ考えだったようで、既に柱に向かって走り出していた。この瞬間、俺とピンクの思考はシンクロする。

 ほぼ同じタイミングで接近し、同時にパンチを繰り出した事で共鳴力が発生。たったの一発で巨大なオブジェを破壊する事が出来た。


「「やったあ!」」


 俺達は目標を達成出来て喜び、ハイタッチをする。しかし腑に落ちないところがあった。柱を建てた張本人のレイラが無反応だったからだ。

 嫌な予感を感じて視線を彼女に向けると、そのタイミングで更に巨大な圧を背後に感じ取る。山のような重い存在感に振り返ると、そこには重厚な力の塊のような何かが降臨していた。


「今度は、何……?」

「余はルヴァリオ。魔王である」

「ま、魔王……」


 初めて目にした魔王に俺もピンクも動けない。雰囲気だけでも分かる。力の差がありすぎるのだ。背の高さは2メートル程度とヒュラよりは低い。なのに、その全身から溢れ出る闇のオーラは桁違いだった。


「フン!」


 魔王ルヴァリオは有無を言わさずに俺達を殴り飛ばす。甚大な肉体的ダメージも受け、上空何百メートルと高く飛ばされた俺はそこで気を失った。



 激しく地面に叩きつけられた俺が目覚めた時、空の色が紫色になっている事に気付く。どうやら舞鷹市は謎の世界に転移してしまったらしい。もしかしたら、ここが魔界なのかも知れない。

 俺はこの事実をすぐには受け入れられなかった。一体これからどうしたらいいんだ……。

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