舞鷹市最終決戦

第62話 誠、体調を崩す

 その後、何事もなく1月は過ぎていった。ダメージを受けまくった四天王が動かないのは分かるものの、あの時気配を感じたレイラですらその後は全く姿を見せない。小さな活性石も、壊し尽くした後は全く反応が見られない。これで感知出来る全ての悪巧みを潰せたようだ。

 ただ、その割には何かスッキリしなかった。四天王も逃げて行ったし、レイラは見当たらないまま。つまり何ひとつ確証がないと言うのが大きいだろう。俺達は人間になった四天王すら見つけられていないのだから。


 そして、1月は冬の本番だ。活性石を壊したからってそれは変わらない。寒さのピークは1月の下旬。その寒さが俺を翻弄し、流行病の流行に抗えなかった。簡単に言うと風邪をひいてしまったのだ。一晩で治らなかったのでインフルエンザかも知れない。体温計も見た事のない数値を表示しているしな。

 俺が寝込んでいる間に、気がつけば2月になっていた。


「全く、あーしがいなかったらあんたは悲惨な事になってたよ」

「ごめん、ミーコ。世話をかけるね」

「だからすぐに病院行きなさいって言ったのよ。いつも腰が重いんだから」


 俺はミーコに看病されている。彼女がその気になれば、魔法で人がする作業くらいは簡単に出来てしまうのだ。俺は彼女のポテンシャルを甘く見ていた。流石は魔法マスターだぜ。とは言え、治癒魔法で全回復と行かない所がリアルだよな。怪我はそれで治せても病気は別系統らしい。

 今、俺の額には濡らしたタオルが置かれている。ミーコがしてくれたものだ。


「ああ、気持ちいい……」

「あーしは身体の治癒力は高められるけど、そこまでなんだからね。あんまり依存しないでよね」

「ありがとう。すぐに良くなってみせるよ……ゴホッ」

「とっとと寝なさい。寝るのが一番よ」


 ミーコが俺に睡眠魔法をかける。ああ、これこれ。一瞬で寝られるから助かるんだよな。あくびをする間もないよ……。

 そんな感じで役に立たないので、俺はしばらく仁さんの家には行かなかった。行けなかったの言うのが正しいかな。風邪をうつしてもいけないし、完治するまで自宅待機するしかない。



 2月3日。世間では節分と言うイベントで盛り上がる日だ。熱を出す前に節分用の豆は買ってきてある。体力も結構戻ってきたし、豆まきくらいはしようかな。

 そうは思っても体がまだ思うように動かない。室温が寒いし、布団が温かいからだろう。もうずっとこのまま眠って冬眠していたい。


 と、惰眠を貪っているところでインターホンが鳴る。すぐに起きられない俺の代わりにミーコが対応した。一体誰が来たんだろう? 相手が悪質なセールスマンでも、猫が喋ったら腰を抜かすだろうな。

 俺が初めて真紀さんに出会った頃を思い出して笑っていると、聞き慣れた声が部屋の中に入ってきた。


「風邪ひいとんのやろ? 見舞いに来たで!」

「誠さん、大丈夫ですかぁ~?」

「誠君? まだ熱はあるのかしら?」


 なんと、仁さん達魔法少女チームが揃ってお見舞いに来てくれた、これは嬉しい。とは言え、アポなし訪問だ。俺は何の準備もしていない。起き上がろうとしたら真紀さんがそれを止める。


「はいはい。病人は休んでなさい。おかゆ作るから」

「え? 悪いよ」

「ここはあたし達にまーかせなさーい!」


 と言う訳で、俺は真紀さんの好意に甘える事にする。瞳さんは真紀さんについていったものの、問題は仁さんだ。彼は友人の家に着いたらやる事のお約束、部屋の物色をし始めた。

 ヤバい、これは色々といじられる流れだ。俺が寝込んでなければ、アレなブツの発見を阻止出来ると言うのに。


「へぇ、魔導書があるやん。誠は勉強熱心やなあ」

「あ、それあーしが貸してるやつ」

「妖精界由来のやつか! よう読めるな」

「あーしが読めるようにしてやった」

「ほう、流石やなあ」


 なんか仁さんとミーコが意気投合している。彼女が仁さんの行動をコントロールしてくれると有り難いな。病気の時は静かに刺激の少ない時間を過ごしたいもんだぜ。俺は聞き耳を立てながら睡眠の方に集中する。

 その内に、最初は他愛もない雑談だった仁さんの声が急に聞き取り辛くなった。


「で、アレな本とかは?」

「あーしが気に入らない本はみんな捨てたけど?」

「ちょ、嘘だろ?」


 ミーコの爆弾発言に俺は急いで起き上がる。そしてすぐにしゃがみ込んだ。まだ体が本調子じゃないんだよな。

 額に手を当てて休んでいると、仁さんがやってくる。


「何やりよんや、しっかり休まな」

「そーだよ。あーし達の話を盗み聞きしてんじゃねーし」

「いや、捨てたって……」

「あーしが気に入らない本って言ったじゃん。あんたの持ってる本で気に入ってないやつはねーから」


 俺はミーコの話した落ちに気が抜けてしまった。やっぱり話は最後まで聞かないとダメだな。

 仁さんが豪快に笑う中、俺はもう一度布団に入り直す。そのタイミングで瞳さんがおかゆを運んできた。


「えっと、一緒に台所に行ったら何故かボクが作る流れになっちゃって」

「あ、有難う。食べるね」


 俺は運ばれてきたおかゆを口に含む。正直おかゆを食べ慣れていないので、これが正解なのか特別なのか、凝っているのか手抜きなのか、そう言うのは全く分からない。正直に言えば、不味くはないけど美味しくもない感じだ。

 ただ、感想を求める瞳さんの眼差しを感じて、俺は笑顔を意識した。


「うん。美味しい。有難う」

「ね? 言った通りになったでしょ」


 ここで真紀さん登場。彼女は何故か腕を組んで胸をそらしていた。どこのラーメン屋さんの店主かな? そのドヤ顔から言って、何らかの意図がある事は容易に想像出来た。そんなフラグはへし折ってやるぜ。

 おかゆを食べた後はそのまま全員帰るのかと思ったら、何やらみんなで話し合っている。お見舞いの動機が様子見と病気を早く治して欲しいと言うのなら、大人しく寝かせてくれるのが一番なんだけどな。


 話し合いはしばらく続き、俺は眠気も襲ってきたので自然の欲求に従う事にした。目が覚めたらもうミーコだけになっていたならいいな。熟睡出来ればそうなっているかな。


「……じゃあ、やろっか」


 意識が遠くなりかけた頃に、ミーコの気になる声が耳に届く。次に聞こえてきたのは、お馴染みのあの掛け声だった。


「「「鬼はー外!」」」


 そして、豆を投げているような音。


「「「服はー内!」」」


 またしても、豆を投げるような音。ちょっと待って。まさか俺の部屋で豆まきを? その後も節分の儀式は続き、寝てる場合じゃなくなった俺は無理やり起き上がった。そうしてすぐに周囲を確認する。既に寝室はもぬけの殻だ。床を見ると煎り大豆が散らばっている。

 俺は聞こえていた音情報が間違いでなかった事に愕然とした。


「マジで?」


 耳を澄ますと、豆まきチームはリビングで儀式をしているようだ。このままだと家の中が大豆だらけになる。この迷惑行為を止めるため、俺は気力を振り絞って起き上がった。


「瞳さんまでこんな悪ノリに乗っかるなんて……」


 俺はパジャマに半纏を羽織ると、豆まきを止めるために動き始めた。リビングに向かったところで、待ち構えたみたいに3人から豆をぶつけられる。


「「「鬼はー外!」」」

「いや何でだよ!」


 キレたところで、仁さんと真紀さんはアハハと笑う。流石に瞳さんは申し訳なさそうな表情だ。俺はこの蛮行を許したミーコを探す。部屋の周囲を見渡していると、彼女は真紀さんの足元にいた。

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