第61話 無数の小さな活性石

 半径15メートルほどのクレーターの中心にいたガドリスは、ゆっくりと起き上がる。ダメージは与えたものの、致命傷にはなっていないようだ。

 後方支援系のヌーンとシーラも同じくひっくり返っていたものの、こちらもよろよろと起き上がってきていた。


「こ、このくらいで小生はくじけぬよ」

「あちきの自慢の肌を焼くなんて……絶対に許さないんだから」


 俺はかつての疲れきった四天王の姿と比較して、今のこの強さに違和感を覚える。もしかしたら何らかの条件でバフがかかっているのではないかと。

 その時、背後にそびえ立つ活性柱の存在に気付く。


「これかーッ!」

「や、やめろー!」


 ヌーンの止める声を背後に聞きながら、俺は魔素活性柱を破壊する。その途端、四天王は全員その場に前のめりにバタバタと倒れていった。

 ドーピングが切れて一気に副作用が襲ってきたみたいな反応に、俺達は唖然とする。


「くそっ、覚えていやがれ……」


 ヒュラはお約束の捨て台詞を残して消えていく。残りの3人も同様に消えていった。倒した訳じゃない、逃げたんだ。俺はピンクと顔を見合わしてうなずきあった。


「ありがと、柱を壊してくれて」

「これで終わったならいいけど……」


 瞳さんからの新しい情報も来なかったので、俺達は一旦仁さんの家に戻った。それからはもう何事も起こらなかったので、夕方には解散する。

 翌日、仁さんの家にやってきた瞳さんは、俺達に向かって真剣な表情を見せた。


「昨日あれだけ柱を破壊したのに、何故天候が回復していないのでしょう?」

「確かに、街に漂う瘴気の濃度はあまり変わっていない気もするね」


 マルも現状に疑問を抱いている。とは言え、この謎はすぐに答えが出るものではない。ここは実行班の俺達でなく、調査班の彼女達に頑張って分析をしてもらわないと。

 そうして、瞳さん、真紀さんにマルも加わって、しばらくシンキングタイムが続いた。


 ここで、チャイナドレスを着た真紀さんがポンと手を叩く。


「もしかして、柱って色んな種類があるんじゃない? きっとそれぞれに効果が違うのよ。舞鷹市の地場を狂わせているのは別の種類のものじゃないかしら?」


 彼女は自分の説を確認するために占いを始める。同じ結果になったなら、この推理は正しいと言う事になるのだそうだ。

 テーブルの上に規則正しく並べたカードをめくっていった真紀さんは、自説の正しさをその結果から証明した。


「うん、瘴気を発しているのは柱よりもっと小さなやつね。それこそ、最初に破壊した魔素発生石、あれより小さいくらいのサイズみたい」

「じゃあそれを早速探してくれへんやろか。ワシらが壊しに行くけん」

「任せて」


 こうして真紀さんが占い、瞳さんが精査して、いくつかの候補地が割り出される。俺達は指定された場所の現地調査だ。封印石の確認はマルが行う。仁さんが彼を肩に乗せてそれらの場所に向かうと、現地には似たような石がたくさんあった。俺にはどれがそれなのか分からない。

 周囲には人の気配がなかったので、マルが降りて石の調査をする。俺達は邪魔が現れないようにボディーガードをした。


「これは、偽装工作もされてるね。反応がぼやけてる」

「分からへんのか?」

「すごくじっくり見ると分かるけど、疲れるし時間がかかるね。こににはざっと30個以上の石があるけど、全部を綿密に調べると丸一日はかかるよ」


 魔法感知能力の高い妖精でそれと言う事は、偽装工作のレベルの高さをうかがわせる。あの四天王ではそんないい仕事は出来ないだろう。となると、これを仕掛けたのはレイラと言う事になる。彼女ならそのくらいの事はしそうだなと俺は1人納得した。

 しかし、ひとエリアで1日かけていたのでは、全ての活性石を探し出すのにどれだけかかるやら。調査班が導き出した場所は20ヶ所近くもあるのだ。


 今回のマルの調査は12個めの石で止まる。疲労がピークに達したらしい。


「ゴメン、今日はもう無理……」


 結局本物の活性石を見つけ出せずに俺達は戻ってきた。一番悔しいのはマル本人だろう。俺はかける言葉も見つからず、ただ背中を撫でるばかり。


「有難う誠。この対策は考えておくよ」

「明日はミーコを連れてくるよ」

「いや、あいつはこう言う面倒なのが嫌いなんだ。連れてこない方がいい」


 俺はその様子を想像して吹き出した。ミーコの不機嫌な顔がすぐにイメージ出来る。そう考えると、連れて行かないのが正解と言うのも分かった。

 俺がマルを慰めていると、仁さんがホットココアを持ってくる。


「今日はお疲れさん。石の事はマルに考えがあるみたいやけん、任せよや」

「ですね。じゃあ、これ飲んだら帰ります」

「おう、しっかり休むんやで」


 こうして、色々と丸投げをして俺は自分の家に戻る。留守番のミーコが遅いと怒っていたので、なだめるのが大変だった。最近は刺し身でも誤魔化せないから困る。今の彼女のお気に入りはコンビニスイーツなのだ。


「あーし、ストロベリーパフェが食べたい。パフェ食べないとこの爪が何を引っ掻くか分かんない」

「分かったよ、買ってくるよ」

「なる早でおねがーい」


 まだ500円以内のもので済んでいるからいいけど……これ以上グレードアップしないようにと願いながら、俺はご所望のものを買って戻る。ミーコは満面の笑みを浮かべながら、ぺろりとパフェを平らげた。

 本当、手のかかるお姫様だぜ。可愛いからいいんだけど。


 翌日、仁さんの家に行くと、マルが魔法の杖のような不思議な道具を作り上げていた。仁さんがそれを振って使い心地を確かめている。


「これな、封印石を判別する魔導具なんやと。マルが一晩で作ってくれたんや」

「すごい。マルやるじゃん」

「性能の試験は昨日の場所でやろう。うまく動けばかなり効率的に探し出せるよ」


 こうして、俺達は昨日の場所に向かって早速杖を振る。杖の反応からひとつの石を割り出し、マルが確認。すぐに本物判定が出た。


「この石だよ」

「よっしゃ、任せとけ」


 仁さんが石を破壊すると、街の空気が少し軽くなった。本物を破壊した手応えを感じて、俺達はハイタッチ。その後もこの調子で次々に石を壊していく。その度に空が少しずつ澄み切っていった。

 調査で見つかった最後の石を破壊したところで、俺はレイラの気配を感じ取る。


「仁さん、俺、ちょっと用事を思い出しました」

「おう、後は任せとけ」


 2人で追いかけると気付かれて見失ってしまうと思った俺は、単独で行動を開始する。人間の姿より魔法少女になった方が素早く動けるし、認識阻害効果も尾行に役立つと考えた俺は、走りながら変身した。

 俺が感じ取ったレイラの気配はどれだけ走っても縮まらない。パワーアップしたはずなのに、どうして追いつけないのだろう。まるでいたずらっ子にからかわれているみたいで、ふと気が付くと彼女の気配は幻のように消えていた。


「嘘だろ?」


 俺は狐につままれた気分になってガックリと肩を落とす。一体レイラは何を目的に動いていると言うのだろう。1月の冷たくて鋭い風が俺の頬をなでていく。言葉に出来ないような不安が、俺の心の中を吹き抜けていった。

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