第59話 初詣の神社に活性柱

 除夜の鐘を撞く列は長くなっていて、俺達は最後尾につく。夜の空気に鐘の音が響いていくのを聞くと、もう今年も終わるんだなと実感した。


「今年も色々あったけど、終わると早かったのお」

「あたしのメンバー参加も大きかったんじゃない?」

「ああ、真紀の活躍は大きかったで」


 並ぶ順番で仁さんと真紀さんが前後になったのもあって、ここでも2人の会話が弾む。俺の後ろには瞳さんがいるものの、会話のきっかけが掴めずにお互いに無言のままだ。気がつくと自分達の番になっていた。


「さて、今年最後の鐘撞き納め!」


 ゴォーンと言う鐘の音が体にも心にも心地良い。その後はみんなで賽銭を入れて今年の祈り納め。手を合わせると神聖な気持ちになるのは何故だろう。心がクリアになったところで、今度は神社へと向かう。隣り合っているからすぐそこなんだけど。

 神社もまた多くの人が集まっていて、甘酒を振る舞ったりしていた。深夜ですっかり体が冷えていたので、温かい甘酒が嬉しい。仁さんは貰った甘酒を一気飲み。


「ふあ~生き返るのう」

「甘酒一気飲みする人、初めて見た」

「こう言うんは勢いやろ」

「そうよお、こう言うのは好きに飲めばいいのよお」


 真紀さんも割と早く飲み干したようだ。この2人、馬が合うのも分かる。俺は猫舌なのもあって、ちびちびと喉に流し込んでいた。じんわりと体の内側から温まってくる感じがする。瞳さんも割りとスローペースで飲んでいた。

 その内にカウントダウンが始まる。俺が飲み終わるとほぼ同時に新年が明けた。周囲では、それぞれに新年の挨拶が交わされ始める。


「あけましておめでとうございます」

「おめでとさん」

「あけおめ~」

「ハッピーニューイヤーッ!」


 毎年の事だけど、この瞬間ってやっぱりいいな。今年がどんな年になるかなんて分からないのに、年が明けたこの瞬間はみんな明るい一年を思い描いている。多分、今だけは日本全体が明るい期待で包まれているんだ。

 俺達は初詣の列に並び、今年一年の幸福を願う。他の人は何を願っただろう。それぞれの人の願いが叶うといいな。


 祈りを終えた俺達は開運グッズを買ったり、おみくじを引いたり。神社参拝のお約束を踏襲する。俺の引いたおみくじは『末吉』だった。


「まぁ、こんなものか」

「あたしは大吉だったわよ」

「ワシも大吉やなあ」

「揃って大吉? すごいですね」


 仁さんも真紀さんも最高の結果が出て上機嫌だ。いそいそとおみくじを結びに行く2人の背中について行きながら、俺はふと振り返る。


「瞳さん?」

「ボクはおみくじ持って帰ります。結果も帰ってから見るので」

「そうなんだ。それもいいね」


 おみくじの結果も分かって朝までは暇になる。と言う訳で、俺達は一旦仁さんの家に戻った。今日は初日の出の後での解散なので、眠くならないように仁さんがコーヒーを淹れてくれた。


「ブラックにするから、ミルクと砂糖はそれぞれで入れてや」


 仁さんと俺はブラックのまま、真紀さんはミルク追加、瞳さんは全部入れ。日の出が7時20分くらいなので、地元の日の出の名所への移動時間も考えて6時に出発になる。それまでの空き時間の潰し方は雑談がメインになった。まぁゲームもしたりしたけど。

 仁さんが古めのゲーム機を引っ張り出して、すごろくゲームで盛り上がる。時間はあっと言う間に過ぎていった。


「じゃあ、そろそろ行こか」


 真紀さんの運転で地元の展望台の近くの駐車場まで移動。そう、ここは俺達が初めて魔素活性石を見つけた場所だ。初日の出の名所のひとつなので、既に多くの人が集まっていた。初日の出を見るベストポジションはもう空いていない。そこは早く来た人の特権だよな。俺達は遅かったからしゃーない。


 俺達は展望台に登って空いている場所に陣取る。ベストな場所でなくても視界は絶景だ。寒い中待っていると、時間になっても初日の出は昇ってこない。厚い雲が海上を漂っていて、日の出を塞いでいるのだ。


「毎年の事やけど、今年も素直には拝ませてくれんのう」

「後30分くらいっすかねえ」

「さむーい。雲吹き飛ばしたーい」

「待っていたらすぐですよ、真紀さん」


 ちょうど30分後、太陽が雲の上に顔を出す。その瞬間、この場所に来ていた人々全員が手を合わせた。いつもと同じ日の出のはずなのに、今日は特別に神聖な気がする。そこからは撮影タイムだ。カメラやスマホでのシャッター音が鳴り響く。

 太陽がしっかり空に昇りきる頃には、多くの人が展望台から降りて行ってしまっていた。


「じゃあワシらも帰るか。みんな、今年もよろしゅうな」

「こちらこそよろしくお願いします」

「よ、よろしくです」

「よろしくね~ん」


 こうして俺達の二年参りは終わり、惰眠をむさぼる寝正月が始まった。まぁ他の人がどう過ごしているのか分からんけど。世間はお正月でも四天王がカレンダー通りに休むとも限らんし。いつ何が起こるか分からんから、旅行とかは行けんのよな。だからみんな一応市内にはいるんだろうな。

 流石のミーコもお正月はのんびりまったりとしてくれた。やっぱ正月早々トレーニングってのもなあ。おせち的なものはスーパで買ったやつを並べたんだけど、彼女は特に栗きんとんが気に入ったようだ。


「これ美味しいじゃない。全部あーしに寄越しなさいよね!」

「はいはい、姫様の仰せの通りに」


 1月2日までは終始そんな感じでのんびり過ごしていたのだけれど、3日の朝食後になって突然ミーコが俺を急かす。


「初詣に行くよ! 準備して」

「初詣はもう行ったよお」

「あーしはまだ行ってない! 連れてきな!」


 あんまりうるさいので、俺は姫様のわがままを聞き入れて外出する事になった。行き先は封印石があった神社。もっと近くの神社や有名な神社もあるものの、ミーコのご指名だから仕方ない。


「あの神社こそあーし達に一番縁の深い神社なんだから、最初にお参りに行かなくちゃでしょ」

「なるほど、そうかもなあ」


 俺はミーコを肩に乗せて神社へと向かう。まだ3日なのもあって外を出歩く人は少ない。みんなゆっくりしているんだろうなあ。

 鳥居をくぐり、石段を上がって境内に辿り着くと、そこには真正面に立派な本堂とその脇には大きな何かがあった。その正体をミーコは一瞬で見抜く。


「あれ! 魔素活性柱!」

「何で?!」

「とにかくぶっ壊すよ!」


 俺はすぐに変身してダッシュで柱の前まで駆け寄る。その勢いでパンチを繰り出した。魔法粒子を纏わせた一撃は魔素活柱を呆気なく打ち砕き、辺りには粉々になった無数のかけらが飛び散る。

 念のために周囲を確認したものの、他におかしなものはどこにもなかった。そして、以前修復した封印石もそのまま残っている事を確認する。


「ミーコ、他にも魔素活性柱はあると思う?」

「そんなの……あるに決まってんじゃない!」


 ミーコが自信満々に答えたので、俺もうなずいて同意する。12月に積もるほど雪が降ったのはきっとここも含む活性柱の影響なのだろう。

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