1月の攻防

第58話 ホワイトクリスマスと二年参り

 12月23日の夜に降った雪は夜の間降り続け、翌日の朝は見事な雪景色になった。地元が雪景色になったのは20年振りと言っていい。冬休みになっていたのもあって、朝から子供達がはしゃぎ、大人達が嫌そうな顔をしている。大人になると分かるんだよな。雪道の厄介さが。

 通勤から開放された俺は高みの見物……も、していられないか。いつ四天王やマーガが街を襲うか分からないのだから。


 雪景色の朝はしっかり晴れたので、半日もあれば雪は溶けてしまうだろう。瀬戸内沿岸部の積雪なんてそんなものだ。白い塊は影の中にあるものだけを残して消えていく。山の上部に積もった雪はずっと残るけど。

 俺は地元の霊峰を眺めながら、ぐいっと両腕を伸ばして背伸びをした。


「さむ~い。早く窓閉めなさいよ」


 ミーコが起き上がったので俺は言う通りにする。さて、朝食の用意でもするか。


 その後は仁さんの家に行き、まったりと過ごす。いや、昨日の今日だし緊張感を持った方がいいのだろうけど……。四天王は結構痛めつけたし、しばらくは何も起こらないような気がしていたのだ。

 俺はこたつに入ってスマホを眺める。足に柔らかい感触を感じたと思ったら、中でマルが丸くなっていた。こたつの中は暖かいものなあ。


「ずっと待機もあれやし、ぜんざいでも食べよか」

「おお、あざっす!」


 家主の仁さんが作ってくれたぜんざい。市販のレトルトしるこを温めて市販の餅を焼いたものを入れただけなんだけど、こう言うのが結構嬉しい。

 俺がぜんざいを食べていると、真紀さんもやってきた。コートを脱ぐと、中東の占い師のようなコスチュームが現れる。その衣装を観た俺は、すぐに初めて彼女と出会った時の事を思い出した。


「あっ! それ……」

「そう、原点回帰ね」

「寒くないんですか?」


 その薄着っぷりを心配すると、真紀さんはドヤ顔でピースサインを出す。


「そこは気合っしょ!」

「無理しないでくださいね」


 占い師の衣装はどう見ても夏服だ。足はふわふわのパンツだけど通気性が良さそうだし、腕も肩より先のシースルー袖は防寒性を全く感じない。雪国の女子高生みたいな気合、彼女なりのプライドなのかな? ただ、やはり寒さには勝てないようで真紀さんはブルブルと震えながらこたつに潜り込んだ。

 そのタイミングで仁さんがぜんざいを持ってくる。


「外寒かったやろ。まぁ温まってや」

「ありがとう」


 その後、真紀さんも基本まったりと過ごす。何事も起こる事なくクリスマスイブの昼間は過ぎていった。日が暮れて暗くなりかけた頃、真紀さんはポツリとつぶやく。


「イブ、2人共ぼっち?」

「ミーコがいるよ」

「マルがおるな」

「あはは、そっかそっか」


 巻さんはひとしきり笑うと、何かを言いかけて終わる。そうしてまたコートを羽織って帰っていった。俺達は彼女が何を言いたかったのか分からず、顔を見合わせる。


「お互い、あんまりクリスマスっぽくないですね」

「魔法少女が片付いたら、お見合いでもしよかな」

「そう言う話あるんですか?」

「いや、今はないんやけどな……。でもマッチングアプリとかよりはええやろ」


 仁さん、実家は裕福そうだし、今からでも何とかなりそうな雰囲気はある。何となく見えない格差を感じた俺は、この話題をサラッと流して、家に帰る事にした。


「暗くなってきたんで、俺も」

「おう、気をつけて帰りい」


 帰り道、また空から雪が降ってくる。2日連続とは珍しい。家に戻って買い置きしていたスポンジケーキに生クリームを塗りたくってケーキを作る。最後にいちごを乗せて完成だ。個人的なクリスマスケーキはこれで十分。それを夕食後にミーコと2人で分けて食べた。


「これで十分美味しいわね。うまうま」

「しかし今夜も雪が降るとはなあ」

「ホワイトクリスマス。ロマンチックじゃない」

「でもこれってやっぱり異常だからな……」


 俺は窓を開けて降り続ける雪を眺める。冷気が入り込んでまたミーコが不機嫌になったので、実質10秒ほどで閉めた。降雪する光景は幻想的にも感じられて悪くなかったけど、誰かが意図的に降らせていると思うと軽い恐怖も覚えてしまう。

 クリスマス当日の朝も雪は残り、またその日の内に溶けていく。結局この日も四天王側の動きはなく、一日はあっと言う間に過ぎていった。


「このまま何も起こらへんのやったら、3が日まで休みにしよか」


 そう仁さんが宣言したのが12月27日。翌日からは休みと言う体になった。それまでもマーガなどの動きがない場合は待機をしていたから、何が変わったのかと言えば、仁さんの家に行かなくなったと言うだけ。

 これで惰眠を貪れると開放感に浸っていたら、ミーコが休みの間のスケジュールを勝手に決めていた。


「休みだからトレーニングメニューをしっかり増やしたから」

「何でだよっ!」

「サボるとすぐに力が衰えるからに決まってんでしょ!」

「うへぇ……」


 こうして、俺は普段より濃厚な日々を過ごす事になる。年末までトレーニングに新年を迎える準備にと忙しくしていると、あっと言う間に時間は過ぎていった。

 年越し蕎麦も食べ終わった大晦日の夜、俺は仁さんの家に向かう。二年参りに誘うためだ。


「おう、みんな来とるで。全員で行こか」


 仁さんの家に顔を出すと、そこには瞳さんと真紀さんが。と言う訳で、魔法少女チーム全員で出かける事になった。真紀さんはお約束の巫女さんのコスプレをしている。本職が占い師だし、そう言う意味では絶妙に似合っていた。


「真紀さん、巫女さんのバイトとかしてたんですか?」

「フフ、よく分かったわね」

「着こなしが様になってますし。あ、でも初詣にその格好で行ったら巫女さんが抜け出したって誤解されちゃうんじゃないですか?」

「その時は紛れてバイトしちゃかも」


 どうやら真紀さんはハプニングを楽しむタイプらしい。そこから仁さんが話に割り込んできて、俺は聞き役に回る。大晦日の深夜、地元はとても静かだ。まるで、新しい年が生まれるためにはこの静寂が絶対条件みたいに。

 俺はふと、この夜の気配に溶け込みすぎた瞳さんの方に視線を向ける。


「大丈夫?」

「え? 大丈夫ですよ。しっかり暖かくしてますし」

「二年参りって初日の出を見るまでがセットになってたりするし、俺は初日を拝んでから帰るけど、瞳さんは初詣の後はすぐに帰る?」

「あっ、つきあいます!」


 食い気味に返事を返されて、俺はちょっと焦った。彼女の方が若いし、徹夜への耐性はありそうだ。俺はもうキツイけど……トホホ。

 そんな感じで瞳さんとの会話を続けていると、真紀さんが口を挟んできた。


「真姫ちゃん、イブの夜はどうしてたの?」

「え? ずっとバイトしてました。忙しかったです」

「なーんだ。つまんなーい。でも忙しかったのなら他に何もする気は起きないか」

「ええ。バイト終わったらすぐに寝ました」


 真紀さんが何を聞きたかったのか分かり、俺は口をつぐむ。この調子だと俺達にも聞いて回る感じになりそうだったからだ。

 ただ、結局危惧した流れにはならなかった。目的地のお寺に着いたからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る