第57話 対決! 四天王!

 瞳さんが見つけ出したポイントに向かうと、そこには全長が10メートルを超えていそうな立派で不気味な柱がどーんとそびえていた。それを目にしたピンクがポツリとつぶやく。


「これは……魔素活性石と言うか、魔素活性柱ね」

「こんなデカいのがあったら、そりゃ空気も悪くなるよ」

「じゃあ、壊すよ!」

「いや、壊させない」


 俺達が柱を壊そうとしたところで、お約束のように四天王が現れた。しかも4人全員勢揃いだ。その代わり、マーガはいない。シーラのお気に入りの虎マーガもいなかった。

 この幹部勢揃いの状況に、ピンクが不敵な笑みを浮かべる。


「ついに全員が勢揃いしたわね。まとめて地獄に送ってあげる」

「俺様達を前にえらい自信だなあ。ちょっと服を着替えたくらいで、もう勝ったつもりか」

「うん、そうだけど? 早くかかってきなさいよ」


 そのあまりに不遜な態度に、俺の方が心配になる。本気を出した四天王は1人でも相当厄介なのはピンクだって知っているはずだ。いくら新しい指輪に換装したからって、その差が簡単に埋まるとは思えない。

 俺が彼女の意図を確かめる前に、キレた四天王がいきなり襲ってきた。俺は咄嗟にステッキを振る。


「マジカルアンブレラ!」

「グゲッ!」

「アウッ!」


 俺の方に向かってきたガドリスとヌーンは、魔法の傘に弾き飛ばされてダメージを受けている。普通の状態だったらリザードマンのガドリスはともかく、ヌーンは警戒して引っかからなかっただろう。その意味でピンクの作戦は成功したと言える。

 俺がすぐに視線をスライドさせると、ヒュラとシーラの攻撃を避けているピンクの姿が目に入る。あの2人も相当の実力者だと言うのは見て分かるものの、パワーアップしたピンクはその2人を手玉に取れるくらいスピードが上がっているのだ。


「このっ! このっ! 何で当たらないの! イライラする!」

「俺様の攻撃が全て見切られるだとォ?!」

「ハイハイ四天王さん、手の鳴る方へ~」

「絶対に潰す!」


 あの様子だと加勢する必要はなさそうだ。俺が弾いた2人はまだ伸びている。今がチャンスだと、俺はステッキを魔素活性柱に向ける。


「マジカルブルースぐあっ!」

「破壊はサセナイ!」


 背後から攻撃を受けた俺はその場に倒れ込む。声からしてガドリスが何かをしたのだろう。しかし、新コスのお陰でダメージは少ない。俺はすぐに起き上がろうとして、強い頭痛に襲われた。


「あ、頭があああ!」

「馬鹿め! 小生の毒で今度こそお主を再起不能にしてくれる」

「何故、最初に使った時はそれをしなかった……?」

「お主なぞ障害にすらならんと思っていたからだ。だが、もうお主らは完全に小生達の敵。容赦はせぬ!」


 ヌーンは毒魔法の使い手のようだ。くそっ! 頭痛と共に意識まで遠くなってきた。前にこれをやられた時は数時間で毒は抜けたけど、今度の攻撃は本気だ。流石の新コスも毒には未対応らしい。こんなの、ゲームなら毒消しの呪文ですぐに治るのにな。

 毒で弱っている姿を目にしたからか、ガドリスからの追撃はない。ヒュラ達の加勢に行くつもりだろうか。


「ヌーン、オデ、トドメ刺していいか?」

「まぁ待て。何もしなくてもコイツはくたばる。苦しむ様を見届けてやろうではないか」

「それもいいな、アハハ」


 どうやらヤツらは俺が苦しむ様子を楽しんでいるらしい。何とも悪党らしい悪趣味な言動だ。それだけヌーンの魔法は絶対的な信頼があるのだろうな。

 俺は遠くなる意識の中で、解毒魔法を思いつかないか必死に考える。基本的に、新しい魔法は直感での閃きか魔導方程式の計算結果から導き出されるのだ。隙間時間に魔導書を読み込んでいたせいか、俺の脳内で超高速で計算式が展開されていく。


「フルリフレーッシュ!」

「何……だと……?」


 俺は死ぬ気で解毒魔法を開発して復活。すぐにステッキを構え直した。


「マジカルブルーブースト!」


 この魔法はステッキを粒子分解して体にまとわせる事で、光の速さで動けるようになると言うもの。以前は意識的に攻撃する事が出来なかったものの、新コスになった事で自分の意志で攻撃が可能になった。

 ヌーンもガドリスも俺が復活した事に意表を突かれたようで、体の動きが硬直している。今なら攻撃し放題だ。俺はまず近くにいるガドリスに狙いを定めた。


「オラオラオアラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

「グボワラアア!」


 身長2メートル近いトカゲ男が、俺の連打アッパーで高さ10メートル近くふっとばされて地面に激突する。手応えはあった。すぐには動けないだろう。俺はその顛末を見届ける前に視線をヌーンに移す。

 ヤツはこの魔法にトラウマがあったのか、顔を青ざめさせていた。


「やめろ……その魔法はやめろ。小生にその魔法は……」

「オラオラオアラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

「ギャビエエエエッ!」


 ヌーンの頼み事を無視して俺はヤツも連打しまくってやった。ヤツは情けない叫び声を上げてガドリスの隣に落下。もうこれで俺の邪魔は出来ないだろう。視線を移すと、ピンクはまだ楽しそうに鬼ごっこを続けていた。

 まだブーストの力が残っていた俺は、光の速さで魔素活性柱をパンチ一発でぶっ壊す。呆気なく粉砕出来たので、とても気持ちが良かった。


 その様子を目にしたヒュラの足が止まる。


「ああっ! なんて事を!」

「ヌーンとガドリスは何を……倒されてますわっ!」


 自分達の不利を悟った四天王はすぐに倒れた2人の周りに集まり、地面に沈んでいく。恐らく転移魔法だろう。魔素活性柱を破壊出来たので俺達の勝利だ。

 四天王が姿を消したところで、ピンクが俺のもとにやってくる。


「やったじゃん!」

「イエーイ!」


 俺達は勝利を祝ってハイタッチ。不安要素もなくなったので帰路についた。仁さんの家の前まで来たところで雪が降ってくる。俺はその光景を見て目を輝かせた。


「雪! 雪降ってきましたよ!」

「まぁどうせ積もらずに止むやろ」

「仁さんは夢がないなあ」


 いつまでも雪を眺めていても仕方ないので、俺達は中に入る。すると、室内は綺麗に飾り付けがなされていた。テーブルの中央にはホールケーキが鎮座している。

 この状況に少し驚いていると、ミニスカサンタの真紀さんが景気よくクラッカーを鳴らした。


「四天王撃破おめでとう! 今日は戦勝祝いでクリスマス会をしましょ」

「いやこれ戦勝関係ないよね? クリスマスが近いからのクリスマス会だよね?」

「まぁええやん。楽しもや」


 こうして俺達はクリスマス会で健全に盛り上がる。ピザを食べたりケーキを食べたり歌を歌ったり。最後にはクリスマスプレゼントとかも貰ってしまった。俺、何の用意もしてないよ?


「いいのいいの。サプライズだから受け取って」


 真紀さんから渡されたのは、名探偵ジャスティスがプリントされたマグカップ。前から欲しかったので地味に嬉しかった。一体いつ俺の好みをリサーチしたんだろう?

 クリスマス会が終わった頃、瞳さんが不安そうに窓の外を眺めている事に気付く。


「どうしたの?」

「見てください。雪が……」

「あ、積もってる」

「12月にこの辺りで雪が積もるなんて今までになかった事ですよ。おかしくないですか?」


 舞鷹市は温暖で、ここ20年は雪が積もっていない。それを考えると確かに不気味な気はする。まだどこかに魔素活性柱があると言うのだろうか?

 瞳さんの言葉を聞いて、俺もこの雪景色を素直に喜べなくなっていた。

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