第56話 指輪がパワーアップ!
彼女はマーガをさすって心配そうにしている。俺はシーラがすぐに怒りで暴走すると考え、ステッキを強く握りしめて反撃に備えた。
しかし、そのような事にはならなかった。彼女は虎マーガを魔法で何処かに転移させると、俺の顔を見てニヤリと笑ったのだ。
「そこそこに強いじゃない。じゃあまたね」
「待て! お前達の目的は何だ!」
「あちきは見極めたかっただけ。あんた、見た目と中身が違うでしょ」
俺はこの問いかけに答えられなかった。そして、返事を考えている内にシーラもすっと姿を消していく。きっとアジトに戻ったのだろう。
この一連のやり取りで、四天王側も俺達の正体を探っている事が分かった。まだ具体的にはバレていない感じだけど、今後はもっと慎重に動いた方がいいのかも知れない。
敵の気配が完全に消えたところでピンクがやってくる。俺はすぐにこの場で起こった事を話し、対策を考えるためにすぐに仁さんの家に戻ったのだった。
俺は瞳さんに連絡してみる。情報共有が必要だと思ったからだ。ちょうど時間が出来ていたと言う事で、彼女も仁さんの家に来てくれる事になった。しばらく待って全員が揃い、早速作戦会議が始まる。
まずは、今の四天王の動きについて俺から説明した。
「ヤツらは俺達の正体を探っている。それが今回のバトルで分かった。今のところは魔法少女の正体が少女でない事までは見抜かれている。それ以上の事を掴まれているかどうかは分からない」
「敵も考える事は同じと言う事やな。ワシらの正体がバレたらここも危ないのう」
「そこは大丈夫だと思うわ。危険の兆候は見えないもの」
「で、でも、警戒は必要だと思います」
俺達人間組がこれからの事を心配しつつ今後の事を話し合っていると、マルがしたっとテーブルの上に乗ってきた。
「認識阻害の魔法は生きている。魔族だって簡単に破れはしないよ」
「それは完璧なものなんか?」
「破られるとしたら、仁、君達の正体が完全にバレた時だ」
「あーし達の力を信じなさいよ。こう見えても妖精界の超エリートなのよ!」
「クフフ……あのミーコがエリートねぇ」
ミーコが自分の力を誇示したところで、どこからか笑い声が聞こえてきた。俺達はその突然の部外者の侵入に周囲を警戒する。
ざわつき始めたところで、マルが必死に訴えた。
「みんな、落ち着いてくれ。この声は敵じゃない」
「ああ、俺は敵じゃないぞ。初めまして諸君。俺はゼル。妖精界の使者だ。今日は君達に女王様からの贈り物を届けに来た」
姿を表したのは白黒ハチワレの喋る猫。どうやら妖精で、マル達とも親交があるらしい。彼は妖精女王からの贈り物を持って来てくれたようだ。
ゼルは魔法を使って俺と仁さんの目の前に宝石箱を出現させる。すぐに中身を確認すると、入っていたのは新しい指輪だった。今使っているのは真鍮っぽい感じのシンプルなデザインの指輪だけど、宝石箱に入っていたのは銀製で細かな装飾が施されている。如何にもマジックアイテムっぽかった。
「これ、パワーアップアイテム?」
「リミッターが外されたマジックリングだ。君達の能力を限界まで引き上げてくれる」
「今までは制限かかっとったんか?」
「ああ、最初は体が魔力に耐えられないからな。もう大丈夫だろうと女王様が判断されたのさ」
早速俺達は指輪を付け替える。装着した途端にものすごく体が軽くなった。その感覚に少し戸惑っていると、ゼルが俺達の顔を見る。
「変身してみなよ。その方がリミッター解除の感覚がよく分かるはずだ」
「分かった」
俺が拳を頭上に上げた途端、ステッキが一瞬で生成される。今まではステッキをイメージして1秒くらいでステッキが出現していたけれど、本当に一瞬になったのだ。
しかも、ステッキを握っただけで魔法少女に変身完了。腕を上げただけで変身出来ると言っていい。この速さは素晴らしかった。
「変身プロセスには認識阻害魔法も同時に展開されるからもう人前で変身しても誰にもバレないぞ」
「そりゃあすげえな」
仁さんが感心する中、俺は別の視点からの変化にも驚いていた。
「衣装デザインも変わってる。より可愛い感じになってる」
「そのデザインを含めての女王様からのサプライズだな」
「おお、これええな。ワシも気に入ったわ」
「じゃあ、俺は帰る。マル、ミーコ、引き続きサポートよろしくな」
ゼルはそう言うとまたすうっと消えていった。本当に指輪を渡すためだけに来たんだな。俺は変身を解くと、またコタツに潜り込む。
「マルはゼルと友達なん?」
「子供の頃からの知り合いだね。よく妹をからかってたんだ」
「あーし、あいつあんま好きじゃない。エラソーだし」
ミーコのお約束通りの反応に俺達は全員苦笑い。それはそれとして、ここに来てのパワーアップは本当に有り難かった。四天王達の暗躍にもこれでストップをかけられるかも知れない。
俺は新しい指輪を眺めながら、これを使う日を心待ちにするのだった。
四天王シーラとの邂逅から、またマーガは現れなくなる。俺達は警戒しつつ魔素活性石の探索を続けた。何の成果も得られないまま、12月も慌ただしく過ぎていく。俺達は焦りつつも、新しい指輪のおかげで心の余裕も出来ていた。
12月も20日を過ぎ、俺達はお世話になっている仁さんの部屋の大掃除する事になる。そこで俺は掃除用具の買い出しに出かけた。
メモに書かれていたものを買い揃えたその帰り道で、前を歩く人とすれ違う。
「もうすぐこの街は魔界に戻る。無駄な足掻きはやめときな」
その声はレイラだった。すぐに振り返ったものの、不思議な事に俺の視界は人の姿を捉えない。そこには誰もいなかったのだ。俺は狐につままれたような感覚を覚えながら、その忠告を胸に秘めて戻る事になった。
元々仁さんの家はミニマリスト並みに物が少なかったのもあって、大掃除は半日で完了。4人揃っていたのも大きかったのだろう。最後の締めで4人でお鍋を食べる事になった。
この時に帰り道で聞いたレイラの忠告を話しても良かったものの、いたずらに不安にさせるのも違うと思い、結局言い出せなかった。それにみんなで仲良く鍋を食べている姿を見て、俺達なら大丈夫だと思えたからだ。うん、絶対に大丈夫だ。
「やっぱり冬は鍋やのう」
「ボク、こうやってみんなで仲良く食べるの好きです」
「あたしも大人数での鍋はすっごく久しぶり。誠君も食べてる? もっと食べなさいよ」
「あ、有難うございます。美味しいです」
こうして、俺達は冬の風情を満喫する。けれど、街全体を包み込む瘴気は消えた訳じゃない。今もじわじわと濃度を増しているのだ。早くこの原因を取り除かねばと、俺は決意を新たにするのだった。
12月23日、いつまでも成果の上がらない魔素活性石探しに瞳さんも参戦する。真紀さんが占い、瞳さんがフーチを駆使して精度を上げるのだ。
このセカンドオピニオン的な作戦がうまく行き、ついに具体的な場所を割り出す事に成功する。
「
「よっしゃ、行こか!」
俺達はこれが本命だと決め打ち、最初から変身して現地へと向かう。白鷺山は街でも有名な登山スポットで、毎日誰かしらが登っている。学校の遠足でも定番なほどの有名な山だ。そんな山に怪しげなオブジェがあったらすぐにでも気付くと思うのだけど……。
もしかしたら、誰にも気付かれないような偽装をしているのかも知れない。
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