第53話 四天王探しのヒントは市民文化祭?

 落ち込む瞳さんを真紀さんが慰める。もしかしたら四天王側も俺達に正体がバレないように何かしらの工作をしているのかも知れない。実はすごく近くにいて、俺達を観察しているのかも……と言うのは考えすぎかな。

 2チームの報告を聞いた真紀さんは、腕を組んで考え込む。


「もしかしたら、何かの時期を待っているのかも」

「ほう」

「陰陽道の術は、時間と方角と場所が揃って初めて効果を発揮するの。四天王がやろうとしているは、そう言う条件が必要な仕組みの何かかも知れない」


 真紀さんは占い師だけあって、おまじないなどにも詳しいようだ。その後もいくつかの仮説を披露している途中で、瞳さんがトイレ離脱する。

 このタイミングでチャイムが鳴った。心当たりがあったのか、すぐに仁さんが確認をしに玄関へと向かう。


「ども」

「おお、来た来た」


 玄関前で待っていたのは宅配便の人だった。そう、ロバート氏だ。無口な彼は必要最低限の言葉を交わして去っていった。一体仁さんは何を注文していたのだろう。

 俺はホクホク顔で荷物を抱えて戻ってきた彼に言葉をかける。


「何が届いたんですか?」

「実家からの仕送り的な? 美味しいものが沢山あるで。みんなで食べよか」


 ダンボールを開けると、お米や野菜や果物などがたくさん入っていた。俺が目を奪われたのはぶどうだ。これってシャインマスカット? すっごい美味しいやつ。地元でも作られていたんだ。知らなかった。

 真紀さんは目ざとく緑で大粒のぶどうを指さして歓喜の声を上げる。


「シャインマスカットがある! 作ってるの?」

「最近作り始めた言よったな。美味いぞ。食うか」

「食べる食べる~」


 こうして、俺達はお茶とシャインマスカットで至福の時間を過ごした。俺は初めて食べるのもあって、一粒一粒噛みしめるように味わう。咀嚼する度にマスカットの酸味や甘さが口の中に広がって、とても幸せな気持ちになった。こんな美味しいものは一気に食べ尽くすものじゃないな。

 トイレから戻ってきた瞳さんも、きれいな緑のぶどうを見て目を輝かせる。


「わ、美味しそうなぶどう」

「これ仁さんちで作ってるんだって。瞳ちゃんも食べなよ」

「はい! 有難うございます」


 真紀さんに勧められて、瞳さんも丁寧にマスカットを口に含み始めた。小動物が大事にごはんを食べているみたいで、その仕草も可愛い。そんな中、割と豪快にポイポイ口の中に放り込んでいた真紀さんは、このマスカットを値踏みする。


「これ、2000円以上のクオリティだ。美味しいよ。すごいね、仁さんち」

「ほうやろ。ガハハ。弟が作っとるんや。今度礼言うとくわ」


 何気ない会話から仁さんの情報が少しずつ開示されていく。大家族なのかな。明るく話しているから家族仲は良さそうだ。仁さんの事も興味はあるけど、自然に話す以上の事は聞かない方がいいか。どこに地雷があるか分からんし。

 俺が3粒くらい食べたところで、もうひと房分がなくなってしまった。仁さんも真紀さんもがっつきすぎじゃね? それとも俺がゆっくり食べすぎた? ま、3粒でもすごく美味しかったからいいか。


 唐突なおやつタイムも終わって一息ついたところで、突然瞳さんが宣言する。


「文化祭。今度の市民文化祭に四天王が来るみたいです」

「視えたの?」

「はい。それで皆さんと楽しく話をしていました。もう知り合っているのかも?」

「ええっ?」


 俺は瞳さんの衝撃発言に驚く。その話が事実なら、人間姿の四天王が見分けがつかないのは本当のようだ。視えたと言う事でそれを絵にしてもらったものの、瞳さんの画力が厳しかったために俺達の記憶との答え合わせは出来なかった。


「ごめんなさい」

「いや、いいよ。文化祭の時に会えるんだろ。それが分かっただけで十分」

「ほうやで。みんなで文化祭に行こや!」


 こうして俺達は次の休日に開かれる市民文化祭に行く事になる。俺がこれを見に行くのは10年ぶりくらいだ。10年も経てば色々変わっているんだろうなあ……。



 市民文化祭、それは街の様々な産業や文化活動をしている所が自慢の作品をを展示する発表会みたいなもの。ぶっちゃけ、興味のない人にはそこまで面白い催しと言う訳でもない。何かしらの市民サークルにでも入ってれば別なのだろうけど。

 俺達は待ち合わせをして全員で現地に向かう。会場の公会堂の1階の入口付近では農作物がずらりと並んでいた。大きなかぼちゃが目立つかな。こう言うのも農家の人が見たら面白かったりするのだろう。


「仁さんはこう言うの見て面白いとか思うの?」

「ん? ワシはそこまで興味ないで」


 どうやら仁さんは自分の家の家業にそこまで熱心に関わってはいないようだ。ここで追求すると地雷を踏むかも知れないので、俺は口にチャックをする。

 ここで壁にかかっていた書道作品を眺めていた真紀さんが振り返って、俺達の顔をじいっと見つめてきた。


「あたし、2階の展示に行きたいんだけど、一緒に行く?」

「ええで」

「2階に何があるんですか?」

「この街の模型。面白そうでしょ」


 真っ青な軍服っぽい服を着た真紀さんはいたずらっぽく笑うと率先して階段に向かって歩き出した。目的なく文化祭にやってきた俺達は彼女の後ろをついていく。四天王探しで周囲に意識を向けていた瞳さんは、ここでワンテンポ遅れた。


「ちょ、待ってくださ~い」


 2階に上がって該当する個室に入った俺達は、有志が作ったこの街の模型をじっくりと観察する。舞鷹市だけを切り取って作られた模型はとても完成度が高かった。真紀さんは顎に手を当てて覗き込むように模型を眺めている。


「う~ん、細かいいい仕事をしているねえ」

「地層も再現してるけど、本当にこんな感じなのかなあ?」

「調査をしている所はその通りだろうけど、そこ以外はロマンでしょ」

「はぁ……」


 以前、真紀さんは舞鷹市が魔界になる的な事を言っていた。もし本当にその通りになったとしたら、どうやって地元の土地が魔界になると言うのだろう。土地がごっそり空間転移するのだろうか? それとも、大地が魔界化するのだろうか? この街全体のリアル模型を見ていたら、色々なイメージが浮かんできて収集がつかなくなる。

 俺が腕を組んで首をひねっていると、瞳さんがポンと軽く肩を叩いた。


「すみません、トイレ行ってきます」

「うん。じゃあ戻ってくるまでここにいるね」


 彼女が模型部屋を出てすぐに、見知った顔が入ってきた。そう、斉藤さん達4人組だ。この時、仁さんも含めた俺達は全員室内の何かしらの展示物を見ていたため、先に気付いちたのは向こう側の方だった。


「おっ、ここで会うとは奇遇だな」

「おお、斉藤さん、おはよう。今日も全員お揃いで」

「はは、まあな。文化祭は初めて来たんだけど面白いな。オススメの展示とかあるかい?」

「いや、ワシらも適当に見とるけん。こっちがオススメ聞きたいくらいや」

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