第54話 文化祭の裏で進む計画
仁さんと斎藤さんが談笑する中、真紀さんと黒百合さんも話をしていた。軍服ぽい服の真紀さんに対して、黒百合さんは秘書っぽいビジネススーツをビシッと決めている。2人共似合ってるなあ。
2人の会話の様子に目を奪われていると、黒スーツでビシっと決めたロバート氏がズイッと現れて俺の視界を塞ぐ。
「あんまりやらしい目で見るな」
「あ、すみません」
元々ガタイがいいのもあって、その圧は人を殺せそうな勢いだ。凄まれたら俺じゃなくても萎縮するだろう。視線をそらすと、木原さんがブツブツと独り言をつぶやきながら値踏みするように室内に集まっている人々を見渡していた。この人の言動も追求しない方がいいんだろうな。
斉藤さん達は俺達と軽い挨拶を交わした後、何事もなかったように部屋を出ていく。まるで展示物自体にはあまり興味がなかったみたいに。
それと入れ替わるように、瞳さんがトイレから戻ってきた。
「すみません。戻りました」
「じゃあ、次の部屋に行こか」
「あたし、今度は地元企業のマシンを見に行きたい!」
「じゃ、そこ行こか」
俺達は真紀さんが興味を持つもの優先で展示物を鑑賞する。その間も瞳さんが目にする人を全て霊視スキャンしていた。周りから見たら、彼女の行動は少し挙動不審に見えていたかも知れない。
俺は廊下を移動中に瞳さんにそっと耳打ちする。
「どう、四天王は?」
「それっぽい人を近くに感じた瞬間はありました。でも断定までは」
「そっか。やっぱりいるんだ」
俺は四天王が文化祭に来た理由を考える。公会堂の敷地内に魔素活性石を建てるための下調べ? けれど、それなら文化祭に合わせる必要はない。四天王以外の誰かとの待ち合わせ? それなら可能性はあるかも知れない。俺達が知っている魔族関係者は四天王とレイラだけだけど、他にも幹部級のやつが復活したとか? いや、普通にレイラと会ってると言う可能性もあるか。
俺はレイラと四天王の関係性を改めて考える。そもそも、レイラと四天王が共に動いているところを見た事がない。敢えて別行動なのか、元々仲が悪いのか……。
「誠さん、大丈夫ですか?」
「え? あ、うん」
瞳さんに声をかけられて、俺は視線を上げる。彼女に心配されるほど調子が悪く見えていたのか……。
今いるのは文化祭の体験実験教室。簡単な科学実験が楽しめる場所だ。仁さんも真紀さんも童心に戻って子供達に混じって実験を楽しんでいる。文化祭らしくていいな。
俺と瞳さんは実験には参加せず、壁に寄りかかって楽しんでいる人達を眺めている。瞳さんは役割があるからだけど、俺は仁さん達と一緒になって楽しんだ方が良かったかな。
と、ここで嫌な感覚が不意に襲ってくる。仁さんも気付いたようだ。俺達はアイコンタクトを取ってすぐに部屋を出た。廊下に出た途端に聞こえてきた人々の悲鳴。やはりこの感覚は正しかったようだ。
「こんな時にマーガかよ!」
「被害が出る前に倒さなあかんな!」
俺達はひと気のない物陰に移動して、魔法少女に変身。大ジャンプと超スピードで騒ぎの元凶の前に立ちふさがった。
「正義と慈愛の魔法少女、ピュアピンク!」
「秩序と博愛の魔法少女、ピュアブルー!」
現れていたのは全長が10メートル近い巨大な蜘蛛のようなマーガ。周辺にはほぼ人はいなかったものの、逃げ遅れている人を発見。その人達を確認すると、見覚えのある4人だった。
俺はすぐにピンクとアイコンタクトを取り、うなずき合う。
「私がマーガの相手をするから、ブルーはあの人達の避難を」
「了解!」
マーガの相手をピンクに任せて、俺は4人のもとに駆けつける。彼らが動けないのは何かしらのトラブルが発生しているのかも知れないと思ったからだ。突然の巨大な化け物を目の前にして、恐怖で体がすくんでいる可能性もある。
その頃、4人はこの状況を冷静に分析していた。自分達が仕掛けたマーガに動揺するはずもない。そして、その目的とは――。
「本当に魔法少女がすぐに現れたぞ」
「くそっ、やはりこの公会堂にいたのかよ」
「……」
「でも見つけられなかったねえ……」
4人は自分達が立てた計画が失敗して落胆しているようだ。巨大な化け物を目の当たりにしても全く動揺していないと言うのは不自然だと言う事を、彼らは全く意識していない。
俺が彼らのもとに向かっている途中で、向こうも気付いたようだ。4人共突然表情を一変させ、びっくりしたような顔になった。
「ここは危険よ、早く逃げて!」
「分かった!」
俺が叫んだ途端、斉藤さん達は急にスイッチが入ったように急いで逃げ始めた。その突然の変化には多少違和感を覚えたけど、とにかくこれで人払いは完了。もう多少暴れても大丈夫だ。
安心した俺が振り返ると、ピンクが蜘蛛マーガに一撃を入れる様子が目に飛び込んでくる。加勢しようとブーツに魔力をためていると、その一撃でマーガは消滅した。
「やっぱ雑魚だったんだ……」
俺は一応ピンクのもとに戻る。俺が戻って来たのを確認した彼女は、肩をすくめて物足りなさそうな表情を浮かべた。
「手応えがなさすぎ。何が目的で出たんだと思う?」
「そんなの分かんないって」
「だよね」
マーガもいなくなったので、俺達はまた物陰に隠れて変身を解く。それでまた文化祭を楽しもうと思ったら、この騒ぎで中止になってしまった。まぁ、仕方がないか。
俺達は真紀さん達とも合流して、そのまま帰る事になった。
「折角の文化祭も台無しになってしもたなあ」
「そうよ。昼からの餅まき楽しみにしてたのに」
「すみません、ボクが四天王を探し出せていたら……」
「瞳さんは悪くないよ、頑張ってたよ。元気出して」
帰り道、俺達は愚痴を言い合ったりプチ反省会をしながら賑やかに歩いていく。仁さんの話に合わせたり、瞳さんを慰めていたその時、俺の直感が顔を山の方に向けさせた。鋭い視線のようなものを感じたのだ。
「いや、まさかな……」
この時、確かに視線を飛ばしている存在があった。その主はあのレイラだ。彼女は誠が感じ取った山の頂上付近で孤独に作業をしていた。その途中で魔法少女の気配を感じて、ずっと公会堂の方を見ていたようだ。
騒ぎも収まり、魔法少女の気配も消えたところで彼女は作業を再開する。何をしていたのかと言えば、四天王が作ったオブジェなんかよりももっと立派な石柱、言うなれば『魔素活性柱』を建てていたのだ。
「これでヨシ!」
レイラは完全に固定化した柱に触れる。すると、柱に埋め込まれたいくつかの水晶球が人間には見えない光を発し始めた。正常に稼働したそれを見て、彼女は満足そうに微笑む。
そうして、レイラはこの場を去っていった。
――帰り道に誠が感じ取ったのは、正確にはこの活性柱が稼働した事による違和感だった。しかし、結局彼はこの違和感の正体に気付く事なく、自分の感覚を気の所為だと断定してすぐに忘れてしまう。
活性柱の稼働により、舞鷹市の空気が少し重くなる。けれど、それに気付く者は誰ひとりとしていなかった。
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