市民文化祭を楽しもう

第52話 四天王の思惑と特異点探し

 ――市民運動会が終わった翌日、四天王が暮らすシェアハウスでは、4人全員が本来の姿になってくつろいでいた。特注の大型ソファにどっかりと座った大男のヒュラはかなり上機嫌になっている。


「運動会、楽しかったなあ」

「いや、楽しんでどうする。本来の目的を忘れおってからに」

「あ? 俺様は怪しまれないように運動会を楽しむ役だったろーが」

「そうよお。ヌーン、あんたの方が自分の仕事をしていないじゃない。魔法少女を探させろって息巻いてたわよね?」


 女幹部は、冷めた顔でヒュラに苦言を告げたヌーンに釘を刺す。図星を突かれた痩せ男は、腹が立ったのかすぐに立ち上がって彼女の方に顔を向けた。


「その仕事をさせなかったのは、小生に行動をさせなかったからではないか! 本来は小生が仕事をしやすくなるよう、お前達が動かねばならぬであろう。全く、人間共の運動会で勝手に盛り上がりおって。小生は全然調査に動けなかったわ」

「あら? 怪しまれる行動なんて出来る訳がないでしょう。あちきは黒百合優樹菜を演じなければならないのよお」

「け、喧嘩はやめるんだな」

「ガドリスもそうだ。この役立たずめ」


 侮辱されたトカゲ男は、速攻で思いっきりヌーンを殴り飛ばす。壁に亀裂が入るほどの勢いで吹き飛ばされた彼は、四天王らしいタフさですぐに起き上がった。


「痛いな。修繕費はお前持ちだぞ」

「ガドリスもヌーンも落ち着け。まだ時間はある。わざわざ魔法少女の正体を探さなくても、俺達の邪魔をしに来るんだからいつでも会えんだろ」

「そうではあるまい、ヒュラ。魔法少女は会う度に確実に強くなっておる。変身前の奴らを闇討ちするのが一番確実だろうが。そのためにも正体を暴かねば。市民運動会みたいな大型イベントなら、絶対に見つかるはずであったのだぞ……」

「じゃあさ、また大きなイベントがあった時にあんたは頑張ってよ」


 女幹部はそう言うとその場を離脱して自分の部屋に戻っていった。1人欠けたので会議は解散になり、ヒュラとガドリスもリビングから姿を消す。1人残ったヌーンはテーブルに肘をついて物思いに耽けっていた。


「魔法少女、絶対に見つけてやる。変身する前にひねり潰してやる。殴られた恨みは絶対に忘れぬぞ……」


 どうやら、彼は島でブルーにボコボコにされた事に屈辱を覚えているらしい。その執念がヌーンを復讐の鬼にしていた。

 彼は市の広報誌を眺めて1人で作戦を練り始める。魔法少女の正体を暴いた後の事を想像した彼は、ヒヒヒ……と不気味な笑みを浮かべるのだった――。




 市民運動会が盛況に終わった後、俺達は四天王が設置していた魔素活性石が他にも建てられていないか探すチームと、四天王の人間態を探すチームの二手に分かれて調査をしていた。立案して中心になって動いているのは真紀さんだ。

 彼女は占いと霊感を駆使して、2つのチームにその結果から導かれる情報を与えてくれる。それを元に行動をする流れだ。


 ちなみに、魔素活性石探索チームが俺と仁さんの魔法少女ペアで、四天王人間態探索チームが瞳さんだ。なので、四天王探しは休日限定になる。この扱いで分かる通り、メインは魔素活性石探しだ。

 四天王探しの方は、まぁ見つかったらいいなと言う程度。瞳さんにも危ない事はしないように伝えてある。


 体育会繋がりでブルマ姿で占っていた真紀さんは、魔素活性石が置かれている場所を分析してひとつの結論を導き出していた。


「見つかった魔素活性石は、どちらも地場の特異点に設置されていたわ。私が他の特異点の場所を占うから、その場所を念入りに調べてきてね」

「おう、任しとけや」

「そう言う場所はたくさんあるの?」

「結構あるみたいよ。こう言うのは瞳ちゃんのフーチのほうが当てになるんだけど、あたしも頑張るから」


 真紀さんはウィンクをして男共を無自覚に誘惑する。それでなくてもブルマで生足がまぶしいと言うのに。常にコスプレをしているから際どい服装にも慣れてるのかな。俺も慣れないとな。うん。

 仁さんはどうしているんだろうと思ったら、全く彼女を見ていなかった。それが正解かもなあ。


 と言う訳で、俺達の特異点チェックが始まる。アレ以降四天王が全然動いていないなら無駄足になってしまうのだけれど、俺は無駄足であって欲しいと願っていた。石が発見出来ても早期発見であって欲しいと。

 最初に向かったのは、あの廃ホテルの近くの神社。特異点は意外と近い場所に集まっているものらしい。この神社は山の上に本殿がある。入口の鳥居の前に立った仁さんは、本殿に続く階段を感心するように見上げた。


「この神社、入るんは初めてや」

「俺も2回目です」

「どんなんやった?」

「山の上なんで、景色がきれいでしたよ」


 俺は以前ミーコを肩に乗せて参拝した時の事を思い出す。そんな感じで2人で会話をしながら石段を登っていった。登りきるとそこからは自然の山道になり、しばらく歩いていくと本殿が現れた。境内にも特におかしなものはない。途中の道中でも見当たらなかったので、ここに魔素活性石はないのだろう。

 取り敢えず、折角登って来たと言う事で俺達は神社に参拝する。その後、地上が見える場所に移動してその景色を堪能した。


「やっぱ山から見下ろす景色はええな」

「ですね~」


 絶景を堪能した後は下山して次の候補地へと向かう。途中ちょっと迷ったのもあって、今日回れたのは神社を含めた3ヶ所。しかし、怪しいオブジェはどこにも見当たらなかった。

 夕方になったので切り上げて仁さんの家に戻り、そこで待っていた真紀さんに今日の成果を報告した。


「今日は3ヶ所回ったけど、それらしいものは見つからなかったよ」

「簡単には見つからんなあ。ガハハ」

「報告有難う。地道に潰していくしかないね。明日もよろしく」


 真紀さんはノートパソコンを閉じて、ブルマのまま仁さんの家を出て帰っていった。本当、肝が座っていると言うか感覚が麻痺していると言うか、すごい人だなあ。


 その後も特異点探しと休日には瞳さんも四天王探しを続け、結果が出ないまま10月は終わりを告げる。10月31日のハロウィンに大きな動きがあるのかと身構えたものの、特に世間を騒がすような出来事も起こらず、無事に10月は全ての日程を終了した。



 11月に入ってすぐ、俺達は今までの調査結果を分析して今後の行動に活かすための会議を行う。休日だったので瞳さんを揃えた全メンバーが参加。まぁ会議と言っても雑談の延長みたいなものだけど。

 今日の真紀さんは、昭和のお母さんみたいな割烹着姿だ。服装で雰囲気がガラッと変わるから服って面白いな。


「特異点も四天王探しも成果なし。これはどう見たらいいのかしらね?」

「魔素活性石はあれからどこにも建てられてないんちゃうか?」

「四天王の方もごめんなさい。やっはりボク、お告げがなかったらポンコツみたいです」

「瞳ちゃん、自分を責めるのはダメよ。めっ」

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