第50話 調査の結果と運動会

 まず最初に向かったのはスーパーだ。ラーメン屋さんは昼休みに寄る事にする。そうすれば調査とランチが同時に取れるからだ。瞳さんも同意したので、早速行動を開始。指定されたスーパーには、以前俺が長時間粘ったお店『アトランティス』も含まれていた。


「あのスーパーは入り辛いなあ」

「大丈夫ですよ、何も盗ってないんですから。入り浸るのは悪い事ではないです。それに私がすぐに発見すれば何の問題もありません!」

「おお、心強い。有り難え」


 俺は自信ありげな瞳さんに向かって両手を合わせる。いきなり祈祷対象になってしまった彼女は慌てて両手を左右に何度も振る。


「ちょ、止めてください。恥ずかしいので」

「あ、そう? ごめん」


 そんな感じで、俺達は雑談をしながらスーパーに向かう。考えてみたら周辺地域にあるスーパーは一軒じゃないので、その全てでチェックをしなければ。簡単かと思ったら割と楽じゃないのかも。


「周辺にあるのは3軒ですね。問題ないですよ」

「瞳さんがそう言うなら。じゃあ、近いところから回っていこうか」


 瞳さんがやる気満々なので、俺は彼女の気持ちを削がないように慎重に言葉を選んでいく。最初に向かったスーパーは個人経営の店かなと思うほどの小規模な店舗。面積もコンビニより小さいくらいだけど、品揃えはしっかりしているし、それなりに賑わっていた。生鮮食品とかの質がいいのだろうか。

 店舗も狭く従業員も少ないのでチェックはすぐに終わる。ただ、小さいお店だけに入って何も買わずに出ると言うのも心理的に難しかった。


「俺はコーヒー買うから先に出てよ」

「ボクも何か買います」


 瞳さんは黒糖まんじゅうを手にとってレジの列に並ぶ。そうして精算して店を出た。俺達はその足で近くにあった公園のベンチに座る。俺は買ったコーヒーを瞳さんに渡し、彼女からまんじゅうを受け取った。


「ちょっと早いけど、おやつタイムだ」

「コーヒーと和菓子も合いますねえ」

「だな~」


 天気がいいので、いいモグモグタイムになった。その後も残り2件のスーパーに向かったものの、何の成果も得られなかった。最後に入ったのが俺が長居してしまった『アトランティス』だったのだけれども、木原さんは見当たらなかった。休憩中だったのか、用事で休んでいたのか……。

 大きい所は素通りしても罪悪感は湧かなかったので、俺達が買い物をしたのは最初のお店の分だけ。しかし、3店舗回って成果がないっておかしいなあ……。


 3件目のチェックが終わって時計を見ると、12時を過ぎていた。次に向かうのはラーメン屋さんだ。近くには以前仁さんも含めた3人で一緒に食べたセルフうどん屋さんもあったけど、今回はスルーする。


「あそこ、美味しかったですよね」

「今から行くラーメン屋さんも美味しいよ」

「ラーメン屋さんは店舗指定で良かったですよね。ハシゴしていたらお腹が限界になるところでした」


 瞳さんはそう言って微笑みかける。明るい野外で見る彼女はとてもまぶしく見えた。並んで歩くのが俺なのが何か申し訳ないな。しかし俺は失念していたのだ。今から向かうラーメン屋さん『ラーメン ひまわり』が人気店だと言う事を。

 店についた時に目に飛び込んできたのは長蛇の列。1時間くらい平気で待ちそうだ。しかもきっと好きな席は選べない。もし厨房に四天王が紛れ込んでいたら、離れた席から検知は出来ない気がする。


「瞳さん、離れても心が読める?」

「見える範囲なら。でも壁の向こうとかだと難しいかな」

「来る時間間違えたね。後にする?」

「もう20分も並んじゃったじゃないですか。このまま行きましょう」


 結局、1時間並んで通されたのが入り口に近い席。当然奥にある厨房の中は見えなくて、瞳さんも頑張ってたけど該当人物は探し当てられなかった。


「ごめんなさい」

「これは仕方ないよ。ラーメン食べよ」

「はい」


 そんな感じで、休日調査は見事に失敗。この方法での調査に色々な問題点が浮かび上がった結果になったのだった。



 数日後、また占いをしていたブレザー姿の真紀さんは、その結果を見た後に市内の広報誌を眺める。そして、占い結果の解釈が導けたのか、急に大声を出した。


「間違いない、市民運動会! 四天王はこれに参加する!」

「おっチャンスやんか」

「こっちもみんなで参加しましょ」

「え、なんで?」


 またしても真紀さんの話に無条件で流されるような雰囲気になり、俺は困惑する。運動会に四天王が参加するにしても、探すだけなら瞳さんと俺でまた見に行けばいい。全員で会場に向かう必然性が見出だせなかった。


「運動会ええやんか。ワシは体を動かしたいんや」

「真紀さんも?」

「こう言う地域イベントって好きなのよね。誠君も体を動かしましょ」

「えぇ……」


 今までそんな素振りもなかったのに、何故か体育会系のノリが室内を支配している。2人共運動会に参加したいだけのようだ。

 その後も、ご近所付き合いは大事だとか、こう言うイベントには参加するもんだとかさんざん言いくるめられ、結局俺も参加する流れになってしまった。


「運動会、頑張ろや!」

「誠君もトレーニングしてるんでしょ。期待してるよ」

「そんな目で見ないでくださいよ……」


 その後の話し合いで、俺達3人が運動会に参加して、瞳さんが参加者の中から四天王を探す事になった。大勢の人が集まるイベントだから、逆に危険はないだろうと言う判断だ。

 そもそも、瞳さんは見抜くだけでそれ以上の事はしない。考えてみれば危険な目に遭いようもなかった。あれ? じゃあこの間のアレは……。


 運動会当日、運動会に参加する俺達と瞳さんは会場に辿り着く。グランドにはテントが立ち並び、雰囲気はバッチリだ。少し離れた場所には食べ物の屋台も並んでいる。お祭りだなぁ。

 運動会参加組は揃いのジャージを着ている。真紀さんもジャージだけど、美人は何を着ても似合っていた。スポーツ系アニメのコスプレらしく、よく見るとそれっぽいデザインになっている。瞳さんは一般見物客枠なので、いつもの黒で決めた私服姿だ。


「今日はええ天気になったなあ。いい運動会日和や」

「今日は思いっきり楽しむわよ!」

「瞳さん、危ない事はしないでね」

「大丈夫です。誠さんも楽しんでくださいね」


 こうして二手に別れた俺達はそれぞれの所定の配置に着く。運動会は地域単位で集まるので、俺達は所定の地域のテントへ。瞳さんはこの運動会に集まった人のチェックだ。ちょっとキョロキョロしてしまうだろうけど、まぁ不審がられることはないだろう。

 俺達がテントに着くと、見知った人達がいた。花見の時に出会ったあの4人組だ。あの時はオフ会だと言っていたけど、全員近所に住んでいたんだな。


「やあ、花見の時以来やのう。元気にしとった?」

「おお、村上君! そっとも元気そうで」

「今日は同じチームで頑張ろや」

「力を合わせて一番になろうぜ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る