運動会を楽しもう
第49話 瞳さんと四天王調査
台風15号が舞鷹上空を通過後も、いくつかの台風が日本を目指して接近する。けれど、以降の台風はみんな舞鷹市にはかすりもしないルートを辿った。きっと多くの人にとってはそれが当然だと感じるのだろう。15号が直撃したのがイレギュラーだったのだと。
けれど、四天王の行動を知っている俺達だけは別の認識を持っていた。
「ヤツらが台風を呼んでいたのは間違いないやろ。また何かやらかしてくるんちゃうか?」
「台風が来たのは本来の目的の副作用的なものだと思う。やっぱり真紀さんの言うように、本当の目的は……」
「どちらにせよ、やっぱり首謀者を捕まえない事には話は進まないわね」
街の危機を間一髪で救ったとは言え、俺達は四天王を誰一人倒せていない。台風の1件で得られた情報は、ヤツらが設置していたものの名前が『魔素活性石』だと言う事と、その石が四天王の手作りだったと言う事くらいか。
理科教師のような白衣を着て伊達メガネをかけた真紀さんは、物思いに耽るように顎に手を乗せて考える。
「魔素活性石……それによって台風が呼び寄せられたって事なら、大地の波動を調整する機能を持っていたのかもね」
「それで舞鷹市を魔界化する?」
「可能なのかも。ただ、あれから動きが止まってると言う事は、すぐに作れるものじゃないって事なのでしょうね」
真紀さんは仁さんが淹れたコーヒーを飲む。その姿も様になっていた。スタルがいいし、黒髪ロングだし、当然美人だし。こんな先生がいたら毎日の登校も楽しかっただろうな。
そこに、風貌だけは体育教師の仁さんがコーヒーカップを持って俺達の前にどっかりと座った。
「あれから動きがないって事は、まぁしばらくは安泰なんやろ。占いでも危険な兆候は視えんかったんじゃろ?」
「10月の間はね。そこから先はまだ不確定要素も多いから何とも」
「今月中に四天王の人間態を見つけられればいいんですけどね」
「この街のおるのは確実やのに、悔しいのう」
仁さんはコーヒーを飲みきると、不機嫌そうな顔で頭を掻いた。いくら真紀さんが詳しく占ってそれが的中したとしても、俺達は人間に化けた四天王を見破る事が出来ない。家にある魔導書に化けの皮を剥がす魔法があればいいのだけれど、オーラを見るものがあるくらいだった。
真紀さんいわく、オーラは人も魔族も同じらしい。つまり役に立たないのだ。
「化けてしまうと人か魔族か見た目では分からないのよ。心の中を覗かないと」
「じゃあ、瞳さんなら?」
「あの子が本気になればきっと分かると思うわ。ただ、あの子は普段忙しいからね」
「瞳さんが休みの日に動いてもらうしかないのか」
俺達は、霊感を持つ瞳さんだけが頼みの綱なのを改めて実感する。真紀さんだって霊感自体はあるものの、目視で思考を読むと言う芸当は出来ないらしい。
「本人を目の前に座らせて占う事が出来れば、多分魔族を見分けられると思うんだけどね。直感では無理」
「じゃあ、まずは真紀が四天王のいる場所を占っといて、休日にその周辺を瞳に動いてもらうか」
「1人じゃ危ないですよ。彼女は普通の人なんですから」
俺が口を挟んだ瞬間、真紀さんと仁さんが同時に俺の顔を見てニヤリと意味ありげに微笑んだ。うん、これは何か嫌な予感がするな。
「じゃあ、お前が一緒についててやれや」
「そうね、それなら瞳ちゃんも安心だわ」
「う……」
まるで示し合わせたかのようなこの流れに、俺は素直にはうなずけなかった。それでも雰囲気的にそう言う事になってしまったらしい。善は急げとばかりに真紀さんが瞳さんに連絡をしている。俺、まだ承諾していないんですけど?
彼女はニコニコ笑顔で電話をしている。表情が変わらないので、きっと事がうまく進んでいるのだろう。
「瞳ちゃんもそれでいいって。じゃあよろしくね」
「あ、はい」
次の休日、俺はミーコに散々お洒落について一方的にアドバイスを受ける。やれ髪型がどうとか、スキンケアがどうとか、服装がどうとか……。あの場にいなかったのに知ってると言う事は、真紀さんから連絡が行ったのだろう。
「いや、デートじゃないからね。調査だから。人探しだから」
「若い子と一緒に歩くのよ。隣に並んでも恥ずかしくない格好しないと。ひとみんが可哀想でしょ」
「それは、まぁ」
一体俺は何をしているんだろうと思いながら、ミーコの言いなりになってそれなりの格好になって家を出る。今日は天気も良くていい行楽日和だ。ま、遊びに行く訳じゃないんだけど。
待ち合わせ場所は駅前だ。休日で多くの人が行き交う中、俺はキョロキョロと周囲の様子を見回したり、時間を確認したりした。瞳さんと一緒に行動するのは5月の映画以来だ。デートじゃないのに意識してしまう。勘違しないようにしないと。
瞳さんと言えば、黒縁メガネに全身黒で統一されたコーディネート。黒が好きなんだろうな。だからすぐに分かるはずなんだけど、待ち合わせの時間になっても見当たらない。妙だな?
俺は何かあったのかと思ってスマホを確認する。着信履歴はない。念のためにと電話しようとしたところで、背後から声が届いた。
「ごめんなさい。待ちました?」
「え? いや。瞳さん、おはよう」
振り返ると、そこにはいつもと違って髪を少し明るく染めた瞳さんが立っていた。トレードマークのメガネもなく、服も秋に似合うような落ち着いた色合いのもの。この突然の変化に俺は戸惑う。
「イメチェン?」
「あのっ、たまにはと思って。でも誠さんはいつもの方が好きなんですね」
「まぁ、見慣れてたし。でも今日のも悪くないと思うよ」
「でも誠さんメガネフェチでしょ。分かるんですよボク」
しまった。瞳さんが心を読めるの忘れてた。じゃあ色んなアレやコレもお見通しなのだろうな。俺はどれだけ言葉を尽くしても仕方ないなと開き直り、ぎこちなく笑みを浮かべる。
「じゃあ、行こっか」
「安心してください。常時心を読んでいる訳じゃないですから」
「そっか。有難う」
「何でそこで有難うなんですか~」
俺の反応に瞳さんは無邪気に笑う。プライベートを大事にしてくれたと言う意味での感謝だけど、心が読めていればしないリアクションなので、確かに常に読んでいる訳じゃない事が分かって俺は胸をなでおろす。
とは言え、どう言う時に心を読んでいるのか俺からは分からんので、常に平常心でいようと心に刻み込んだ。
「今日はどこに行くんでしたっけ?」
「四天王がいるかも知れない場所に行くんだけど、真紀さんが見通せたのがスーパーとラーメン屋さんだね」
「じゃあそこで四天王は働いている?」
「かも知れない」
俺は歯切れの悪い返事を返す。とは言え、これは仕方がないのだ。真紀さん自身が自信なさげだったのだから。本人に直接会っていないためイメージを固定化する事が難しかったのだそう。
だとしても、もうここまで来てキャンセルは出来ない。俺は強く拳を握り、彼女の顔を見た。
「やるだけやろう。上手く行けば四天王の化けの皮をはがせるかも」
「ですね! 行きましょ~!」
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