第47話 謎の不自然な細工を破壊せよ

 何ヶ所かの候補地が絞り込めたところで、真紀さんが机に突っ伏してダウンした。


「ちょ、休憩~」

「無理させすぎたやろか。すまん」

「休めば大丈夫だから」


 仁さんは責任を感じたのか、席を立って台所に向かう。冷蔵庫にはケーキが入っていたから、それを彼女に出すのだろう。

 しばらくして、彼が人数分の紅茶と1人分のケーキを運んできた。まぁ、俺も別にケーキはいらなかったから問題ない。ケーキを置かれたところで、真紀さんはガバリと起き上がった。勿論その表情は満面の笑みだ。


「有難う! いただきまーす!」

「おう」


 ニコニコ笑顔で、彼女はケーキをぺろりと平らげる。女性はいくつになっても甘いものが好きだと言うのは真実なのだろう。カップに残っていた紅茶を一気に飲み干すと、真紀さんはすっとマジ顔になった。


「次はマーガは出ないよ。四天王2人が何かをしてる。それが視えた」

「それはいつ頃の話や?」

「台風が直撃した日の昼間」

「やっぱり直撃すんの?」


 俺は四天王の事より、台風直撃と言うワードに引っかかる。俺が生まれてから、地元に台風が直撃した事は1度もない。なのに、それが今回起こってしまうだなんて。


「だからこその回避でしょう。その方法も分かったから」

「それがさっき視えた場所ってやつか。そこで何をしたらええんや」

「その場所には何か不自然な細工をされているはず。それを破壊すればいい」

「よっしゃ、おかしなもんを壊せばええんやな」


 真紀さんが自信満々に答えたので、俺達は全力でそれに乗っかる事にした。さっきのやり取りで絞られた候補地は5ヶ所。俺達は、善は急げとばかりに早速その場所のひとつに向かう。占いが正しければ、ヤツら俺達が気付かない間に何かしらの工作をしていたと言う事になる。全く、油断も隙もあったものじゃないぜ。


 最初に向かったのは、かつて書店があった跡地。今ではただの広い空き地だ。そして、真紀さんが視たビジョンから一番遠い場所でもあった。何故ここから調査を始めたのかと言えば、仁さんの家から一番近かったから。

 徒歩5分くらいの位置にあるため、すぐに辿り着いた俺達は早速周辺をくまなく歩いてチェックをする。


「やっぱりただの空き地やのう」

「ですね」

「じゃあ、次行くか」


 次に向かったのはこれまた市内にある公園。中心部から少し離れていたものの、俺が場所を知っていたので迷う事なく辿り着く事が出来た。徒歩では20分くらいかかってしまうので、原付きで移動する。小回りがきくし、移動距離から言っても原付きが最適解だろう。

 公園に着いた俺達は軽く見渡すものの、やはり何か細工をされた形跡は見当たらない。


「ここも何もなさそうですね」

「一応はしっかり調べてみようや」


 空き地と違って、公園は軽く見渡したくらいじゃ全てを把握出来ない。と言う訳で手分けして遊具の周りを見たり、砂場をチェックしたり、トイレに入ってみたりと行ける場所に全て入ってみたものの、真紀さんの言う『不自然な細工』はここにもなさそうだった。


「やっぱり普通の公園でしたね」

「じゃ、次に行こうや」


 次に向かったのは、山の上にあるお城の姿を模した展望台前の広場。真紀さんが視たビジョンに一番近いのがこの場所だ。最有力候補地と言っていい。山を登るので、くねくねした道が続く。原付きでも直接展望台までは行けないので、近くの駐車場に停めて歩き始めた。

 場所が山の上なのもあって、結構な傾斜を登っていく。この足に来る負荷はいいトレーニングになるな。


 しばらく登るとお城が見えてきた。かつては本当にこの場所にお城が立っていたらしい。今建っているのはコンクリート製の展望台だけど。

 今回の目的地は展望台そのものではないけれど、着いたらやっぱり登りたくなる。上から見た景色は絶景なのだ。平日はあまり人が来ないこの展望台だけど、元旦は初日の出を見る人で賑わうんだよな。


「ちょっと展望台上がってみます?」

「いや、まずは調査やろ」

「はい……」


 俺の軽い提案は秒で却下された。調査が終わったらもう一回声をかけてみよう。でも今日は近付く台風のせいで天気も悪いし、展望台からの景色を見るのは今度でいいかも知れないな。

 俺が渋々広場をチェックしていると、仁さんが声をかけてきた。


「おい、これ!」


 そこにあったのはアーティストが作ったような白いオブジェ。大きさは1メートルくらいのモノリスみたいな立方体だ。ところどころに丸い気泡のようなでっぱりがあって、そこから異様なオーラを放っている。周りの景観にも溶け込んでおらず、違和感しか覚えない。


「真紀さんが言ってたの、これっぽいですね」

「じゃあ壊すか」


 仁さんはそう言うと、軽く振りかぶってパンチを一撃。それだけでオブジェは粉々に粉砕された。この所業に驚いた俺が目を丸くしていたら、彼はギュッと握った拳を見せてくれた。


「魔法で強化してるから平気なんや」

「仁さんも普通に魔法使えるんすね」

「どうしてもって時しか使わんけどな」


 ミッションコンプリートしたのもあって、仁さんはガハハと豪快に笑う。これで未来が変わったので、最悪の事態も回避出来た事だろう。胸をなでおろした俺は仁さんを誘って展望台に登り、そこからの絶景を2人で楽しんだのだった。



 怪しいオブジェは壊したと言うのに、台風の進路は変わらない。それでも未来が変わったと言う確信を持っていた俺は、段々荒れていく空を見ながら高みの見物をしていた。

 それは仁さんも同じだったようで、窓の外の強く流れる雲を見ながら口角を上げる。


「来るぞ~嵐が来るぞ~」

「何で男は天気が荒れると興奮するのかしらね」

「ロマンだから仕方ないんや。ガハハ」


 俺達は台風が地元を回避する未来を信じて疑わない。いくら予想進路が地元の直上を通るルートを示していたとしても。

 けれど、台風は少しもズレることなく地元に迫ってくる。まるで舞鷹市の土地に吸い寄せられるかのように。いよいよ明日は地元が暴風域に入る。俺達にはもう何も出来ない。あのオブジェは台風の進路とは何の関係のないものだったのだろうか。


 流石にここまで来ると、俺も進路がズレると言う希望は捨て去っていた。俺はもしものために仁さんの家に泊まり込む。

 翌朝、雨も風も強く吹き荒れる中で真紀さんが仁さんの家にやって来た。俺達もまさかこんな日に彼女が来るとは思っておらず、慌てて玄関で彼女を迎え入れる。


「今日は来なくていいのに」

「いや、来なきゃいけなかったの。聞いて! オブジェはひとつじゃなかったの!」

「「な、なんだってーっ!」」


 俺達は破壊目標はひとつしかないと思い込んで、探索を途中で放棄していた。台風の進路が変わらなかった時点で気付くべきだったんだ。


「もしかして、壊しそびれたオブジェを今からでも壊したら……」

「台風の被害が少しは減るかも」

「仁さん」

「おう!」


 俺達はうなずき合うと真紀さんに留守番を頼む。外に出た俺達はすぐに魔法少女に変身した。


「正義と慈愛の魔法少女、ピュアピンク!」

「秩序と博愛の魔法少女、ピュアブルー!」


 チェックし忘れた2ヶ所、俺達は別れて個別に向かう事にする。ピンクは海岸沿いにある工場跡の空き地。俺は川沿いにある廃ホテルの駐車場だ。

 既に台風の暴風域に入っているので風と雨がヒドいものの、魔法少女になった状態なら何も問題はない。

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