第44話 は、ハメられた!

 2人の会話に優樹菜が割り込む。どうやら、この山に住む動物のマーガ化が魔王から下された指令に沿う事にもなるらしい。

 確かに、山を登っていけば野生動物に出会う可能性は高まる。とは言え、動物も人間を警戒しているから簡単に会えると言うものではない。いわんや魔族をやだ。ただ登るだけでは目的を達成する事が難しい事が分かり、ロバートが立ち上がる。


「オラが何とかするよォ!」

「いや待て、ここは私が何とかしよう」


 ロバートを止めた木原は立ち上がり、地面に向かって両手を伸ばして親指と人差し指を合わせて三角の形を作る。彼が魔法を使う時のルーティーンだ。


「山の主よ、来たれ!」


 木原が魔法を使って数分後、その声に呼応するように大きなイノシシが現れた。身体のアチコチに切り傷があり、いかにも歴戦の猛者のように見える。この大物の出現に、四天王は全員満足そうな笑顔を浮かべたのだった――。




 時間を戻して仁さんの家。ネットをチェックしていたマルが見つけたのは、この山に関するニュースだった。


「今、この山では大きなイノシシが目撃されているらしいんだ」

「イノシシ? そんなの猟友会に任せとけばええやろ」

「いや、そうも行かないよ。そのイノシシは全長10メートルもあるみたいなんだ」

「嘘やろ?」


 どうやらそのイノシシは目撃情報があるだけで、まだ人的被害とかはないらしい。馬鹿げた大きさなのもあって、ほとんどの人は信じずに都市伝説扱いしている。警察もまだ動いてはいないようだ。

 俺達は、すぐにそれがマーガ化したイノシシだと確信する。


「それ、多分四天王がやらかしとるな」

「誰かを襲う前に倒さないと」

「そうだね、山に行こう! しっかり準備して」


 こうして、俺達はイノシシマーガを倒すために山に向かう事になった。事前の準備をして現場に向かう事になったので、俺は虫除けスプレーとか山でも快適に過ごせるグッズをいくつか買い揃えるためにショッピングモールに向かう。


「実際の所は何があったらいいんだろう」


 俺は実家が海の側だった事もあって、山は学生時代に県で一番高い山に登った事があるくらいだ。全く知識がない。軽装が良くない事は分かる。登山用の靴も買っておいいた方がいいかな。

 後は、非常食……? 遭難はしないと思うけど。まぁ念のために。ナイフはあるといいらしいので、これも買っておくか。


「うーん。もう思いつかない。困った」


 困った時に頼りになるのがインターネットと言う事で、後は電子の海に流れる情報を頼りにいくつかのグッズを買い揃えていった。タオルとか、椅子とか……。予算もあんまりないし、倹約しないと。


 翌日、準備をして仁さんの家に行くと、瞳さんが数分後にやってきた。彼女も割と大荷物だ。その背負ったリュックの膨らみ具合から、大袈裟だなと少し感心する。


「瞳さん、結構持ってきたね」

「逆に誠さんは軽装ですね」

「え? そうかな?」


 俺は瞳さんの言葉に若干の違和感を覚える。山を歩いてイノシシマーガを探して倒して帰るだけだよな? そこに荷物はそんなにいらないはず。旅行じゃないんだから。

 俺が混乱していると、最後に真紀さんがやってきた。瞳さんが来てからでも1時間近く経っている。遅すぎじゃね?


「ごめーん。色々探してたら遅くなっちゃって。じゃあみんな乗って乗って」


 真紀さんは悪びれもせずに俺達を乗ってきた車に誘う。海に行った時と同じワンボックスカーだ。全員が乗り込んで向かった先は『舞鷹キャンプ場』。……あれ?


「ここ、ですか?」

「そうだよ。じゃあ降りた降りた。私は受付に行ってくるね」

「えぇ……?」


 荷物を下ろした俺は、ハメられた気がして動けない。真紀さんはキャンプをするつもりでいた? みんなはそれに納得していた? 俺、キャンプ道具は何も持って来てないよ?


「テントとか持ってきてるの?」

「この荷物がそうですね」

「みんなのキャンプ経験は?」

「ワシはようここに来よったで」


 仁さんは見た目ワイルドヤンキーの本領を発揮していた。ああ言う人達はアウトドア経験豊富そうだからなあ。瞳さんも家族で数回のキャンプ経験があるのだとか。俺だけ未経験者だって……? 嘘だろ……?

 この状況に膝から崩れ落ちようとしていたところで、仁さんが肩を叩く。


「大丈夫や。ワシはそうなる事を予想しとったけん。色々余分に持ってきとる」

「え? マジ感謝」

「真紀が言うた通りになったな。ガハハ」


 仁さんが言うには、俺がキャンプ用品を揃えずに来る事は占いの結果に出ていたのだとか。何だよそれ。昨日俺にハッキリ言ってくれりゃあ、そんな未来は回避出来たんじゃないか。

 俺が憤っていると、元凶の真紀さんが手続きを終えて戻ってきた。


「じゃあ行きましょ」

「真紀さん!」

「キャンプグッズって結構するでしょ? 誠君はこれが終わったらもうキャンプしないじゃない。だから私達が色々してあげた方がいいと思ったのよ」

「それならそう言ってくれればいいじゃないですか」

「うーん、サプライズ?」


 結局のらりくらりかわされて、俺は怒りの持っていきどころを失ってしまう。までも、色々貸してくれると言うのだから俺も文句ばかり言う訳にはいかない。折角だし、キャンプを楽しむか。

 真紀さんの事だから、きっとこうする事でイノシシマーガに遭遇出来ると言うお告げのようなものがあったのだろう。


 キャンプをするにあたって最初にする事は、そう、テントを張る場所探しだ。俺以外はキャンプ経験者なので、安心してベテランの皆さんに丸投げした。ここで一番効率よく動いていたのは真紀さんだ。流石は言い出しっぺと言うだけはある。すぐに適切な場所を見つけると、テキパキとテントを組み立てていく。

 仁さんも瞳さんも手伝う中、右も左も分からない俺は、ただただアタフタしていた。


「誠君はそこで監督してて。私達が全部やるから」

「真紀さん、本当に手際がいいですね」

「あたし、結構ソロキャンやるからね」


 占い師にとって、人の多い街中より自然と一体になれる山や海などにいる方が感性が磨かれるのだとか。だから同業者でアウトドア趣味の人は多いらしい。これは意外な事実を知ったぜ。占いをする人ってインドアの人が多いのかと思ってた。真逆なんだなあ。

 テントが張れたら、くつろぐ道具とかを組み立てていく。テーブルとか椅子とか。それが出来たら薪を拾ったり、水を用意したりと食事の準備。これなら俺も手伝えるので積極的に参加した。


「どや? キャンプもええやろ?」

「いや、でも部屋の方が快適だし」

「誠はとことんインドアやなあ」

「までも、たまにはこう言うのも新鮮でいいです」


 俺がアウトドアを楽しむ素振りを見せると、即座に仁さんが嬉しそうに俺の背中をバンバンと豪快に叩く。まぁ、こう言うコミニュケーションも悪くはないか。

 俺以外の3人はキャンプ初体験の俺を優しくもてなしてくれる。キャンプの楽しいところだけを体験させて俺をアウトドア派にするつもりだな。そうは問屋が卸さないぜ。俺は家でのんびりネットサーフィンして楽しむのが一番好きなんだあ!

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