第41話 夏は海と言う安直なパターン
7月も下旬に差し掛かろうとした頃、ついにセミが鳴き始めた。夏がやってきたのだ。もう誰がどう考えても夏だ。アツイ!
俺はいつもお世話になっている仁さんの家に、スーパーで買ったお土産を持っていく。カットスイカだ。やっぱ夏はスイカで決まりでしょ。カットスイカなら食べやすいしみんなにも好評なはず。
そう思って彼の家に持っていくと、三角にカットされたスイカを食べる家主がいた。
「おう、ええところに来たのう。まあスイカでも食べや」
「あ、うん。これも買ってきたんだ」
「お、カットスイカか。ええのう」
「冷蔵庫に入れとくよ。いつでも好きに食べてくれ」
やはりそのままスイカと比べたら、カットスイカは貧乏臭い。俺は気まずさを感じながら、買ってきたスイカを冷蔵庫に入れた。
仁さんが出してくれた麦茶を飲みながら、鋭角に切られたスイカを食べる。やっぱスイカはスイカバーみたいに切ったのが一番食べやすくていい。しかもむっちゃ甘かった。そう言う品種のスイカなのだろうか?
「美味いやろ。でんすけスイカ」
「え? これがそうなんだ。こんな高いもの……」
「家で作っとるんや。昨日送られてきたからみんなで食べよ思うてな」
「そ、そうなんだ」
高いスイカを送ってくると言う事は、仁さんの家は農家なのかな。野菜はみんな家から送ってもらってるのかも。食費が浮いていいなあ。
スイカをひとつ食べ終わったところで、瞳さんと真紀さんもやってきた。彼女達も仁さんがカットしたスイカを美味しそうに食べている。そりゃ、美味しくて高いスイカだからニッコニコになるよな。
最近の俺達は、男性陣が待機で女性陣が情報の整理を主にしている。四天王に動きがないからって、それでヤツらが何もしなくなったとは限らないからだ。
カラフルなミニスカ浴衣でやってきた真紀さんは、またカードで占いをしている。夏で暑いとは言え、目のやり場に困るからあんまりセクシーな衣装では来ないで欲しいのだけれど……。
「よっしゃ、来た!」
占っていた真紀さんが何か手応えを掴んだらしい。俺達はその結果に注目する。
「海に何か現れるよ。明日は海に行こう。みんなで行こう」
「「「えぇーっ?」」」
俺達3人は思わす返事がシンクロしてしまった。夏だから海って、なんてベタな展開なんだ。そんな安直な流れでいいのか?
既に真紀さんの占いは絶対だと言う雰囲気が作られていたため、この宣言の後、すぐに瞳さんは水着を買いに出ていった。
取り残された俺達も、雰囲気に飲まれて水着とかを買いに行く流れになる。
「えと、水着ないんで買ってきます」
「ワシも買うとった方がええかな?」
「そりゃ当然でしょう? 明日はあたしもスゴイの着てくるわねぇ」
コスプレマニアの真紀さんが着る水着。想像しただけでも体の一部がホットになりそうだ。俺は気取られないようにすぐに外に出る。ちなみに、ミーコはついてこなかった。まぁ外暑いしな。後で回収しに来よう。
女性の水着は悩むほど数があるけど、男の水着は悩むほどのものはない。ビキニなヤツにするか普通の短パンみたいなやつかの二択。まぁ普通は後者を選ぶわな。当然俺も冒険はしなかった。
大体、真紀さんの占いだって「海で何かがあるから行こう」と言うだけのものに過ぎない。泳ぐ必要はないのだ。水着にもならなくていいのかも知れない。までも、泳ぐ流れになるかもだから保険で買うって感じかな。
「まぁ、女の子達が水着になるなら、俺も礼儀で水着になった方がいいだろうしなあ」
そう言って自分を納得させる。海に行くとか何年ぶりだろう。水着と縁がなくなって10年は経つなあ。見上げた空には立派な雲がもくもくと浮かんでいた。陽射しは焼いてくるし、セミの声が喧しいし、俺は夏をこれでもかと実感する。
水着を買った後は、日焼け止めとかビーサンとか、そう言う夏の海に必要なものを買い揃えていった。グッズが増えていく内に何だかワクワクしてきたぞ。
翌朝、仁さんの家に集まると、みんなそれなりの荷物を抱えていた。なんかちょっと不思議な感じだ。ちなみに妖精猫2匹は留守番だ。マルは音もなく俺達の前まで歩いてきて、可愛い顔で見上げる。
「みんなは海での任務、頑張ってくれ。僕達はこっちで待機してる。何かあったら連絡するよ」
「ああ、頼んだで」
「べ、別に水が嫌いとかそーゆーんじゃないんだからねっ」
ミーコは謎に強がっている。これはつまり、彼らは水が苦手なのかも知れない。まぁ猫は普通水を怖がるしなあ。一応は彼女を立てて、ここは水は平気だけど待機要員が必要だからと言う体でいいか。
改めて考えると、このメンバーで外出するのは初めてなんじゃないかな。花見の時は真紀さんいなかったし。
と、ここで俺は今更な問題に直面する。
「あ、移動どうしよう? バス? タクシー? まさか徒歩じゃないよな?」
そう、俺も仁さんも自家用車を持っていないのだ。瞳さんは電動アシスト自転車を持っているみたいだけど……。何故昨日そこまで頭が回らなかったのだろう。いっそのこと、全員自転車で移動すると言うのもいいかなぁ。
俺がそんなイメージを頭の中で描いていると、真紀さんがドヤ顔で鼻息を荒くする。
「あたしの車で行きましょ」
「おお、真紀さんナイス!」
と言う訳で、真紀さんの車で海水浴場に向かうことになった。彼女は普段原付きで仁さんの家に来ていたから、車も持っていたとは今日まで知らなかった。駐車場に停めていたのはワンボックスカーだ。乗るのが4人ならそれでちょうどいい。
俺達はそれぞれの荷物を積んで車に乗り込む。助手席には仁さんが座って、俺と瞳さんが後部座席だ。
真紀さんは結構上手に車を運転する。ブレーキングも丁寧で、タクシーのような乗り心地だ。いつまでも乗っていたい気にさせてくれる。
流れる景色を眺めながら、俺は今回の目的地について聞いてみた。
「今日はどこまで行くんですか?」
「え? 舞鷹海水浴場だけど?」
「あ、そっ……すよね」
車移動だからもっと遠出をするのかと思っていたけど、そもそも舞鷹市で起こる問題解決で海に行く訳だから、地元から離れる訳がなかった。遊びじゃないのをここで改めて実感する。
向かう先が近場なので、出発して海水浴場の駐車場まで10分くらいで着いてしまった。こんな朝早くから泳いでいる人なんているのだろうか。
取り敢えず俺達は荷物を下ろして海水浴場に向かう。まずは着替えるために男女で分かれた。俺と仁さんは男なのであっさりと着替える。ちなみに、仁さんが選んだ水着も俺と同じタイプだった。中年太りでビキニパンツはないだろうからなあ。
「お前もワシと同じような水着やな」
「こう言うのしか履けませんよねえ」
「やな!」
俺達はお互いの水着姿を見て笑う。でも考えてみれば魔法少女は体力を使う仕事だ。だから俺の身体は日々のトレーニングもあってある程度は絞られている。なのに仁さんは見た目だらしないような体型だ。そう言う体質なのだろうか?
「ん? 何ワシの体ジロジロ見よんや?」
「あ、いや」
体型の事を話すのは何かタブーのような気がして、俺は口を濁した。仁さんもあまり気にはしていないようだ。すぐに話題は変わった。
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