夏は海だよね
第40話 梅雨が明けて暑い日々が始まった
俺は四天王の魔族姿を全員分知っている。ヒュラは身長が3メートルくらいはある人間以上の大男で、ヌーンは190センチくらいだけどむっちゃ痩せてるやつだ。そして、残りの2人。
1人は見た目がトカゲ男で、つまりリザードマンだった。あんなのがアニメやゲームではなくて現実に存在するだなんて。そして、最後の1人が女性。しかもむちゃくちゃ色っぽかった。サキュバスが実在するなら、ああ言う女性を言うのだろう。
「ん? なんであたしを見てんの?」
「あ、ごめん」
四天王の紅一点の事を考えていたら、思わず真紀さんを見つめてしまっていた。彼女だって魅力的な大人の女性だ。四天王の女性ともいい勝負が出来るだろう。まぁ両方をじっくり見比べる事が出来たなら、どちらの方が魅力的か答えは出せるかも知れないけど。
ちなみに今日の真紀さんは真っ白なツナギを着ている。ああ言うのは市販されてるのかな? て言うか、もうすぐ夏になるのに暑くはないのだろうか。
「今君が何を考えてるのか当てようか」
「え? いやいいで」
「ずばり、四天王の事を考えていた。当たったでしょ」
流石プロの占い師だけあって心の中を読むのはお手の物だ。俺は思わず小さく拍手をする。流石にそれ以上のことも言い当てられたらちょっと困ってしまうのだけど。
「あたしはね、誠君がもう四天王に会っていると思うんだ」
「え? それは占いの結果ですか?」
「や、勘だね。それっぽい人に会ったって感覚はない?」
「そう言うのはないです。大体、あんな個性的なヤツラが普通の人間に擬態なんて出来るとは思えなくて……」
俺は魔族形態の四天王の特徴を真紀さんに話す。うんうんとうなずいて最後まで聞いた彼女は、魔法なら何でもありだからと一蹴した。
「大体、君達の魔法少女姿がそれを証明してくれてるじゃない。全くの別物だよ、アレ」
「で、ですよね~」
結局、四天王の人間態を見つるけるのはほぼ不可能だと俺は結論を出した。真紀さんみたいな能力者なら分かるのかもだけど、俺にはそんな鋭い嗅覚はない。なので、独断で行っていた四天王の人間態調査もやめる事にした。
外は今にも大雨が降りそうな暗い空。真紀さんは雨が降る前にと帰っていった。大雨が降ってきたのはそれから一時間後だ。その頃には俺も自宅に戻っていて、次々に鳴り響く雷鳴を自分の部屋で聞いていた。
数日後、嘘みたいに空はカラッと晴れる。そう、梅雨が明けたのだ。これからどんどん暑くなる。こんな状況でまたマーガと連戦するのは嫌だなぁ……。
陽射しが街をジリジリと焼く。梅雨が明けたからっていきなり夏になる訳ではない。ただ暑くなっただけで夏とは言えないのだ、俺的には。夏には条件がある。それは――。
「今年もセミが鳴くの遅いなー」
「何? あんたセミが鳴かないと夏って認めない系?」
「そうだよ」
「いや梅雨が明けたらもう夏じゃん。あーし、この世界の夏って初めてだけどもうダメだわ。何もやる気起きんし」
俺が窓にすだれと風鈴をセットしていると、ミーコがダラーっと畳の上で溶けていた。まだ朝晩は涼しいはずなんだけどな。日中はエアコンの効いた仁さんの家にいるから、余計に扇風機しかない自室がキツイんかな。
「大体、なんでこの家にエアコンがないのよ」
「なくても耐えられるから」
「貧乏臭っ!」
「実際貧乏なんだって。お金は大事なんだよ」
俺は逆に開き直ってミーコの愚痴をスルーする。まぁ、彼女があんまりダルそうだったらエアコンも考えるかなぁ。でも夏本番の時にエアコンを買おうと思ったらすごく待たされるって聞いたなぁ。つまりはもう手遅れなんだな。ミーコには扇風機とかで耐えてもらうしかないな。ゴメンな。
暑い日は始まったばかりだけど、俺の懸念は現実にはならなかった。どう言う事かと言えば、マーガが出現しなくなったのだ。最高気温が30℃を超えるまではそれでも何体か現れていたものの、30℃を超えてからすっかり見なくなった。
魔法少女に変身中は暑さも魔法で制御されるので、熱中症の心配はない。とは言え、朝からあの格好で過ごす訳にも行かない。敵がいるからこその魔法少女なのだから。やっぱり普通に恥ずかしいし。
「でもなんでマーガが出なくなったんだろ?」
「今のマーガは四天王が作っとるんやろ。ヤツらもこの暑さでバテたんやろな。そのまま熱中症で全員くたばっちまったらええのにな」
「そんな上手い事はいかんでしょ」
「ほうやろなあ」
マーガが出なくなったので、俺達は四天王が動き出す前の状態に戻っていた。つまり、仁さんの家で待機状態。部屋にエアコンがあるので、もう一歩もこのエリアから出たくなくなっていた。
それにしても、本当に四天王はどうしちゃったんだろう。影でコソコソ何か悪事を働いていないといいんだけど。
その頃、四天王が共同で暮らすシェアハウスでは、仁の想像通りに四天王がこの暑さにバテていた。大男のヒュラも、痩せているヌーンも、紅一点の美女も。変わらず元気なのはリザードマンくらいだ。
「オデ……体が燃えるようだ。やる気に満ちてる」
「元気なのはいい事だぜ。俺様達の分も頑張ってくれ」
「仕事場は涼しいから休みの日は小生もう暑くて動けぬ」
「あちきも全然やる気が出ないですわ~」
この調子だと、四天王が魔王から任された仕事は閉店休業状態だろう。秋になるまでこのままなのか、どこかで本気を絞り出して活動を再開するのか。それは四天王達のやる気次第なのであった。
1人元気なリザードマンが、いつか何か動きを見せるのかも知れない。
その頃、俺は仁さんの部屋で冷たいカルピスを飲みながらレイラの事を考えていた。謎の場所に導くように歩いていた彼女は、またしても姿を消してしまった。あの場所にも何か意味があるのだろうか。もしかしたら、真紀さんの言う舞鷹市魔界化計画に関する重要な場所だったのかも知れない。
あの場所の事を詳しく覚えていたら調べてもらえたのだけれど、知っている場所に戻れた時にすっかり道順を忘れてしまったのだ。
「ああ、なんて俺は駄目なやつなんだ」
俺が頭を抱えて塞ぎ込んでいると、そこにミーコがやってくる。
「な~にやってんの。悩みならあーしが聞いてあげてもいいけど?」
「いや、別にそう言うんじゃないから」
「嘘おっしゃい! あーしには分かるんだからね! 言いなさいよ! ほらほらあ」
ミーコがあまりにしつこいので、俺は仕方なくレイラを尾行していた時の話をする。この話をする事は2回目だったものの、今回は自分の不甲斐なさメインで嘆いた事まで言い切った。
すると、彼女は呆れた表情を浮かべて深くため息を吐き出す。
「あんたがポンコツなのは最初からでしょ。だから誰も責めたりなんかしねーよ」
「いや、それは分かってるから」
「ま、好きなだけウジウジしてなさい。ちょっと心配して損しちゃった」
俺の悩みの正体が判明したところで、ミーコはすっかり興味をなくして去っていった。ただ、彼女が心配してくれたのが嬉しくてちょっとニマニマしてしまう。今日は美味しいものを出してあげようかな。お刺し身でいいかな。
7月の暑い日々は日に日に本気を出してくる。俺達はますます日中に出歩かなくなっていった。
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