第39話 誠の四天王捜し

 俺もこの四天王探しに協力したかったので、自分なりに推理してみる。


「そうだ! 生活をしているならお店に買い物をしたりするのでは?」

「まぁ、普通にしてるやろな。で? スーパー巡りでもするんか? やっても見分けつかんやろ」

「でも、やる価値はある気がします!」


 この流れで、夕方から俺だけスーパーの調査をする。向かったのは地元のスーパー『アトランティス』。四天王が働いていると仮定して、午後6時から閉店時間までお客さんをチェック。俺の方がかなりの不審人物と化した訳だけど、何とか店員さんにつまみ出される事態を回避する。

 とは言え、お客さんに怪しい人物は見当たらなかったのだけれど。


 その代わり、見知った人物には会う事が出来た。それは、あのお花見の時に同席した4人組の1人、木原さんだ。お花見の時も少し気難しい感じだったけど、スーパーで会った時も同じ雰囲気を漂わせていた。

 彼は買い物かごを持たずに店内を巡回するように歩いている。俺は折角出会えたのだからと軽く挨拶をした。


「あ、どうも」

「はい?」

「花見の時にお会いしましたよね? 円城です」

「ああ、どうも」


 木原さんは相変わらずそっけない態度で、すぐにその場を離れようとする。ここで俺は彼が買い物客ではない事を察した。そして、俺と同じくずっと店内にいた事からも彼の仕事を把握する。

 木原さんはこの店で万引きGメン的な事をしているんだ。この日は悪質なお客さんが見当たらなかったので彼の活躍を見る事は出来なかったけれど、日によっては万引き客を捕まえているのだろうな。


 閉店時間になっても何の成果もなく、俺は適当に買い物をしてガックリと項垂れて店を出る。自動ドアをまたいで外の景色を見ると、仁さんが出迎えに来てくれていた。連絡とかしていなかったので、この気遣いに胸が熱くなる。


「どうやった?」

「いや、ダメでした。違うスーパーなのかも」

「真紀がこのスーパーを指定したんやろ? じゃあ、ここを張る事自体は間違ってないはずや。地道にやろや。マーガはワシが何とかするけん」

「有難うございます、先輩」


 彼は俺の肩を抱いて苦労を労ってくれる。雨は止んでいるけれど、梅雨時だけあって空は厚い雲が覆い、月も星も見えない闇夜だ。だからこそ街の明かりが一層まぶしく見える。

 俺が街明かりをぼうっと眺めていると、突然仁さんが何かを思いついたように声を弾ませた。


「せっかくこの時間に外におるんやし、ラーメン食べよか」

「いいですね。食べましょう」

「よっしゃ! 決まりや!」


 俺達はその足でラーメ屋さんに向かう。舞鷹市にも有名なラーメン屋さんはいくつかあるのだけれど、彼の発案なので彼のオススメの『ラーメン ひまわり』に行く事にした。そこは20年くらい前に開店したお店で、俺も何度か食べに行った事がある。ランチタイムや夜の繁盛する時間帯には行列が出来る程の人気店だ。

 俺達が向かった時にはもうピークを過ぎていたので、並ばずに席につく事が出来た。


「仁さんはよく食べに来るんですか?」

「まぁ、週に一回くらいはな」

「ここのラーメン美味しいですもんね」

「ああ、最高やな」


 ここのラーメン屋さんは席によっては働いている人の姿が見える仕様だ。俺は職人の仕事ぶりを見るのが好きなので、空いていれば必ずその席に座る。それは仁さんも同じだったらしく、今日はそう言う席に2人並んで座った。

 この店では店主と従業員が並んで仕事をしている。バイト募集の張り紙を見た事もあったから、今店主の隣でラーメンを作っているのはそのバイトの人なのかも知れない。どう言う人だろうと気になって顔を確認すると、その人もまた見覚えがあった。


「仁さん、あれ」

「あ、花見の時の斉藤さんやん! ここで仕事しとったんや」


 斉藤さんは花見の時とは違い、超真剣にラーメンを作っている。週一で通っている仁さんが気付かなかったのも、雰囲気が全く違っていたからなのだろう。俺だって誰かなと思って見ていなければ気付かなかった気がする。

 仕事中に話しかける訳にも行かず、俺達は出されたラーメンを大人しくいただく。俺が普通の醤油ラーメンで、仁さんがチャーシューメンだ。歯応えのある麺に濃厚なスープが美味しい。ただ、味が濃いので俺はたまに食べるくらいがちょうどいいかな。


「ふー、うんまいなあ」

「幸せになれますねえ」


 人気店のラーメンをしっかり堪能した俺達はスープもしっかり飲み切って店を出る。しばらく歩いているとポツポツと雨が降ってきた。普段なら小雨の内に走って帰ろうってなるんだけど、今は梅雨だ。きっとすぐに大雨になる。

 雨を感じ取ってすぐに空を見上げた仁さんは、俺にアイコンタクトをする。


「ここで解散やな」

「ですね」

「じゃあ」

「「変身!」」


 俺達はまるで示し合わせたかのように魔法少女に変身。そしてお互いの家に向かって超スピードで駆け出した。夜だし誰も見ていないだろう。走行中に大雨になってきたけど何も問題ない。何故なら、変身を解けばすっかり乾いているからだ。

 こうして、俺達は実質的に濡れる事なくお互いの家に戻ったのだった。


 翌朝、俺が出かけようとしていると宅配の荷物が届いた。この間ネット注文していた本が届いたようだ。俺はハンコを探して伝票に押印する。

 その時、何となく配達員の顔を確認すると、またしても見知った顔だった。あの花見の時のノッポで無口なグラサンの人だ。確か、ロバートと言う人だっけ。


「お久しぶりです。この仕事をされていたんですね」

「あ……う……どうも」

「お仕事お疲れ様です、頑張ってくださいね」

「どうも」


 ロバートさんはペコリと頭を下げると俺の前から去っていった。あの人、体力ありそうだし、宅配の仕事は性に合っているのかもな。


 その後も色々やってみたけれど、結局まだ四天王は見つからない。一体どこにいると言うのだろう。真紀さんが1人はクラブのママになっているって占ってたけど、そんなお店に調査でローラー作戦出来るほどのお金はないしなあ……。


 梅雨の雨は降り続ける。雨の勢いが日に日に強くなっているから、その内に明けるのだろう。雷が鳴り始めたらクライマックスだ。沖縄はもう梅雨が開けている。ジメジメの梅雨は苦手だけれど、暑い夏も同じくらい苦手だ。

 俺は降り続く灰色の空を見上げる。今年もまた暑くなるのだろうか。ああ……。




 場所は変わって市内の某住宅。そこには4人の男女がシェアハウスしていた。1人は豪快で人の良さそうなガタイのいい男、1人は神経質そうで眼鏡の男、もう1人は無口な大男、そして最後の1人は妖艶な美人。そう、円城誠達が花見の時に出会ったあの4人組だ。

 彼らは家に入ると本来の姿に戻る。1人は天井に頭がつきそうな大男、1人はガタイはいいものの極端に痩せている男、1人はリザードマンのような獣人、1人はサキュバスのような大人の色気を撒き散らす美女。


「あーもう、いつまでこんな生活を続けるんだよ、雨とか鬱陶しい!」

「計画が成功するまでの辛抱だ、ヒュラ」

「オデ……ここの生活、悪くない」

「そうねえ、あちきも結構好きよ。でも、早く魔界に戻りたいものねえ」

 

 そう、彼らこそが魔法少女チームが探していた四天王。誠は四天王とニアミスしていたのだ。どうやら、彼らは秘密の作戦を実行しているらしい。


 魔法少女達がその正体に気付くのはいつの日か――。

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