梅雨の中での四天王捜し

第38話 ジメジメの日々

 四天王を逃した後、俺はこの事をみんなに報告する。仁さんや瞳さんが俺と同じ感想を抱く中、真紀さんだけは何かを感じ取っていた。


「つまり、四天王は自分達でマーガを作り出そうと試行錯誤していたんじゃないかしら? それで完成はしたものの、作るのに大量の魔力を必要としてしまった。だから誠君と出会った時には弱りきっていたのよ」

「なるほど、そう考えると辻褄は合うわな」

「問題は何故マーガを作ろうとしていたかよね。それが分ければ四天王の行動を先回り出来るのだけど」


 流石の真紀さんも、四天王の行動の理由までは推測出来なかったようだ。ただ、彼らの最終目的が舞鷹市の魔界化だとすると、そこに繋がる行動なのだろうと言う予測は出来る。

 俺は、拳を強く握りしめて宣言した。


「とにかく、見つけ次第ぶっ潰す!」

「ほうやな。それしかないな!」


 俺と仁さんは意気投合してこれからの行動の指針を決めた。今後、またマーガが出てくるならそれを速攻で倒しまくる。そうする事で間接的に四天王も弱らせられるのだから、敵の目的と力を同時に潰せて一石二鳥だ。

 問題は、俺達がマーガを倒しまくった事で作戦を変えて来ないかと言う事。そうなったらそうなったで、対応していくしかないんだけど。


 で、翌日からどうなったかと言うと、四天王製のクソ雑魚マーガの大量出現と言う昨日と変わらない状況が繰り返された。あいつらには学習する頭がないのだろうか。

 とは言え、対応する俺達にとっては好都合であり、サクサクとマーガを倒しまくる日々が続くのだった。


 四天王の正体や潜伏場所については女性チームが対応してくれている。今は情報が何もない状態だけど、瞳さんの情報収集や真紀さんの占いの力で少しでも真相に近付いて欲しいところ。

 気にかかると言えば、レイラの存在も頭の痛い問題だ。彼女はあれから一度も見ていない。一体、今どこで何をしているんだ。



 俺達がマーガを倒しまくっている内に、カレンダーは5月から6月へと移り変わり、やがてジメジメとした梅雨の時期に移行していく。既に沖縄は梅雨入りした。地元も後1ヶ月以内に梅雨に突入するだろう。過ごしやすかった5月から6月の上旬ともそろそろおさらばだ。

 出来ればこの快適な時期に四天王を倒して、頭痛の種をなくしておきたかったな。


 四天王マーガは今も出続けている。弱さは変わらないものの、出現頻度は上がっていた。段々と雨の日が多くなり、俺達の戦いも濡れながら行う事が多くなる。四天王マーガは以前のマーガより弱いとは言え、一般人が対抗出来るほど雑魚でもない。だから、俺達が対処しなくてはならない。


「くそっ! 四天王はどこにいやがるんだ!」


 マーガの特性なのか、四天王マーガもまた日中にしか出現しない。だから俺達は夜には休む事が出来た。それと、空を厚い雲が覆い、日中でも夜みたいに暗い日もマーガは出現しなかった。

 そう言う大雨が降った日の日中、俺が仁の家で待機していると、巫女服姿の真紀さんが気合を入れて占うと言い始める。


「こう言う雨の日は集中力が高まるの。それに、雨は龍の加護なのよ。今日なら四天王の居場所を占える気がする」

「ほうか。じゃあよろしく頼むわ」


 仁さんは彼女に向かってサムズアップ。ついでにウィンクをしようとしたようだけど、上手く出来ずに両まぶたを閉じてしまっている。俺はそれを軽くスルーすると、真紀さんの手元に注目した。

 今回の彼女が行うはカードを使った占いだ。カードと言えばタロットだけど、今テーブルに並べられているのは見た事のない絵柄のもの。カード占いと言っても色々種類があるみたいだ。


 テーブルに敷かれた魔法陣のような絵柄の布の上に一枚ずつカードを裏返して置いていく。占いの開始からシンクロするように、窓からの雨音が激しくなってきた。今回の精度はかなり高くなりそうだ。見守っていた俺達は全員一言も喋らず、占い結果を固唾を飲んで見守る。

 やがて、真紀さんは裏返していたカードを一枚ずつゆっくりと表に返し始めた。全て返し終わると、その配置を見て何度もうなずく。


「うん、やっぱりそうね。四天王はこの街からは出ていない。住んでる」

「や、それはそうやろ」

「考えてみて。この街にいる、住んでると言う事は生活をしているって事よ。周りに怪しまれていないって事。普通の人間に擬態しているのよ」

「つまり、見分けがつかんと?」


 仁さんの質問に真紀さんはコクリとうなずく。つまり、俺達が人間に擬態した四天王に会っても正体に気付けないと言う事なのだろう。今後、真紀さんが正確に居場所を占えても、その住人が本当は四天王だったとしても、シラを切られたらどうにも出来ない。警察を呼ばれたら犯罪者扱いされてしまうかも知れない。

 この八方塞がり状態に、仁さんは軽く苛立った。


「じゃあ、どうしろって言うんや。このままマーガを潰しまくるしか出来んのか?」

「まずは四天王候補を絞っていきましょ。それで個人を特定出来たら、改めて問い詰めるとかしたら本性を表すはず。あたし達がやるべき事は四天王を倒す事じゃない。その目的をやめさせる事でしょ」

「ほ、ほうやな。分かった。候補を絞るんは任せた」

「この真紀様に任せんしゃい」


 真紀さんはドヤ顔で胸をそらして得意げに胸を叩く。こうして、彼女の占いの結果と今までのマーガの出没地点などの情報から、複合的に四天王の潜伏先を割り出していく。その様子はまさに警察か探偵かと思わせるほどだった。

 やがて空が明るくなってきたので、俺達はマーガ退治を再開する。早くこの状況が改善されて欲しいものだ。


 梅雨とは日本の雨季の事だ。その年によって雨が多かったり空梅雨だったりする。今年はどうやら雨の多い梅雨になったようだ。雨の中のバトルは正直やりたくない。相手が雑魚マーガだったとしても。

 魔法少女は魔法が武器とは言え、雨を弾く魔法は使えない。正確に言うと、覚えていない。魔導書に直接書かれていない飛行魔法みたいなものだ。雨を弾く魔法は存在しているのかも知れないけれど、それを俺達は知らないのだ。


 いくら相手が雑魚マーガでも傘をさして戦う訳にも行かない。魔法少女衣装に合羽を着ると言うのも気持ちが悪い。魔法で快適な合羽を出せばいいのかもだけど、そう言う手間をかけるより一撃を当てて倒した方が効率がいい。

 しっかり濡れると風邪をひきそうに思うかもだけど、心配は無用だ。何故なら変身を解けば身体はすっかり乾いた状態で復元されるからだ。魔法って素晴らしいな!


 俺達がマーガを倒している間に、真紀さんは発生源からプロファイリングをしていた。そこに擬態化した四天王がいるのではないかと当たりをつけてくれる。当然俺達はその場所に向かって確認してみるものの、やはり普通の人との違いが分からずに発見は出来なかった。

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