第37話 え? これってデート?
俺はこう言うシチュエーションでお馴染みの、見守る他の仲間がいないかキョロキョロと辺りを見回した。当然のように見当たらなかったけど。
俺のこの不審な行動に、瞳さんが軽く首を傾げる。
「どうしたんですか?」
「いや、真紀さんとか観察に来ていないかなって」
「あの人なら様子を見に来そうですよね~」
俺達はその様子を想像して軽く笑い合うと、チケットを見せて1番スクリーンに向かう。そこで、俺は身軽な瞳さんの姿を見て足を止めた。
「あ、ごめん。パンフ買うんだった? 飲み物とかは?」
「いえ? 私は買わない派なんです。ジュースとかそう言うのもなし。映画に集中したいんで」
「そっか。俺に気を使ってないよね?」
「当然です。逆に、誠さんがボクと同じ主義で嬉しかったです」
こうして俺達はチケット以外は何も購入せずに座席に座った。一度座ってしまったらもう心は劇場モードだ。隣に誰が座っていても気にならなくなる。いつも1人映画だから同席した人に気を使うのに慣れていないと言うのもあった。
それは瞳さんも同じだったらしく、着席してからは一言も話しかけてこなかった。
これから俺達が観る映画のタイトルは『名探偵ジャスティス 千葉幻想城の謎』。ジャスティスシリーズは毎年作られているファミリー向け定番ミステリアニメ映画で、俺は1作目から必ず劇場で鑑賞している。今作が11作目だからもうシリーズが始まって10年経つんだなぁ。
原作は少年漫画だけど、イケメンキャラが多いので女性ファンが圧倒的に多い。あ、だから瞳さんもこの映画を好きなのか。
気がつくと室内の証明が暗くなり、映画の予告編が次々に流れ始める。どの予告編も面白そうで、俺はその映像に釘付けになった。やがて映画泥棒が始まり、系列劇場のロゴが表示される。さあ、映画の始まりだ。
映画は主人公の少年探偵ジャスティスが世界を揺るがす陰謀を仲間の協力を得て阻止すると言うテンプレ展開だ。勿論映画ごとに切り口は違っており、今回はメイン舞台になった千葉の幻想城で様々な事件が同時多発的に発生する。
ジャスティスはこの問題をどう解決に導くのか、いつの間にか俺はスクリーンにのみ意識が向かっていた。ラストの派手でスリリングなバトルシーンの攻防を経て、映画はとびきりのハッピーエンドで終わる。
エンドロールを眺めながら、俺は映画の余韻に浸った。この作品はエンドロールが流れきった後にもおまけがあるので、最後まで目が離せない。勿論長寿シリーズなのもあって、他のお客さんも誰も席を立つ人はいなかった。流石訓練されたお客さん達だぜ。このおまけは基本的にギャグシーンだ。観ても観なくてもどうでもいいような下らないオチが多い。でもここまでがこの映画のテンプレで苦笑いで終わるのがお約束。
この茶番が終わって、来年も新作が作られるよと言う予告が出て終わりだ。そうして、やっと室内が明るくなる。
俺は先に席を立つと、座っている瞳さんの方に視線を向ける。
「じゃ、出ましょっか」
「ですね」
劇場を出た後、堰を切ったように瞳さんが饒舌になる。映画を観た直後だもんなぁ。そりゃ感想を語りたくもなるわな。俺は彼女のマシンガントークをたまに相槌を打ちながら聞いていた。同じ映画が好きだと言っても、どう感じるかはそれぞれなんだなと思いながら。
瞳さんの場合、物語の流れだとか整合性とかよりもキャラクターの魅力に注目していたようだ。ジャスティスの表情が可愛かったとか、ピンチシーンで颯爽とピンチを救ったイケメンライバルがカッコ良かっただとか。その情報量と観察眼には俺も舌を巻く。
「瞳さんもシリーズはずっと追ってるの?」
「劇場で見るようになったのは第6弾のシーサイドの白い悪魔からですね。それまではテレビ放送だったり動画とかで見てました。やっぱり劇場は違いますよね!」
彼女の返事に俺は軽く年の差を感じた。確か第6弾は5年前だ。彼女はその頃16歳だろうか。自分達だけで映画を観に行くのってこのくらいの年齢からだよな。俺もそうだったなぁ。当時人気のロボアニメの劇場版を観に行ったんだっけ。懐かしいなあ。
そんな感じで楽しい時間を過ごして、俺達はその後も一緒に行動する。ペットショップに行って動物達に癒やされたり、書店に寄ってそれぞれが好きな本を探したり……。
あれ、映画を観た後は現地解散でも良かったんじゃ……。これじゃ本当にデートみたいだぞ。まぁ瞳さんは俺の好みの範囲内だからこの状況もすごく嬉しいのだけれど。でも10歳離れているからなぁ。周りからはどう言う風に見えているのやら。
彼女に付き合って服のお店に入った時は特に視線を感じてしまった。周りは女性ばかりだからなあ……。
俺は何も買っていないけれど、瞳さんはかなり買い込んでいたので俺が代わりに持っていた。お腹が鳴ったので時間を確認すると案の定12時を過ぎている。
そこで、俺はショッピングモールを堪能してキラキラ笑顔の瞳さんの顔を見た。
「お昼どうしよう? フードコートでいい?」
「あ、ボクあそこのうどんが好きなんです」
「じゃ、行こっか」
と、まるっきりデートの流れを踏襲してフードコートに入ろうとしたところで、スマホが鳴る。仁さんからの電話だったのですぐに出た。
「休みのとこ悪いんやけど、マーガがまた出やがったんや」
「な、なんだってー!」
「結構数が多いんや。手伝ってくれると」
「すぐ行く! どこに行ったらいい?」
俺は瞳さんに事情を話し、すぐにマーガ退治に向かった。魔王が復活してもう魔素はなくなったはずなのにどうして?
変身して指定された場所に向かうと、すぐに敵を発見。しかし今まで見てきたものより形が不定形で、ちょっと触ると崩れそうな出来損ないみたいな姿をしている。この予想は当たり、マジカルブルースター1発で消滅した。
「むっちゃ弱いぞコレ」
その後もこの謎マーガをシャボン玉を割るように倒していくと、俺の目の前に見慣れた2人を含む4人組が見えてきた。ヒュラとヌーンがいるから、アレが四天王なのだろう。俺はヤツらが力を合わせてマーガを生み出すシーンを目撃する。
「そう言う事だったのか……」
俺は生まれたばかりのマーガを倒して、四天王の前の降り立った。ヤツらは俺が現れた事が想定外だったのか、全員目を丸くして顔を青ざめさせている。
「何で魔法少女がここにぃ?!」
「今は不味い! 逃げるぞ!」
「わがった!」
「ヒィィィ!」
最初に会った時は圧倒的な実力差のあった四天王が戦いもせずに逃げていく。この想定外の行動に俺は呆気に取られてしまった。その隙に四天王は魔法で作ったゲートに沈んでいく。一体ヤツらはマーガを使って何をしようとしているんだ。
俺は、この四天王の起こしている謎行動に頭を悩ませるのだった。
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