第36話 ゴールデンウィークを楽しもう

 4月の終わりから始まるのがゴールデウィークだ。映画業界が作ったこの時期の連休の名称。多くの人はその流れに乗って休日を大いに楽しむのが定番だ。

 けれど、俺達に休みはない。いつ四天王が行動を起こすか分からないからだ。3月の黄砂のように、また気候攻撃を仕掛けてくるかも知れない。全てに注意を払っていないといけないのだ。


 と、思っていたのだけれど――。


 5月に入って、仁さんの家には俺達と妖精猫達、そして瞳さんと真紀さん、つまり魔法少女チームが勢揃いしていた。

 ここで、青いブレザーのミニスカ制服を着た真紀さんが全員の顔を見渡した。


「今までずっと動きがなかったし、今はゴールデンウィークだし、たまには休まない? 全員だとアレだから交代でさ。勿論何かあったらすぐに集まるって事で」

「それええな。やっぱ休みも必要やろ」

「じゃ、決まりね」


 何故なのか分からないけれど、仁さんと真紀さんが合意した事で交代休日の話がなし崩し的に決まってしまった。俺の意見は? 瞳さんの意見は?

 ただ、確かに不気味なほどに四天王の動きはないし、今日までずっと警戒していて緊張の連続だったし、この辺りで少しは羽を伸ばした方がいいのかも知れない。


 休日について言えば、それぞれが希望を出してそこから調整する流れになった。俺は休みとか正直どうでも良かったので、全員の意見が出揃ってから決める事にして状況を見守る。

 まずは仁さんが休みを取って、次に真紀さんと言う流れになり、俺と瞳さんが残る。ここで真紀さんがニコニコ笑顔で話を振った。


「瞳ちゃん、次休みなよ。5月5日」

「えっと……ボクはほら、別に休みは。だって普段は週一しか協力出来てないし」

「いいのよ。その分休みは精力的にやってんじゃないの。やりたい事とかないの?」

「この活動がやりたい事ですし」


 瞳さんは休むつもりがないらしい。そう言う人は別に休まなくていいんじゃないかな。真紀さんも彼女の説得には難儀しているようだ。

 結局は瞳さんの休みについては後回しになり、真紀さんは俺の方に顔を向ける。


「誠君はどうする? 休み」

「じゃあ俺は6日で」

「何かやったりするの?」

「折角だし、映画でも観よっかな」


 俺の予定を聞いた真希さんの目がキラリと光る。


「映画、いいわね。そうだ! 瞳ちゃんも同じ日に休みなよ」

「「えっ?」」

「誠君と一緒に映画でも観てきたら?」

「「えっ?」」


 俺と瞳さんは真紀さんの提案に返事をシンクロさせた。その息の合いっぷりに俺達以外はニコニコしている。何この雰囲気。俺、あんまり周りに流されるのは苦手なんだけど。

 瞳さんも迷惑だろうなと思って顔を向けると、頬を赤く染めてるし。いや、こう言う状況になったら意識しちゃうのも分かるけれども。困ったな。


 俺は、この状況を打破するための作戦を思いつき、速攻で開始する。


「で、でも映画って趣味が合うかどうかも大事だから。瞳さんだって苦手ジャンルの作品を観たくないでしょ。俺だったら嫌だし。それなら同じ日に休むってだけでいいじゃないですか」

「うーん、確かに別々に過ごすならそもそも同じ日に休まなくてもいいわよね。あ、そうだ! お互い、何の映画を観たいか紙に書いてみて。それが同じ映画だったら一緒に観に行くって事で」

「「はぁっ?!」」


 また返事がシンクロしてしまった。確かに俺と瞳さんの趣味が合わなきゃ同じ映画を観る事は回避出来る。それならと俺は納得してうなずいた。瞳さんも遅れてペコリと頭を下げる。

 こうしてお互いに自分の観たい映画を書いて裏返して真紀さんに提出した。その結果を見た彼女の顔はニマニマといやらしい笑みに変わる。


「うふふ、2人共同じ作品じゃない。やっぱりあなた達相性がいいのよ」

「「ええっ!」」


 まさかここでもシンクロしてしまうだなんて。俺と瞳さんは思わず顔を見合わせてそしてほぼ同時にうつむいた。何だかすごく気まずい。なんだこれー!


 観たい映画が同じと言う奇跡のシンクロを引き当ててしまった俺達は一緒に映画を観ると言うミッションを強引に押しつけられそうになる。けれど、考えてみればこれはおかしい。一番大事なお互いの気持ちの確認が抜けていたからだ。

 なので、俺は今の自分に出来る精一杯の抵抗を試みた。


「ちょっと待ってくれ。映画の好みが同じだから一緒に観ればいいって変じゃないか? 映画は1人で観たい人もいる。や、俺はいいんだよどっちでも」

「瞳ちゃん、誠君と映画観るの嫌?」

「そ、それはないです! ただ、私と一緒に観るの、誠さんの方が嫌なんじゃないかと」

「そんな事ないよ! むしろ嬉しいって言うか……」


 俺のその一言が決定打になってしまった。むう、真紀さんは策士だ……。


 そうして、四天王が何の動きも見せないままゴールデンウィークが過ぎていく。まずは仁さんが休み、次に真紀さんが休む。2人が交代で休んでいる間にも何も起こらなかった。ちなみに、2人が休日をどう過ごしていたかを俺は知らない。全く興味がなかったからだ。日帰り旅行をしたのかも知れないし、釣りとかキャンプとかのアウトドアを楽しんだのかも知れない。

 仁さんが休みの時、俺達は彼の家に集まったものの朝から姿は見えなかった。だから、どこかに出かけたのは確かだ。


 そんな訳で、気がつくと5月5日も過ぎてしまう。まぁ言われたからっても守る必要はないものの、市内の映画館で俺の好きな映画を上映している劇場はひとつしかないし、観たい上映時間が被れば必然的に会う事になる。

 そして、チケット売り場に行くと、そこにいつもより気合を入れて身だしなみを整え、全身を黒で決めた瞳さんに遭遇した。


「あっ」

「お、おはようございます。今日はいい天気で良かったですよね」

「そ、そうだね」

「じゃ、行きましょう」


 ここで出会ってしまってはもう後には引けない。俺達は横に並んで券売機に並び、隣同士の席を選んだ。映画を観る席も個人差があるはずなのに俺が真ん中の席の少し後ろ辺りを選ぶと、彼女もその辺りの席が好きだからと、当然のように俺の隣の席を選択したのだ。正直この展開には俺の方が驚いた。


「別に俺に合わせなくても。好きな席を選んで良かったのに」

「やっぱり迷惑でした?」

「いや、そんな事はないから」


 なんだこれ。マジでまるでデートじゃないか。映画の後は一緒に食事をするパターンかぁ~。劇場はショッピングモールの中にあるから買い物や食事も出来るぞコレ。え~。マジでそんな流れになるんかぁ~。

 俺は映画を女性と隣同士で一緒に観ると言うシチュエーションが実現したと言うだけでテンパっていた。普段は単独鑑賞だから誰かと一緒に観ると言うだけでも未知の領域なのに、更にはその相手が一回りも若い女性と言う……。うわぁ~。未経験すぎて目が回るゥ~。

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