エンジョイGW

第35話 四天王の目的

 舞鷹市にまだいた四天王とレイラ対策。俺達はどう対処していいのか分からずに八方塞がり状態だ。そこに突然現れた占い師の真紀さん。彼女の登場がこの状況に風穴を開けてくれるのだろうか。

 そもそも、真紀さんがただ挨拶するためだけに訪問したとも考えにくい。俺は単刀直入に彼女に聞いてみた。


「仲間に入れてってって事ですけど、何か魔族について思うところがあるんですか?」

「ん?」

「理由を知りたいんです。俺達に協力する事であなたに何らかのメリットがあるのでしょうか?」

「あーそう言う事ね。私が占い師だからよ」


 いきなり禅問答みたいな返しになって、俺は答えに詰まってしまった。占い師だから俺達に協力する? 意味が分からない。

 俺が困っていると、仁さんが助け舟を出してくれた。


「つまり、お告げで協力するように言われたんやな」

「ピンポーン! そう、損得じゃないの。私がやりたいからするだけ。これでいいかしら?」

「な、なるほど……」


 俺は彼女の勢いに飲まれる。真紀さん、今までもこう言う感じで生きて来たのかな。ただ、その自由さは羨ましくもあった。俺がやってみたい生き方だ。

 彼女は俺達を見渡すと、軽くうなずいて腰に手を当てる。


「じゃあ改めて自己紹介しましょ。あたしの名前は九条 真紀。趣味はコスプレ。言ってみれば、今日は常識人のコスプレよ。占いとか降霊であなた達に協力するわ」

「ワシは村上 仁や。この家の主で、そこのマルに魔法少女に任命された」

「やあ。よろしくね」


 初対面の時にマルを初めて見た時にはかなりショックを受けていた真紀さんだけど、今回は何とかギリギリで耐えている。体は硬直して、表情を引きつらせてはいるけれど。


「ま、マルちゃん……。よ、よろしくねぇ」

「ちょ、兄貴を紹介するならあーしも紹介しなさいよ!」

「ヒィィィィ! まだいたのォ?!」

「そうよ! あーしはミーコ! 真紀、よろしくしてあげても良くてよ!」


 突然の伏兵の登場にショックを受けた真紀さんは、その場に尻餅をついて声を震わせる。俺は彼女のこの反応が新鮮で、心配になりながら手を差し出した。


「大丈夫ですか? 俺は円城 誠です。あのミーコに魔法少女にしてもらいました」

「あ、ありがと。うん、大体分かったわ。皆さんこれからはよろしく」


 改めて椅子に座り直した真紀さんに、仁さんがお茶の入った湯呑を差し出す。それを飲んで、彼女もようやく落ち着きを取り戻せたようだ。

 さっきの反応が気に障ったのか、珍しくミーコがテーブルの上に飛び乗った。


「あーし、そんなに怖い?」

「ごめんなさい。猫が喋るってまだ信じられなくて。いや、分かってる。妖精なのよね」

「そうよ。猫じゃないんだから。人が食べるものも普通に食べられるんだから」

「そ、それはすごいわね」


 ミーコと真紀さんが少しずつ歩み寄ろうとしているのを、俺達は微笑ましく見守る。真紀さんもマル達が嫌いなんじゃなくて怖がっているだけのようだし、慣れてくれば仲良くもなれるだろう。

 こうして顔見せも終わったところで、用事も終わったかなと俺達は思っていた。けれど、彼女がここに来た本題は別にあったのだ。


 真紀さんはお茶を飲み干すと、軽く咳払いをして俺達の顔をじいっと見つめる。


「今みんなが悩んでいるのって魔族の動向でしょ?」

「そうなんや。あいつら一体何を企んどるんや?」

「その目的を教えてあげる。あたしはそのために今日ここに来たのよ」


 真紀さんの目は真剣だった。霊能力のある瞳さんが本物と認めたその力を持ってすれば、魔族の目的も筒抜けと言うところだろうか。他に有効な手段を持っていない俺達は、この本物の占い師の言葉に注目する。


「四天王はね、この舞鷹市を魔界に戻そうとしているのよ」

「「な、なんだってー!」」


 彼女の衝撃的な一言に、俺達はまたしても劇画調の顔になる。まるで人類が滅亡してしまいかねそうなインパクトだった。


「あたしもあれから何度か占ってみたの。そこで天啓を得たわ。この舞鷹市はね、元々魔界の土地だったの。だから魔王も封じられていたし、マーガも生まれたのよ。他の土地ならマーガは生まれない」

「魔界って、そんな所からどうやってここに?」

「転移。舞鷹市は1000年前に突然この場所に出現したの。だから歴史が唐突なのよ。封印石のあった場所で発掘されている遺跡は、そう、魔界のものなのよ」


 真紀さんは迷いなく自説を展開していく。次々に提示される情報の波に俺は翻弄されてしまった。あまりに自信たっぷりに話すので、疑問を挟む余地がない。そうなんだろうなと思わされてしまう。これも占い師メソッドなのだろう。

 彼女によれば、元々魔界の土地だった舞鷹市のエリアは魔界特有の瘴気が出るので、魔王を封印していたのとは別の封印石でそれを封じていたらしい。魔王自体は日本に舞鷹市が転移した時には既に封印されていたものだと分かったのだそうだ。


「でね、この魔界特有の土地の力を活性化する事で、この街は魔界に戻る事が出来るようになっちゃうの。四天王はそれを実行しようとしているのよ」

「この街を魔界に戻す事がそんなに重要なんか?」

「魔王が封印されていたような土地でしょ。それだけ特別な場所なのよ。魔界にとっても必要なのでしょうね」


 真紀さんの話が事実なら、その野望は絶対に阻止してくてはいけない。舞鷹市は日本に有り続けなければ。この町の住人は魔族じゃなくて人間なのだから。

 俺はその最悪の結果が訪れた時のリスクについて質問した。


「もしここが魔界になったら?」

「恐らく耐性のない人はみんな死ぬでしょうね。魔界は瘴気に満ちた世界って話だよ。水も空気も質が違う。淡水魚が海に放流されるようなものよ」

「絶対に阻止せなあかんな!」

「ですね!」


 こうして、俺達の目的が決まった。四天王の野望を防ぐ事だ。どこでどのように暗躍しているか分からないからパトロールも密に、地元情報はどんな些細なものでもチェックしていく。一日の終りにはそれらを精査して次の目標を決める。

 まだ真紀さんの説が真実だと確定した訳じゃないけれど、最悪がそうだと仮定する事で、それがモチベーションにも繋がった。


 平日は学生で夜はバイトをしている瞳さんは週一くらいしか仁さんの家に来られないけれど、真紀さんは自由業なので毎日仁さんの家に来て俺達の活動のサポートをしてくれる。正直これは有り難かった。趣味がコスプレと言うだけあって、アニメキャラの衣装を着てくる事が多いのだけれど。

 魅力的なスタイルの人なので、肌色の多いコスプレをされると目のやり場に困ってしまうのがたまにキズだ。


 そして、パトーロルや情報収集活動も空しく、何の変化も掴めないまま日々は過ぎていった。気が付けば4月が終わろうとしている。この平穏は嵐の前の静けさなのだろうか。一体、四天王のヤツらはどこで何を――。

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