第34話 不審人物達の正体と再びのレイラ
俺達は4人の場所を引き継いだ形になり、一気に寂しくなる。時間は午後6時を回っていた。2人になったところで、改めて仁さんが俺の近くに座る。
「そろそろ弁当でも食べよか」
「ちょっと早くないっすか?」
そんな話をしていると見知った顔が歩いてくるのが見えた。瞳さんだ。キョロキョロと周囲を見渡しているのが見えたので、俺はスマホにメッセージを入れて気付いてもらう。俺達のいる場所が分かった彼女は、目を輝かせながら小走りで俺達のいる場所までやってきた。
「ごめんなさい。ちょっと急用が出来ちゃって。でもよくこんないい場所を取れましたね」
「ああ、元々この場所を使っとった人らに譲ってもらったんや」
「それは良かったですね」
説明は仁さんに任せて、俺は改めてライトアップされた桜を眺める。知り合いが全員揃ったのもあって、やっと俺は落ち着いて景色を楽しむ余裕が生まれたのだ。散り始めた桜の花びらが幻想的で美しい。どうやら俺は団子より花派のようだ。
情緒的な景色を眺めながら、ちびちびとお酒を飲む。周りの賑やかな声もこの空間を共有している一体感を高めてくれて、悪くはなかった。
「私、色々作ってきたんですよ」
「悪いなあ、弁当買ってきたんやけど」
「お弁当と一緒に食べましょ。お花見なんですから」
瞳さんが作ってくれた料理と、俺達が買ってきたお弁当。それとお酒。とっぷり暮れた夜に一番星が浮かび上がる。気分も高揚してきて、俺達は楽しく会食する。その頃には、ここで花見をしに来た目的をすっかり忘れて純粋に今の時間を楽しんでいた。
瞳さんと合流して1時間が過ぎた頃、何か派手な格好をした4人組が広場にやってくる。よく見るとそれは大道芸人的な人達で、営業的なアレで花見会場を巡っていただけだった。
真実が判明して呆れた俺は、思わずガリガリと頭を掻く。
「アレが例の4人組? 普通にプロの人達じゃん。噂はアテになんねー」
「ですねー。どうしてアレが謎の不審人物になったんれしょー」
「まぁ何でもええやん。ここに悪いやつはおらんかったんやー」
結局、花見会場に現れる不審人物の正体が分かった事で俺達の花見は終了。会場が閉まる前にさっさと片付けてお城を後にした。
城門を出て一般道に差し掛かったところで、瞳さんがペコリと頭を下げる。
「今日はお疲れ様でしたー」
「お疲れー」
「また明日からもよろしくなあ~」
ここで俺達も現地解散。この花見のために用意したものや4人組から受け取ったシートなどは仁さんが対処する流れに。俺は申し訳ないと思いつつ、彼の好意に甘える。
帰り道、見上げると夜空には満天の星空が広がっていた。心地良い風も気まぐれに頬を撫でていく。
「まぁ、こう言うのもいいか……」
翌日、日課のパトロールと言う名の散歩をしていると、見知った後ろ姿を発見する。穏やかな舞鷹市にそぐわない黒ローブ。そう、レイラだ。今日の彼女も相変わらずの単独行動をしている。
またこの街で何かやらかそうとしているのだと直感した俺は、気配を消して後をつける事にした。物陰に隠れたり、電柱の後ろに潜んだり。気分はすっかり容疑者の後をつけるベテラン刑事だ。
俺の存在に気付いているのかそうでないのか、レイラは黙々と道を歩いていく。目的地がしっかり定まっているのだろう。黒ローブもきっちり着こなしているからか、誰も彼女を奇異な目で見ない。もしかしたら俺達の魔法少女状態と同じで、あの服装でも誰も気にしない魔法みたいなものをかけているのかも知れない。
レイラの歩行スピードは割と早く、他の事に気を取られると見失ってしまいそうになる。山道を歩き、脇道に入り、田んぼの間の畦道を進んでいく。かなり土地勘がないと行けない道だ。ここまで来ると、俺でも知らない場所になる。何故彼女はこんな道を知っているのだろう。
いや、そもそも本当にレイラは目的地に向かって進んでいるのか? 俺の尾行に気付いてからかっているだけじゃないのか?
「あっ?」
一瞬考え事をしてしまっただけで、俺は彼女を見失ってしまった。周りを確認しながら取り敢えず進んでいくと、何もない原っぱに出てきてしまう。当然そこにレイラはいない。
原っぱには大きな石がいくつもあった。まるで何かの遺跡みたいに。
「ここが目的地だった……のか?」
誰もいない原っぱにずっと立っていると、レイラを見た記憶も怪しくなってくる。俺は本当に彼女を尾行していたのか? 俺の頭の中だけにある幻想だったんじゃないか? 思考がループして段々気持ち悪くなってきたので、俺はレイラを見つける前の場所に戻る事にした。
かなり迷って涙目になったものの、心が壊れる直前で何とか見覚えのある景色に辿り着く。空を見上げると西の空が紅く染まっていた。
「今日はもうこの辺でいいか」
翌朝、いつものように俺は仁さんの家に向かう。そこでお茶を入れてくれた彼に昨日の事を話した。
湯呑を俺の前に置いた仁さんは、特に驚いた様子も見せなかった。
「レイラか。おったな、そんなヤツ」
「いや忘れちゃいかんでしょ。最初に封印石を壊した重要人物だよ」
「まぁほうなんやけどなあ……。まぁ何かしよるとしたら不気味やな」
見失ったのもあって、俺もレイラの目的は分からない。魔王が復活したのに、まだこの街に用があるのだろうか。仁さんも彼女の目的が分からない故に話がピンときていない、そんな感じだった。
俺達が出口のない迷路に迷い込んでいると、そこにマルも加わる。けれど、結局何も分からないのは変わらなかった。
「情報がなさすぎるね。取り敢えず、また彼女を見つけたらつけてみて」
「うん。了解」
そんな感じで今後の予定を詰めていると、インターホンが鳴る。仁さんに視線を向けると、今日来客の予定はないらしい。首をひねりながら彼が玄関に向かうと、しばらくしてドアが開く。どうやら不審人物ではなさそうだ。
俺が視線をそちらに向けると、来客の姿が見えてきた。
「はぁ~い。皆さん久ぶりねぇ~」
「えっ?」
驚いたのも無理はない。仁さんの家にやってきたのは、かつて瞳さんと供にお邪魔した占いの館の占い師、真紀さんだったのだ。やはり私服は中東っぽい衣装ではなく普通の洋服を来ていた。ちょっと化粧が濃いのは年齢相応なのだろう。いや、俺よりは若いとは思うんだけど。
ともかく、疑問が次々に浮かんだので俺は吐き出さずにはいられなかった。
「なんでこの家が? それも占い?」
「ま、占いでも分かるんだけど、瞳ちゃんに聞いたのよ。でね、ついでにあなた達の事情も聞いたの。それで協力しようと思って。あたしも仲間に入れてね」
これは心強い援軍が現れたと思っていいのだろうか。俺はすぐに家主の顔を見るものの、困惑している様子はなく、それどころかニコニコと笑みを浮かべていて、この状況を受け入れているみたいだった。マルも特に拒否する反応を見せてはいない。
となると、俺もこの状況を受け入れるしかないのだろう。真紀さんの仲間入りが、八方塞がりの俺達に救いの手を差し伸べる女神となってくれたならいいんだけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます