第33話 お花見会場での不思議な出会い

「今日聞いた話なのですけど、花見でとても楽しそうにしているところに、その人達が来たのだそうです」

「なんやそれ。お祭好きな連中なんか?」

「た、多分」

「じゃあ四天王と関係ないのかも。パトロールやめましょうか?」


 瞳さんの話で捜している人達と四天王のイメージがかけ離れた事で、俺は一気にやる気をなくしてしまった。花見会場パトロールの行為自体が無駄に思えてきたのだ。俺達が無関係な場所を調べている間に、本物の四天王が別の場所で暗躍しているのかも知れない。

 けれど、仁さんの考えは違っていたようだ。


「じゃあ、ワシらがその花見をしようや。盛り上げたんで!」

「それ、仁さんが花見をしたいだけなんじゃ……」

「ええからええから。酒飲んで騒ぐんは得意やけん」


 この強引な流れで、俺達は花見をする事になった。花見会場はつい最近もその怪しげな四人組が現れたと言うお城前の広場。最盛期には屋台も出てかなり賑わう地元有数の花見スポットだ。勿論植えられている桜も立派で、多くの人がその景色を見るために集まってくる。

 お祭好きな4人組は、盛り上がると派手なパフォーマンスをするようで、結構有名人になっているらしい。どうして俺達が見回っていた時には出会えなかったんだろう。時間帯が悪かったのかな。


 お花見に2人と言うのは少し寂しいので、瞳さんにも協力してもらう事に。料理は市販の花見弁当を買って、後はお約束のお酒を用意する。とは言え、俺は詳しくないので仁さんに一任。あの見た目の通りに結構お酒は好きらしい。騒がないと来てくれないなら、俺も羽目を外すくらい飲んだ方がいいんだろうな。

 瞳さんの話によれば、例の四人組は夜に出没する事が多いらしい。ライトアップされた桜が好きなのか、昼は別の事をしているのか……。


 そう言う事前情報を得ていたので、俺達は午後5時に花見会場に着くように調整して出発。瞳さんとは現地集合の形を取った。個人の事情もあって遅れるかも知れないとの事。まぁ、行き当たりばったりでかなり適当な計画だ。

 始まってしまえば、別におっさん2人の花見でも構わない。それはそれで気楽でもあるし。


 広場に着くと、広場のあちこちで既にいくつものグループが陽気に花見をしている。桜の方は満開を迎えて既に散り始めてもいた。散る桜の花びらとお城のコントラストが素晴らしい。しかもライトアップされているものだから、その美しさは更に際立っていた。

 俺はこの日本らしい情緒に溢れた美しさに言葉を失う。


「この時間帯に来たのは初めてだけど、いいですね」

「まずは場所取りやろ……まぁいい場所がある訳ないけどな」


 どうやら仁さんは花より団子のようだ。まぁ、純粋な花見に来た訳でもないし、仕方ないか。花見と言えば一番大事なのは場所取りだとも言われている。いくら騒ぐのが一番の目的だとしても、桜が全然見えないところで宴会ををしてもちっとも面白くない。やはり花見は桜が見えてこそなのだ。

 と言う訳で、俺達はベストな場所を求めてうろつきまわる。どこかのグループが宴会終えればその場所に陣取れるのだけど、そんなにタイミングよく場所は空かない。俺はあまりに行き当たりばったりに来てしまったと後悔した。


「いい場所ないですねえ」

「困ったのう……朝からここにおったら良かった」

「兄さん達、2人かい? 良かったら一緒にどうだい?」


 突然呼びかけられて振り返ると、そこではシートを広げて花見をしている4人組がいた。見た目はそこまで奇抜じゃないので、捜している四人ではないのだろう。その構成は男性3人に女性1人。仕事仲間とかだろうか?

 俺は混ざっていいのか躊躇したものの、仁はすぐにその誘いに乗る。


「ほな、お言葉に甘よわい。ほら、誠も」

「あっはい」


 4人の関係は趣味仲間で、お花見はオフ会みたいなものらしい。後1時間程度でお開きにする予定で、そこで俺達を見かけて場所を譲る形で呼んでくれたのだとか。

 1人はガタイが良くて笑顔が人懐っこい斉藤さん。1人は眼鏡で神経質そうな木原さん。1人はこれもムキムキマッチョでサングラスをかけた強面のロバートさん。最後に紅一点で美女の黒百合さん。それぞれが軽く自己紹介をしてくれた。


「俺は斎藤だ。よろしく」

「私は木原と言います」

「あたしは黒百合優樹菜。よろしくねぇ。後、この無口なのはロバートって言うんだぁ」


 ロバートさんはペコリと頭を下げるだけ。1人だけ名前が日本人のそれじゃないけど、何らかの事情があるのか、ペンネーム的なものなのか、本当に外国人なのかも知れない。別にこの花見の間だけの関係なので、俺達も深く追求はしなかった。

 俺は人見知りするので距離を取っていたものの、仁さんと斎藤さんは馬が合ったらしい。すぐに打ち解けてビールで乾杯をしていた。


「「かんぱーい!」」


 まぁ花見だし、楽しくやるのが本来の趣旨だよな。それに、盛り上がれば例の4人組もやってくるかも知れない。現れるかどうかは運でしかないけれど。俺はこの場にいる4人をそれとなく観察してみた。仲良くなれそうな人がいたら話しかけてみようかなと思ったからだ。

 木原さんは神経質そうだし、ロバートさんは何か怖い。一番話しやすそうなのは斎藤さんだけど、既に仁さんと意気投合しているので逆に話しかけ辛かった。後は黒百合さんだけど――。


「誠君って普段何してるのォ~?」

「えっと、工場で部品作ってます」

「ふゥ~ん。楽しい?」

「そ、それなりに」


 彼女の方から積極的に絡んできて、対応に困ってしまう。息もお酒臭いし、もう相当飲んでいるんだろうな。俺はあまり酔った人と絡んだ事がないため、こう言う時はどう対応したらいいのか手探り状態だ。一言間違えばそこでトラブルになるかも知れない。それは避けなければ……。

 瞳さんは遅れるらしい。いたら対応してくれたかもなのに、残念。


 結果的に言えば、仁さんは楽しんでいて、俺は気まずい雰囲気だ。ロバートさんは黙々とお酒を飲んでいるし、木原さんはブツブツと呪詛のように小声で何かをつぶやいている、怖い。誰も俺に助け舟は出してくれない。

 しかしこの4人、本当に仲がいいのだろうか。良く言えば自由だけど、かなりバラバラだ。同じ趣味の集まりって言うくらいだから、もっと和気あいあいとしているものかと思ってた。俺達が割り込んだからなのかな。誘ったのはこの人達なのに。


 そんな精神的な苦痛の時間は唐突に終わる。俺達がお邪魔して1時間が経ったからだ。もしかしたら予定より長くいるのかもとすら思っていたから、この展開は意外だった。

 本当に1時間であっさりと退場していったのだ。


「仁、楽しい時間を有難うな。そのシートはお前らが使ってくれや」

「誠君、もっと話したかったわあ。さようならあ」

「……」

「花見、楽しんでくださいね」


 仁さんと斎藤さんがサムズアップをしあい、俺は黒百合さんから投げキッスを受ける。木原さんは振り返りもせずに去っていき、ロバートさんはペコリと頭を下げてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る