お花見会場での噂

第32話 お花見シーズン到来

 四天王ヌーンが島でやっていた黄砂や花粉症への魔力付与。その目的は分からない。発生装置を分析したマルも、機械の性能は分かってもその目的までは推理出来なかった。

 この事件で分かった事はまだ魔王四天王はこの街にいると言う事。それと、何らかの目的を持って今後も行動を起こす可能性が高いと言う事だった。


 俺達魔法少女が出来るのは日々のパトロールだけだ。敵の本拠地がどこにあるのかも分からない。何かが起きた時にその都度対応するしかない。懸念があるとすれば、力量の差だろう。俺達はまだまだ四天王とまともにやり会える実力を持っていない。前回追い返せたのは運良く不意打ちが成功しただけに過ぎない。だからこそ、空いた時間は特訓に費やす事にした。

 今はまだ大人と子供ほどの差があるかも知れない。だからこそ、対等なレベルにまで早く持っていかねば。次に対峙した時に少しでもまともなバトルが出来るように。


 もう妖精猫監督での特訓で磨ける力は極める所まで来たので、俺の修行相手はピンクになった。先輩魔法少女だけあって、動きも魔法の威力もまだまだ届かない。でもだからこそ、手合わせの度に少しずつ成長出来ていると言う実感があった。

 俺が強くなるたびに、ピンクも相対的に強くなっていく。これもまたウィンウィンと言っていいだろう。



 そんな感じで俺達が警戒をしている内に3月は終わる。不気味な事に、あの事件以降、ヤツらは全く動きを見せていなかった。本当に何もしていないのか、俺達が察知出来ていないだけなのか――。

 3月下旬から4月の始めは花見の時期だ。花見で人々が浮かれている時期こそ警戒が必要だろう。何も起こらなければいいのだけれど。


 日本各地に桜の名所があるように、ここ舞鷹市でも桜の有名な場所はいくつかある。各地の桜が五分咲き以上になって、それらの場所以外でも盛大にお花見が行われていた。俺達は花見会場を中心にパトロールをする。

 勿論、裏をかかれて全く無関係な場所で騒ぎが起きるかも知れない。ただ、その時はその時と割り切った。俺達の陣営は2人しかいないのだから。


 桜の花は日本人の心の原風景。俺だって桜の花を見ると美しいと思うし、立ち止まりたくなる。ぶっちゃけ花見をしたい。桜の下で楽しく食べたり飲んだりしたい。みんな楽しくやっているのにな。

 でも、ここに四天王が乗り込んできて台無しにしてしまったらと思うと、その思いを心の奥に仕舞い込むしかない。本当、あいつらどこにいやがるんだ。


 この間の事件以降、交流の復活した瞳さんには巷で流れる噂について調べてもらう事をお願いしている。学校やバイト先で聞こえてくる噂を聞かせてもらうんだ。そこから四天王の動きが分かったりするかも知れない。

 瞳さんは居酒屋でバイトをしているから、多くの噂を耳に出来る事だろう。本当、快く協力してくれて有り難い限りだ。


 桜の花が八部咲きを迎えた頃、その瞳さんの噂情報からいくつか気になる話が入ってきた。花見会場で不審な人物の目撃情報があったと言うのだ。


「公園で開かれていたお花見で異様な風体の人達がいたらしいんです。地元の人じゃないみたいで、誰もその人達の事を知らないんですよ。この話、どう思います?」

「それは怪しいのう。そいつらが四天王の可能性はあるわな。でも何なんや、あいつら花見の文化とかないやろ、魔族なんやから」

「その話が事実だとしたら、四天王は人間に化けてこの街に馴染んでる可能性もあるかも知れないな。何らかの目的があって」

「でもその花見の時にしか見かけていないんじゃ、俺達はどうやって捜せと?」


 噂の内容は分かったものの、確実にその人物に会えると言うものではなく、結局話は振り出しに戻る。とは言え、謎の人物の出没は一度限りじゃないと言う話もあり、捜す価値自体はあるものと言う結論に達した。

 今回も人捜しと言う事で、俺達は瞳さんの能力に賭けてみた。


「またフーチで捜してもらえんじゃろか?」

「言うと思ってました。やってみます」


 しっかり準備をしてきていた彼女は、テーブルに地図を広げてフーチを出して探索を開始。お馴染みのやり取りで、また今回もすぐに結果が分かるものと思っていた。

 しかし――。


「ごめんなさい。イメージが掴めなくて捜せないです」

「どう言う事や?」

「フーチも万全じゃないんです。物探しや人捜しの場合は対象をしっかりイメージ出来ないといけないんですよ」

「ああ、四天王のイメージが固まってないんだ」


 何かを探す時ってそれがどう言うものが知っているから見つける事が出来る。フーチを使う場合もその条件は同じものらしい。闇雲に感覚だけに頼っても、そりゃあ精度は上がらないだろう。

 こうして瞳さんの能力頼み作戦は失敗に終わる。


「やっぱ何でも楽をしようと言うのは虫が良すぎたんやな」

「じゃあ、地道に花見会場をローラー作戦しますか」

「しゃーないなあ。それしかないかあ」


 瞳さんは申し訳なさそうにペコリと頭を下げる。俺達は必死に彼女を慰め、何とか笑顔になってもらえたのだった。

 と言う訳で、俺達は翌日から花見会場限定のパトロールをする事になる。かなり確率の低い賭けではあるものの、そこに可能性があるのなら全力で乗っかるしかない。今の俺達にはそれしかする事がないのだから。


 舞鷹市に点在する花見会場だけど、そこまで広い場所はあんまりない。なので普通に二手に分かれて巡回する事になった。大きいところは多くなくても、ご近所の公園とかで宴会をしている事もあるので、全てを廻るのは困難だ。それでも、美しい桜の花に誘われて、とても気分良く見回る事が出来ていた。

 市内を流れる川沿いの桜、市民の森に広がる桜、桜がたくさん植えられている公園、お城の桜、海が見える展望台近くの広場……。それらの会場を大雑把に巡っていく。


 初日、二日目と該当するような花見客は見つからない。その頃には桜も満開になっており、どの会場の賑わいも花と同じくピークに達していた。


「やっぱりお花見はいいなあ。日本の文化だなあ」


 俺は川沿いの花見会場で桜と川の組み合わせと言う日本らしい風景に目を奪われる。そこはよく見かける風景ではあるものの、やはり桜の花が咲いている時は別世界のように見えていた。

 花見客のチェックもしたけれど、この会場にも目立つ人の姿は見当たらない。


 その日の夜、俺達が仁さんの家で反省会をしていると、インターホンが鳴る。瞳さんだった。


「遅くにごめんさい。新しいヒントが分かったので来ました!」


 彼女は息を切らしながら部屋に入ってきた。よっぽど重要な情報が分かったのだろう。俺はその勢いを目にして思わずゴクリとつばを飲み込む。

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