第31話 ヌーンとの激闘、ブルーの起死回生の閃き

 一方、彼と初めて出会ったピンクは歩みを止めない。機械の操作に夢中でまるっきり俺達に気付いていないノッポの男を前にして、彼女は両手を広げて大袈裟な演技がかったリアクションをする。


「まあ、スゴイ機械ね。何に使うものなのかしら?」

「小生の聖域に邪魔者? ぬわー! 魔法少女!」


 声をかけられて視線を向けたヌーンは、想定外の魔法少女の登場に驚いて足場から落ちた。3メートルくらいの高さから落ちたヤツは服についた埃を手で叩いて落として、改めて俺達の前に立つ。

 威嚇するように見下ろすヌーンに対して、ピンクは無邪気な笑みを浮かべた。


「この機械は何に使うものですの?」

「魔法少女には教えぬ! とっとと帰れ!」

「では、力付くで教えてもらいますわね!」


 宣戦布告をした彼女は、後方に向かって高くジャンプしながらステッキを振った。


「マジカルシューティングピンク!」


 ピンクのステッキから放たれた光の矢はヌーンの体に直撃して爆発。それが全くのノーダメージだと言うのは一度戦った俺には分かる。ヤツはよく分からない力で魔法を無力化出来るのだ。

 爆風が消えると、案の定ピンピンとしているヌーンが現れる。


「そっちの青いのと同じだな。小生には効かぬよ」

「知ってる」


 ピンクは爆風が消えるまでのタイムラグで、ヌーンの懐まで潜り込んでいた。そして、勢いよくステッキをヤツの体に押し付けると同時に呪文を詠唱。


「マジカルスーパーボム!」

「ぬおっ!」


 マジカルスーパーボムは爆裂魔法だ。ステッキから放たれた光の粒子が対象物に当たる事で大爆発を起こす。本来は飛び道具なのだけど、それを直に当てるだなんて。流石にこの攻撃は弾ききれなかったのか、ヌーンは大きく体勢を崩した。

 それを確認したピンクは、勢いよく振り返る。


「ブルーも手伝って! 畳み掛けるよ!」

「あ、うん」


 バトルが始まってからずっと傍観していた俺は、すぐにピンクの隣に立った。よろけていたヌーンは何とか体勢を立て直そうとする。俺達は顔を見わせると、ステッキを魔法分解してグローブにまとわせた。


「「オラオラオラオラオラオラオラオラオアラオラァ!」」


 俺達は勢い任せでヌーンを殴る。殴り続ける。殴り倒す。反撃の隙なんて与えない。とにかく力の限り殴り続けた。見た目脳筋でないヌーンはサンドバック状態だ。俺は手を止めたら特大の反撃が来ると恐れ、とにかく殴打を続ける。ピンクも俺に合わせて殴り続けていた。

 殴られるままになっていたヌーンは、俺達が息を合わせて打ち込んだ特大のアッパーがいいところに入ってそのまま高く空中を舞う。


「やったか!」

「ピンク、それ禁句」


 俺がピンクをたしなめていると、地面に激突したヌーンがゆらりと立ち上がる。まるで全くダメージを受けていないみたいに。不審に思った俺はヤツの体を凝視する。すると、ヌーンの体には殴り続けたダメージがほぼ蓄積されていない事が分かった。

 顔は腫れていないし、服も大して汚れてはいない。殴っていた時は手応えも感じたけど、その感触も嘘だったのかもと疑うくらいだ。


「勝ったつもりだったか? あの程度の打撃、小生には風に撫でられた程度よ」

「ぐぬぬ……」


 珍しくピンクが悔しがっている。相手は四天王だから攻撃が通じないのも同然だ。俺は殴り続けて疲れて肩で息をしている。それに対して、ヤツはどうだ。攻撃を全て受け入れていたのにダメージが残っていないどころかピンピンしている。

 こっちはかなり消耗して残り魔力だって少ない。俺は今のままでは絶対に勝てないと確信した。


「ピンク、このままでは勝てないよ。何か作戦を……」

「ビックバンを使う。時間を稼いで」

「いやそれは危険」

「今それ以外で勝てる手はある? ないでしょ」


 ピンクはまたしても全ての力を使い切る『マジカルビックバン』を使おうとしている。使ったら最後、そのまま倒れて行動不能になるその魔法を俺は使わせたくはなかった。

 幸い、この魔法の発動には少し時間がかかる。俺は今から速攻でヌーンを倒せばいいと頭を切り替え、そのイメージを強く頭に焼き付けた。


「これだ!」


 心の中で光が一瞬で動き回り、生み出された計算式が超高速で展開されていく。その形が収束した時に見えない扉が開いて、意識の中に何がが降りてきた。間違いない、これは新しい魔法だ。

 この極限状態で思いついた魔法を俺はぶっつけ本番で試す。成功すれば、今まで以上に早くて重い攻撃が出来るようになるはずだ。


「マジカルブルーブースト!」


 呪文の詠唱と共に光の粒子が体全体に浸透していく。この状態で俺は力強く地面を蹴った。この瞬間から俺の体は魔法の光と化す。この状態だと、考えて動いていては行動が間に合わない。そこで何もかも全て無意識に任せた。

 流石のヌーンもこの不意打ちに対応が遅れ、俺の一撃が頬にクリーンヒットする。


「オラァ!」

「グボァ!」


 一撃を当てたところから、俺の記憶が飛ぶ。まとわせた粒子の密度が濃すぎて、認識がついていけなかったのだ。薄れゆく意識の中、俺はキックやパンチを何度もヌーンに浴びせてかけていた。全てが無意識での攻撃だ。

 気がつくと俺は地面に倒れ、ピンクに揺さぶられていた。


「ブルー、大丈夫?」

「うぅ……」

「良かった。生きてるね。あいつ、いつの間にかいなくなってたよ」

「えぇ?」


 彼女の話によると、俺の体をまとっていた光が消えて倒れた時、ヌーンは工場からいなくなっていたのだそうだ。ヤツが操作していた機械を置き去りにして。


「きっとブルーの気迫に恐れをなして逃げたのよ」

「はは、そうだといいけど」


 ヌーンがいなくなった事で認識阻害魔法陣も消える。俺達はこの機械が黄砂の原因と考えて、マルに見てもらう事にした。ピンクがステッキで機械のデータをスキャンして情報を送ると、黒の妖精猫はすぐに正体を理解する。


「確かにこの機械が黄砂を作り、花粉にも魔力を込めているみたいだ。操作すれば止まるから、僕の言う通りにして欲しい」


 マルの指示でピンクが操作盤を動かし、機械は停止する。その後、不正操作を感知した機械は自動的に消滅した。ヌーンがそのように細工していたのだろうか。

 その事を報告すると、仁さんの家で窓から黄砂の様子を見ていたマルも空が青空に戻った事を教えてくれた。これで一件落着だ。


 休憩していくらか回復した俺は立ち上がり、ピンクと供に仁さんの家まで戻る。俺のマジカルブルーブーストはピンクのマジカルビックバンと違い、力を使い果たす魔法ではないようだ。

 とは言え、仁さんの家に戻ったところで俺は今度こそ力を使い果たし、その日は彼の家に一晩泊まる羽目になってしまったのだった。

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