第24話 脳筋ヒュラVS速さのピンク
俺はこの筋肉タイプの敵とどう戦えばいいか、頭の中でシミュレーションする。行き当たりばったりで前面に飛び出してきたけれど、ここから先は戦略を練らないと……。
「マジカルシューティングピンク!」
「えぇっ?!」
俺が考えている間に、ピンクが速攻でステッキをかざした。彼女のステッキから放たれた魔法の光の矢はヒュラの肌に直撃したものの、呆気なく弾けてしまう。やはり並の魔法攻撃は無意味なようだ。流石は四天王を名乗るだけはある。
「なら、同じ土俵で! マジカルフルパワー!」
「ほう? その小さな体で来るか! 面白い!」
パワー特化したピンクは、以前より数段素早さとパワーが上がっていた。仁さんもまた、日々のマーガとのバトルで腕を磨いていたのだろう。俺の目でも捉えられないくらいの速さでヒュラを翻弄し、隙を見つけては正確に急所に向かってに拳を放ち、蹴りを入れる。
しかし、四天王の鍛え上げられた肉体にどれほどダメージを与えられているのか。ヤツの表情には一切苦痛の色が見えていない。まるで、子供のおふざけパンチを甘んじて受ける父親のようだ。
「ピンク、効いてない!」
「そんなの分かって」
ピンクがパンチを打ち込もうと振りかぶったところで、ヒュラが彼女を掴んで放り投げる。小さくなった人影はきれいな放物線を描いて俺の視界の届かないところに落ちていった。ピンクは大丈夫だろうか……。
しまった、傍観している場合じゃない。次に狙われるのは俺じゃないか。今の戦闘を分析すると、ヤツを倒せるとしたら規格外の強力な魔法攻撃しかない。現時点での俺にそんな魔法は――。
「そこの青いの、お前はかかってこんのか?」
「うっ……」
ノーダメージのヒュラは、俺に向かって挑発をする。力の差は歴然なのに、何故先制攻撃を仕掛けて来ないのだろう。まだ俺達の実力を測っているのか? だとしたら、いくらかこの時間を伸ばせるかも知れない。
俺はステッキを構えつつ、近付きすぎず遠すぎない程度の適切な距離を保つ。軽い膠着状態になったところで、ふっとばされたピンクが速攻で現場に戻ってきた。
「ごめん、ちょい油断した」
「怪我してない?」
「ノーダメ! 仕切り直しね!」
彼女がアイコンタクトをしたので、俺も覚悟を決めてステッキをグローブに変換する。パワー特化魔法は一昨日やっと習得したばかりだ。でもこれで協力体術魔法は最大限の力を発揮出来る。
俺達は息を合わせ、ほぼ同時にジャンプする。そしてぶっつけ本番でキックした。
「「スーパーダブル魔法少女キーック!!」」
攻撃対象のヒュラは微動だにしない。俺達がジャンプした段階でどう言う攻撃が来るか分かっていたはずなのにだ。つまりヤツは敢えて攻撃を受けてから反撃するプロレスラータイプなのだろう。それとも、俺達のキックの威力を過小評価している?
ピンクもどうやら俺と同じ考えだったようだ。俺達は同時に叫び声を上げる。
「「舐めるなあーっ!!」」
そして、キックは身長3メートルの大男の胸部に直撃。今度はノーダメージで弾かれる事はなく、その運動エネルギーは確かに巨体にダメージを与えた。ヒュラはその衝撃によって数メートルは後ずさり、俺達は反動を受けて着地する。
俺は失敗してよろけたものの、ピンクはしっかりと着地して現実を見据えた。
「嘘?! アレで倒れないなんて」
「俺様を後ずさりさせるとはな。報告通りの力だ。だがそれ以上ではない!」
ヒュラは思いっきり胸をそらし、無傷アピールをする。やはり俺達の戦闘力は分析されていたらしい。ダブルキックの威力すら知っていたのだとしたら、あのフェニックスマーガの時に見られていた?
とにかく、最大の切り札を防がれたと言う事は、今度は俺達の方がピンチだ。ピンクもそう判断したのだろう、すぐに移動を開始しようとし、俺も何とか体勢を立て直す。
しかし、俺達が散開をする前にヒュラが目前に迫ってきていた。何と言うスピード!
「オラアアア!」
大男が繰り出したのは、その鍛え抜かれた丸太のような腕から繰り出される剛力な拳。そのパンチの直撃を俺達はギリギリで避ける。避けたはずだった。
なのに、振り抜いた腕から発生した風圧で俺達は簡単に吹き飛ばされてしまう。
「「キャァァァ!!」」
この想定外の展開に受け身を取る事も出来ず、俺は地面にバウンドする。魔法少女衣装、しかもパワー特化バージョンだったから落下の衝撃によるダメージはかなり吸収されているはずだ。それなのに、痛みでしばらく立ち上がれなかった。ピンクは大丈夫なのか?
一方で、攻撃を繰り出したヒュラの方は俺達の様子を確認するとニンマリと口角を上げた。
「ほう、直撃は避けたか。面白い」
「面白がっているのも今の内だから!」
そこに立っていたのはピンク。どうやら吹き飛ばされつつも上手く空中で姿勢を調整して、見事にノーダメージで着地したらしい。流石バトルの経験値が違う。
彼女はグローブにまとっていた魔法の粒子をステッキに戻す。体術では勝てないと判断したのだろう。魔法ならもっと強い威力の攻撃も出来る。体力と引き換えになるけれど。
ヒュラの方も、もう遠慮はしていなかった。パワー系らしい格闘系の攻撃は続く。大振りのパンチ、大振りのキック。それらをピンクは蝶のように舞って紙一重で避けていく。発生する風圧もとんでもないため、俺は起き上がっても近付く事さえ出来なかった。
「こんなに力の差があるだなんて……」
俺は何も出来ない歯がゆさに唇を噛む。体型的に劣勢に見えるピンクが善戦しているのは、ヒュラのパワーに対してスピードと技術でカバーしているからなのだろう。俺もあの領域まで極められるだろうか……。
俺はこの戦いから生じる風圧を耐えるので精一杯。周囲も台風並みの風で木々が折れてしまいそうだ。これだけ騒ぎになっていたら人々が集まってくるかも知れない。このバトルは早く終わらせた方がいい。
しかし対峙している2人共、どちらも決定打が出せないみたいだ。見る限り、実力は拮抗しているように見える。どちらかがミスをした時に決着がつくのだろう。
俺があの中に入れたなら、ヒュラの気を引いて一瞬でも動きを止められるかもなのに。
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