四天王来襲

第23話 封印石の前に現れた大男

 封印石の詳しい調査については瞳さんに一任する事にして、俺達はマーガ退治と封印石の保護に専念する。とは言え、俺は相変わらずの休日魔法少女だった。一応、仕事帰りには封印石パトロールをしている。

 敵が間抜けなのか、今のところ現存している封印石は無事だ。ずっと無事だといいのだけれど――。


 マーガの出現は相変わらず続いていて、倒しても倒しても出現頻度は変わらないらしい。ピンクも大変だと思うのだけど、遭遇するのが雑魚ばかりなので気にするなと仁さんは言う。

 俺は俺で相変わらず魔法の修行を続けている。いつ敵の幹部が襲撃してくるか分からないからだ。今の修行はほぼ自主練。最初はミーコが付き合ってくれたものの、飽きたのか、それとも任せられると判断したからか今はノータッチだ。まぁ、俺もその方が気楽でいいんだけど。


 飛行魔法は今読んでいる魔導書の項目には見当たらない。ミーコに聞いても曖昧な事を言うばかりだ。ただ、否定はされていないところに希望は見出している。魔法少女が空を飛べたらすごく便利なのに、何故積極的に教えてくれないのだろう。

 今日の自主練修行は反射鏡魔法だ。これは攻撃エネルギーを反転させるもの。上手く使いこなせれば防御と攻撃を同時に出来る。簡単には覚えられないけれど、何とかモノにしなければ。


 練習をしている内に就寝時間になる。集中しすぎて脳が危険信号を発していたので、気分転換に窓を開けて夜空を眺めた。外の空気を吸って深呼吸すると気分がかなりクールダウンする。吹き込んでくる風も気持ちいい。夜の風は昼間の風より浄化の力が強いのかな。

 星空を眺めていると、半月のお月様の光が目に飛び込んできた。


「いつまで続ければいいんだろうな……」


 俺はしばらく星空を眺める。流れ星は見えなかったけれど、天上の星々が見守ってくれているような気がして心が休まっていった。

 満足したところで布団に潜り込む。今日もよく頑張ったと自分を褒めて、そのまま深い眠りに落ちていった。


 日課になった封印石のチェックは、数をこなす内にかなりルーチンワーク化していった。もちろん手抜きはしていない。していないはず。少しでも異常があればちゃんと調べるし、場合によっては仁にも連絡する。

 今のところは残っている封印石はどれも破壊されてはいない。今日の結果も同じだ。もし敵の幹部が復活していたら、すぐに封印石は見つかってしまうだろう。石に変化がないと言う事は、やはり幹部が現れると言うのはガセだったのだろうか――。


 休日は午前中に封印石チェックをする。その日は天気が快晴で空気もとても澄み切っていた。今日も何も起こらないだろうと口笛を吹きながら最初のチェック場所、池の側の空き地に向かう。ここの封印石はかなり土に埋まってるんだよな。だから最初は見つけるのに結構探し回ったっけ。

 今ではもう余裕で見つけられるようになったこの場所の封印石。今日もサクッとチェックして次の場所に移動しようと歩いていくと、俺の視界に見慣れない大男が入り込んだ。


 身長は見た事がない高さで、2メートルなんてレベルじゃない。3メートルはありそうだ。漫画の世界の住人かよ。肌が緑色でないので、少なくともアメコミ世界の住人ではなさそうだ。上半身が裸なので、その系統ではあるのだろうけど。

 デカくて上半身裸と言う事で分かる通り、鍛え抜かれたムキムキマッチョマンだ。もしかしたら、あの妖怪マーガが言ってた俺達でも苦戦する敵ってのが――。


 相手が規格外のデカさだったと言うのもあり、かなり遠くから存在を確認出来たのはラッキーだった。俺はすぐに物陰に隠れて魔法少女に変身する。ピュアブルーになったところで、気配を消して改めて大男の様子をうかがった。

 そいつは封印石を探しているのか、石の周りをウロウロと歩いていた。しかし、じっくり観察をすると、その動きは探しものをしている風でもない。誰かを待っているのだろうか。それとも待ち伏せ?


 危険な兆候を感じ取った俺はピンクを呼ぶ。ステッキを通じた魔法通信だ。テレパシーですぐに通じる。彼女が到着したら2人で倒そう。倒せるといいな。

 ピンクは10分もあったら到着すると言う。それまでしっかりと監視をしていなくてはいけない。俺の読み通りに待ち合わせをしていたのなら、石が見つかったり壊されたりする事はないだろう。けれど、読みが外れたら?


 短いようでとんでもなく長い10分は俺のメンタルを疲弊させていく。大男は相変わらず封印石の周りをぐるぐると歩き回るだけだ。もし仲間を待っているのなら、数が増える前に叩いた方がいい。だけど、俺1人でヤツを倒せる自信は全くなかった。

 気がつくと辺りはびっくりするくらい静かになって、風も吹かなくなる。大男は歩き回るのを止めて、その場で筋トレをし始めた。この行動で石を探している訳でもなく、仲間を待っている訳でもない事が確定する。


「間違いない。あれは待ち伏せだ。多分俺達を待っている……」

「俺達じゃなくて私達でしょ」

「うわむぐ!」


 俺が大声を出したので、すぐにもう1人の魔法少女に手で口を塞がれる。観察に夢中になって、俺はいつの間にかピンクが到着していた事に気付かなかった。こんな時でも魔法少女時の女の子設定を守っているとか、流石はピンク先輩だ。周りに人は全くいないのに。

 彼女も大男の様子を確認すると、口の横に手を添えて俺の耳元に顔を寄せる。


「あいつね」

「2人なら倒せると思う?」

「でも戦力はこれ以上増えない。行きましょう」


 ピンクがすぐに飛び出していったので、俺も覚悟を決める。俺1人なら勝てる気はしなかったけれど、ピンクがいるなら勝負にはなるはずだ。俺達は大男に前に並び立つと、すぐにポーズを決めて口上を叫ぶ。


「正義と慈愛の魔法少女、ピュアピンク!」

「秩序と博愛の魔法少女、ピュアブルー!」

「ククク、待っていたぞ……。俺様の名前はヒュラ。魔王様直属の幹部、四天王の1人だ」


 大男――ヒュラは、ご丁寧に自己紹介をしてくれた。やはり魔王軍の幹部だったようだ。四天王とかベタだけど、ベタだからこそ、その強さが伝わってくる。

 こいつの鍛え抜かれた肉体は普通レベルの魔法なら簡単に弾き返してしまいそうだ。力こそパワータイプ。きっと肉弾戦特化の戦士なのだろう。

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