第22話 雑魚マーガの最後の一言
「おかしい。反応がないです」
「どゆ事?」
「今その人はこの街にいないみたいです」
やはり神出鬼没な敵幹部。地図の範囲内にいなければ、最強のフーチを使っても辿り着けはしない。俺がどうしたもんかと腕を組んでいると、仁さんがポンと手を叩く。
「じゃあもっと広い地図を使えばええんやな?」
「範囲が広くなると精度がちょっと……」
どうやら瞳さんの能力では、舞鷹市の範囲以上の索敵は精度が厳しいようだ。結局この作戦は失敗と言う結論が出た直後、仁さんが急に外の方に顔を向ける。
「マーガが出た! 誠、行くぞ!」
どうやらまたマーガが出現したようだ。それにしても、どうして彼はマーガの気配に気付けるのだろう。単に俺の力が足りないだけなのだろうか? ただ、今はそんな事を考えている余裕はない。俺達は瞳さんや妖精達を部屋に残し、マーガを倒すために外に出る。
敵を見つけから変身していては時間のロスになるので、外に出て直ぐに変身した。
「正義と慈愛の魔法少女、ピュアピンク!」
「秩序と博愛の魔法少女、ピュアブルー!」
ピンクは、マーガ発生地点に向かって屋根伝いに長距離大ジャンプをしながら超高速で走っていく。俺もその後を追っているのだけれど、やっぱりこの移動はちょっとダサい。飛行魔法が使えたらいいんだけど、ピンクも使えていないから魔法自体はあったとしても習得は難しいのだろう。
俺は、今日のバトルが終わったら家にある魔導書をしっかり読み込もうと心に決める。
マーガが現れたのは市の中心部にある多目的広場。今日はこの広場でB級グルメのイベントなんかがあったみたいだ。マーガが現れてパニックになったかも知れないけど、既に人々はほとんど避難を終えていた。
俺達が到着した時、マーガは10人ほどの警察官が包囲している状態。先に到着したピンクが警察官の1人に声をかける。
「ピュアピンクとピュアブルー、来ました。後は任せてください!」
「ああ、分かったよ。頼む!」
流石はマーガ退治のベテランのピンク先輩だ。既に地元警察にも認知されている。俺はマーガの一般襲撃現場に来るのが初めてだったため、警察官の皆さんに向かって軽く会釈をする。
「君が新人のブルーさんだね。ピンクさんから話は聞いているよ」
「ど、ども……」
ピンク、どこまで警察の人と仲良しなんだ。まぁ、根回ししてくれていたのは嬉しいけど。俺達2人が揃って現れた事で、警察官は全員その場から撤退する。ちゃんと戦いやすい環境にしてくれるんだな。それもこれもピンク先輩の活躍のおかげなのだろう。とにかく、これで環境は整ったと言う事で俺達は目の前のマーガに集中する。
俺達の目の前にいるマーガの姿は、背の高さが180センチくらいで日本の妖怪を思わせるような和装。更には、体の所々が腐っていると言う有様だ。
「ゲゲゲ、お前らがレイラ様の言っていた魔法少女かェ」
「シャ、シャベッタアアアア!」
「ブルー、落ち着いて!」
妖怪マーガが喋った事に俺は動揺する。雄叫びを上げたり、ダメージを与えた時に悲痛な鳴き声を放つやつは今までにも見た事があるけれど、普通に日本語を話すマーガに出会ったのは初めてだ。そりゃ、驚くなと言う方が無理だろう。
なのに、ピンクがあまりに冷静だったので、思わずその理由を尋ねてしまった。
「ピンクは喋るマーガによく会うの?」
「いえ、私も初めて。でも大事なのは強さよ。よく見て、あいつは強くない」
「ピンクって見ただけで強さが分かるんだ。達人の見極め的な?」
「ブルーは分からない? でもきっと分かるようになるよ。あいつは雑魚ね」
力を見極められるピンクがそう言うのなら、多分その見立ては当たっているのだろう。普通、喋る敵は強敵だと相場が決まっているんだけどな……。
俺は一応強敵だった時の事を考えてステッキを構えつつ、慎重に様子をうかがった。
「ブルー、あのレベルにあんまり緊張しなくていいわ」
「楽勝で倒せる?」
「当然よ!」
ピンクはそう言うと、俺に向かってサムズアップをする。そして、いきなりマーガに向かって走り出した。現時点でも彼女の飛び道具魔法が十分届く間合いなのに。
「ゲゲゲ、飛んで火に入る夏の虫だェ!」
「マジカルシューテングピンク!」
マーガが何かしらの攻撃をしようと予備動作を始めたところで、ピンクの魔法が炸裂。攻撃途中の硬直状態を狙われたマーガに、ピンクの魔法の矢がザクリと見事に突き刺さった。
「ゲゲ……何も出来なかっ……」
この一撃が致命傷になったのか、マーガは前のめりでバタリと倒れる。彼女の言う通り、本当に雑魚だった。この現場に俺が来る必要あった?
マーガが動かなくなったのを確認して、ピンクはくるりと振り返る。
「ね?」
「私、来る必要あった?」
「いやほら、普段のバトルを見せたくて。ここまで雑魚だとは思わなかったけど」
彼女の方も、もう少し歯ごたえのある相手だと思っていたらしい。この結果に困惑した表情を見せるピンクに、俺も掛ける言葉を何も思い浮かべられなかった。
と、ここで俺はある事実に気付いてしまう。そう、マーガと意思疎通出来るなら、敵陣営の様々な謎を色々聞けたのではないかと言う事だ。
「あいつ、喋れたんだから拘束して尋問とかした方が良かったんじゃ?」
「あっ……。でもむっちゃ弱かったし、重要な事は何も知らないんじゃないかしら?」
「そ、そうかも……」
想定外の結果に微妙な雰囲気が漂う始めたところで、倒されたはずのマーガが少しだけ起き上がる。全力を振り絞っているようだ。
「ゲヘェ……流石に強いな……。けど、お前らの快進撃もここまでだェ……」
「それはどう言う?」
ピンクがすぐに振り返って真意を問い正そうとした時、既にマーガの体は徐々に崩壊している最中だった。そして、そのまま体が全て塵に変わってしまう。結局、最後に残した意味深な言葉の意味は分からずじまいで終わってしまった。
俺はマーガの最後の匂わせ発現に首をひねる。
「一体何が言いたかったのかしら?」
「素直に強敵が現れるって意味か、ただのブラフかしらね? ま、今から考えても仕方ないわ。帰りましょ」
「う、うん」
マーガも倒したと言う事で、俺達は現場を後にする。仁さんの家まで戻って変身を解いて留守番組と合流。瞳さんや妖精達に簡単に結果だけを話して、この日は解散になった。自分の家に向かいながら、俺は肩に乗ったミーコに話しかける。
「なぁ、マーガの最後の言葉、どう捉えたらいいのかな」
「ハッタリじゃねーの? もしくは四天王的な幹部がやってくるとか?」
その何気ないミーコの一言に、俺は目を丸くする。
「魔王軍に四天王とかいたの?」
「1000年前の話の方はあんま知らんけど、いてもおかしくねーでしょ」
「だよなあ……。あんま苦戦したくないな」
「それじゃ、帰ってから修行だな! 厳しく行くぞ!」
イキイキするミーコとは裏腹に、俺の気持ちはズンズンと沈んでいく。折角強くなったと思ったのに、それを上回る強敵が出てくるなんて勘弁して欲しい。
西の空は紅く染まって見事な夕焼けを見せてくれていたけれど、その美しさに気付かないくらいに俺は動揺していた。その後の会話の内容も全然覚えていない。
ああ、どうかあの言葉がハッタリでありますように――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます