第21話 瞳さんの知り合いの占い師
舞鷹市は人口が15万人程度の地方都市なので、そこそこの規模と言えるだろう。だからと言って、占い師が常駐するようなお店があると言う話は聞かない。だから瞳さんが向かう先に本当にその人がいるのかどうか、割と疑う気持ちが強かった。
迷いなく歩く彼女の足取りから言って、きっとそこの常連なのだろう。霊感があるからこそ辿り着けるとか、そんな感じなのだろうか?
瞳さんは商店街に入ると、あまり繁盛していなさそうな喫茶店のドアを開ける。俺も後に続くと、外見と全く違う内装にちょっとビビった。外は喫茶店そのものなのに、中に入ると占いの館っぽい雰囲気になっていたのだ。
「瞳さん、ここがそうなの?」
「はい、あの奥です」
俺がキョロキョロ見回していると、彼女がまっすぐ指を差す。そこにはひときわ目立つカーテンみたいなのが下がっていて、その中に例の占い師がいるらしい。雰囲気はバッチリだなぁ。
瞳さんが仁さんを連れてそのカーテンの奥に中に入っていったので、俺もすぐについていった。プロの人に占ってもらうのって初めての経験だよ。
中に入ると、そこには紫のヴェールを被って口元も隠した、いかにもな女性占い師が椅子に座っていた。ゲームの占い師みたいな中東っぽい服装なのは、制服的なヤツなのか、そう言う服が好きって言うだけなのか。多分前者かなぁ?
スタイルは抜群で、神秘的な香りを漂わせたりと大人の女性の色香を感じさせている。瞳さんとは正反対のタイプだ。
テーブルには商売道具の大きな水晶玉が鎮座していたりと、雰囲気は100点満点。ヴェールの中から覗く切れ長の瞳にじっと見つめられたら、仕事の悩みとか、恋の悩みなんかを自動的に喋ってしまいそうだ。
「いらっしゃい、瞳ちゃん。今日は賑やかね。今日はあたしに何を聞きたいのかしら?」
「こんにちは、真紀さん。今日はこの街の昔の事について視て欲しいんです」
「あら? 面白い依頼ね。どのくらいの昔なのかしら?」
「1000年前で」
瞳さんはキッパリ断言すると、キラリと目を光らせる。そして、占い師――真紀さんとバチバチに火花を散らした。お互いに名前で呼び合っていると言う事は、この2人はそれなりの交友があるのだろう。
とは言え、ベテランの占い師でもこう言う依頼は受けた事はないんじゃないかな。果たして受けてくれるものなのだろうか……。俺がそんな心配をしていると、真紀さんの視線が俺達の方に向いた。
「そちらのお2人もそれでいいかしら? 皆さんはあたしに過去の舞鷹市を見て欲しいのよね?」
「お、お願いします」
「1000年前にここで何があったか知りたいんや。本にも書いてないし、頼れるのはもうここしかないって……」
「分かりました。お任せください」
真紀さんはそう言うと水晶玉の上に両手をかざす。俺はツバをゴクリと飲み込んで様子を見守っていた。仁さんも肩に乗ったマルも、瞳さんも沈黙する中、占い師の彼女だけが真剣な眼差しで水晶玉に映っているであろう何かを見定めている。
俺はプロの占い師に何かを占なってもらうのはこれが初めての体験だ。だから、ここまで物語で出てくる占いのシーンとそっくりだとは思わなかった。占うのが1000年前の事だけに、お馴染みのタロットカードとかは使わないのかな。
俺達が見守る中、何かをしっかり感じ取ったのか、真紀さんはかざしていた手を下ろす。しかし、それで占いが終わった訳ではなく、手帳のようなものを取り出して水晶を見ながら素早く文字を書き始めた。水晶に何が映っているのか俺には分からなかったため、自然と視線は動く手元に吸い寄せられていく。
とは言え、俺の立っている位置からは何と書いているのかの判別は全然出来なかったのだけれど。
「1000年前、皆さんが求めているのはこの地の封印についてですよね?」
「は、はい……」
俺はこの言葉に驚いた。何故なら1000年前にこの土地で何が起こったかとしか質問していないからだ。やはり水晶玉には1000年前の光景が映っていた。そうとしか考えられない。
真紀さんは、そこで見えたものを冷静に語り始める。
「その時代、ここはあやかしが多数出没する危険地帯だったみたい。ただ、そう言う危険なものがいなくなれば、人が住むのに適切な場所だった。そこで、あやかしを滅するために陰陽寮から使者が派遣されたようね。かなりの数の陰陽師が対処に当たっていたみたい」
俺は、まるで1000年前の光景を生中継で実況しているような話しぶりの真紀さんの実力に圧倒されてしまう。
「陰陽師はあちこちに封印塚を建ててあやかしの出現を止めたわ。それが今も残っているのかしらね? まぁ私が見たものが真実だなんて断言は出来ないけど」
真紀さんはそこまで話すと顔を上げ、俺達の顔を見る。どうやらそこで一区切りがついたようだ。流石は実力のある占い師だなと俺は感心する。
俺達が沈黙する中、瞳さんがここまで聞いた上での質問を飛ばした。
「つまり、最初から5つの封印で封じた訳ではなかったと?」
「陰陽師達もどうするのが正解かは分かなかったみたいね。それであちこちに立てまくったのよ。そうやって正解を導き出したんじゃないかな。その5つって今も残っているものって事じゃないの?」
「確かに、こちらの知識がなければ出現条件も分からないし、その方法がベストなのかも……」
この見解を述べたのは仁さんの肩に乗ったマルだ。喋る猫のように見える妖精を目にした真紀さんは急に席を立った。
「その猫、喋るのかい!」
「あ、これはなあ」
「で、出ていって! 今すぐ!」
真紀さんは突然頭を抑えて苦しみ出す。慌てた俺達は何とか助けようとするものの、彼女はそれらの行為を全て拒否。しかも何故か携帯の電波も圏外になっていた。この状況に異常なものを感じた俺達は、逃げるように急いで店を出たのだった。
帰り道、マルを乗せた仁さんが興奮気味に俺の顔を見る。
「あの人は本物や。ワシには分かる」
「経緯はそうだったとしても、それ以外の事、例えば敵の目的とかも知りたかったなあ」
「そもそもの話、封印が解かれる前に黒ローブが既にいたんやろ? どう言う事なんや?」
「その謎を解かなきゃですね」
俺達の会話に瞳さんが割り込む。真紀さんの事について話していたと思ったら、いつの間にか話題が黒ローブのレイラの事にシフトしていた。今俺達が一番聞きたい情報を持っているのが敵の幹部っぽいのあの女だ。
考えてみれば、不確定な占いに頼るより暗躍している敵本人から話を聞いた方がより真実に近付けるだろう。
「ボクが居場所をフーチで探してみます」
「おお、頼んだで」
と言う訳で、また仁さんの家に戻った俺達は瞳さんの能力に頼る事になった。テーブルの上に地図を広げて鎖の付いた重りを垂らす。最初は縦横無尽に移動させていた手をある地点でピタリと止めると、彼女は首をひねった。
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