第19話 山の上に現れたフェニックスマーガ
「やっぱりアシスト自転車持ってくれば良かった。ここ、道が舗装されてるし」
「ワシがおぶったろか?」
「いえ、先に行っていてください。追いつきますから」
どうしても彼女が助力を拒否するので、仕方なく俺達は先に進む事にした。ある程度ぐるぐる回ったところで、それらしき場所に辿り着く。疲れが出てきた俺も、ゴールが見えてきて心がきらめいた。
「やっと着いたー」
「ちょっと待って、調べてくる!」
仁さんの肩に乗っていたマルは、急いで降りたかと思うとそのまま走っていく。きっとこの場所の封印に何らかの異常があったのだろう。俺達はお互いにうなずきあうと、すぐに猫妖精の後を追った。
そして、呆然と立ち尽くすマルを見つける。その先にあったのは――。
「石が破壊されてる……」
「間に合わんかったんか」
俺達が破壊された封印石を見て気を落としていると、背後にマーガの気配を感じ取る。反射的に振り向くと、そこには全長5メートルくらいの大きなフェニックスの姿をしたマーガが降り立っていた。
先にこの異形の存在に気付いた仁さんは、すぐに俺の顔を見る。
「変身や、誠!」
「はい!」
俺達は指輪をした手を頭上に叩く掲げ、魔法のステッキを具現化させた。そのステッキに内蔵された術式を自分達の意識で解錠し、光に包まれる。仁さんはピンクの光、俺はブルーの光でそれぞれ魔法少女に変身。ここからは仁さんはピュアピンク、俺はピュアブルーだ。
俺達は利き手にステッキを握り、見得を切った。
「正義と慈愛の魔法少女、ピュアピンク!」
「秩序と博愛の魔法少女、ピュアブルー!」
この言葉はお互い相談せずに決めたものだけど、うまく被らなくて良かった。相手は鳥型のマーガなので、見得を切ってもあんま意味ないかも知れないんだけど。
俺がこのアニメめいた儀式に多少の気恥ずかしさを覚えていると、ピンクが顔を覗き込んできた。
「決まったね、ブルー!」
「私は、ちょっと恥ずかしいかな」
「相手は鳥型だから別に気にしなくていいのに。レイラみたいな言葉が分かるやつの前で見得を切る方が恥ずかしいでしょ」
「まぁ、確かに」
そんな小芝居をしていると、フェニックスマーガが襲いかかってきた。俺達はすぐに散開し、二手に分かれて適切な距離を取る。突進したマーガはそのまま山肌に衝突して動きを止めた。
先に動いたのはピンク。彼女はステッキをかざして呪文を唱える。
「マジカルシューティングピンク!」
「マジカルブルースター!」
ピンクの魔法の光の矢と俺の魔法の光の粒子がマーガに直撃して爆発を起こす。けれど、相手はフェニックスの姿をしている。油断は出来ない。ピンクも同じ認識だったようで、フラグも立てずに様子をうかがっていた。
「まさかこの程度って事はないよね?」
「慎重に行こう、ピンク」
「分かってる!」
俺達の予想は当たり、爆炎が消え去った時、そこにマーガの姿はなかった。俺はすぐに頭上を確認する。するとそこには大きな翼をはためかせる敵の姿が。フェニックス同様に回復したのか、さっきの俺達の攻撃で与えたはずのダメージは見受けられない。
同じ光景を目にしたピンクはポツリとつぶやく。
「流石にフェニックスは美しいわね」
「う、うん」
「でもブルー、ここからが本番よ! 本気の攻撃で行きましょう!」
「任せて!」
俺達は気合を入れ直してステッキを握る。しかし、それぞれがステッキをかざそうとしたところで、マーガからの火炎弾攻撃が俺達を襲った。翼をはためかせる事で発生した無数の火炎の雨は、俺達以外にも周囲を燃やしていく。
「マジカルアンブレラ!」
俺は防御魔法を展開してその範囲を広げる。ピンクのいる場所もカバーしたところで、彼女はステッキをグローブに変えた。
「ちょっと殴ってくるね」
「あ、うん」
ピンクは暴力特化型魔法『マジカルフルパワー』を発動。そのまま予備動作なしでマーガに向かっていく。素早い動きで翻弄して背後に回り込むと、その大きな翼をブチブチに豪快にもぎ取った。
流石のマーガも、この暴虐行為に悲痛な叫び声を上げる。
「ギョワアアアア!」
「意外とやわい……」
俺は目の前で繰り広げられている惨状に言葉を失う。別にアニメじゃないんで、教育上よろしくない行為はしちゃダメとかは言わんけど。言わんけど……。
自慢の立派な翼を奪われたマーガは、地面に激突してのたうち回っている。敵とは言え、痛々しくて見てられない。やっぱり動物の姿をしているからだろう。ピンクはよく平気であんな事が出来るな……。
「ブルー、今ならこいつは飛べない。チャンスよ!」
「えっと……」
俺が躊躇していると、マーガが思いっきりピンクに向かって蹴りかかる。憎しみを込めた大振りキックだ。ただし、瞬時に察した彼女は素早くジャンプして避けたので空振りに終わる。
そのままバク転を繰り返したピンクは、ストンと俺の隣に着地した。
「あいつを憐れんでるの? よく見て! もう再生してる」
「うわ」
ピンクが指差した先では、翼を失ったマーガの肩の辺りから何かが増殖していくのが見えた。超高速で再度翼を作り上げているのだろう。あんな生物はこの世界に存在しない。
「動物に見えてもバケモノよ。倒すべき相手なの」
「分かった」
「じゃあ、2人で行くよ!」
俺達はうなずき合うと同時にジャンプ。翼を再生しきれていないマーガは当然飛べない。最高地点に到達したところで、俺達は同時に同じポーズを取る。
「「スーパーダブル魔法少女キーック!」」
俺達魔法少女2人のシンクロキックはマーガの体を貫いて爆発。バトルに勝利した。フェニックスモチーフとは言っても、再生能力は伝説の完全再現とは行かなかったようだ。
俺達がグータッチをして勝利を喜んでいると、避難していたマルが戻ってくる。
「お疲れ様。ブルーもかなり慣れてきたね」
「修行したからね」
「頼もしくなってきたわね」
こうして一件落着したところで、瞳さんがようやく登ってきた。かなりお疲れのようでヘロヘロになっている。よっぽど山登りが堪えたようだ。
そして、魔法少女姿の俺達を見て目を丸くする。
「え? 誰ですか?」
「見た事ない? 魔法少女」
「あ、お2人が変身した……見るのは初めてです。うわ~。それで封印石は?」
「あんな感じだよ」
俺は破壊された封印石を彼女に見せた。無惨に粉々になった姿を目にして言葉を失っている。俺はすぐにフォローを入れた。
「大丈夫。今からその封印石を復元するから。見てて」
「え? あ、はい」
俺達は破壊された封印石の前に立って復元魔法を使う。すると、時間を戻すように封印石が元の姿に戻っていった。この光景を間近で見ていた瞳さんは、顔の前で両手を合わせて目を輝かせる。
「魔法の力ってすごいですね!」
「魔法を見るのも初めて?」
「はい!」
ピンクは慣れっこかもだけど、俺は自分の魔法がここまで喜ばれる事に新鮮な感動を抱いた。用事も終わったので変身解除をすると、そこでも彼女はオーバーリアクション気味に興奮する。
「すごい! すごいです! 魔法の力は無限大ですね!」
「それほどでも~」
褒められた俺がだらしなく表情を歪めていると、仁さんがバシンと背中を叩く。
「じゃあ帰ろや。もうここに用はないし」
「そ、そうですね」
「帰りましょう!」
こうして、俺達は全ての封印石の場所のチェックを終える。今回の探索で分かった事は、瞳さんの能力は本物だと言う事。ただし、5つの封印の内の2つが破壊されてしまった。きっと全部破壊されたらとんでもない事になってしまうのだろう。
俺達はそんな最悪な未来が訪れないように、まだ無傷の残り3つの封印を守り切ると思いを新たにしたのだった。
「へぇ……青いのも力をつけてきたね」
物陰から漏れる女性のクールな声。そう、それはレイラだ。ニヤリと笑みを浮かべる彼女に山での出来事の一部始終を見られていた事を、俺達は知るよしもなかった。
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