第18話 霊的探知と封印の確認

 瞳さんは幼い頃から霊感があって、動物と話せたり、霊的な存在からメッセージを託されたり、未来で起こる出来事を何となく感じ取ったり、星空を見て前世を思い出したりと、感知系の能力を持っているのだそうだ。

 人の心を敏感に受け止められるために人間不信になってしまい、二次元に救いを見出してオタクになってしまったのだとか。


「い、今は割と平気なんです。心も敢えて見ないと読めなくなりましたし……。それに、危険な人はひと目で分かるので、そう言う人とは距離を起きます。だから大きなトラブルはないです」

「そおかあ。苦労しとったんやなあ……」


 彼女の身の上話を聞いて、仁さんが涙ぐんでいる。情に厚いタイプなんだよなあ。そう言うタイプじゃなきゃ無償で人助けなんて出来ないわな。俺に対しては脅迫じみた態度だったけど。

 で、そんな能力を持つ瞳さんだから出来る方法で、俺達の活動をサポートしてくれるらしい。力が本物なら、これほど心強い事はないな。


「じゃあ、早速手伝ってもらいたいけど、何か準備するものはある?」

「はい。ボク、準備してきてます」


 さっき会ったばかりなのに既に準備をしているって、これも彼女が聞いたお告げによるものなのだろうか。俺が様子を見ていると、瞳さんは背負っていたバックから地図を取り出してテーブルの上に広げた。当然、舞鷹市の地図だ。次に彼女は鎖で繋がれた重りのような道具を取り出す。

 それを見た仁さんは、目をキラキラと輝かせて身を乗り出してきた。


「フーチやん。それで探すんか?」

「は、はい。探しものなんかはこれで大体分かるんです」

「なるほど、その手があったかぁ」


 何か2人で盛り上がっているのを見て、俺は疎外感を感じる。なので、彼女が何かをしようとするタイミングを見計らって、急いで声をかけた。


「それは?」

「フーチの事ですか? これは探しものを見つけ出す道具です。探し物の事を考えると体が反応するので、それを増幅して視覚化してくれるんですよ」

「誠はこの手の事なんも知らんのやなあ。常識なんやけどな」

「うぐ……」


 仁さんに軽く馬鹿にされてしまい、俺は何も言えなくなった。知識がないのは事実だから仕方ない。後でミーコが持ってきた魔導書を読破してこの手の知識をしっかり身に付けていこう。魔導博士に、俺はなる!

 と、一人で勝手に盛り上がっていると、早速瞳さんが重りを垂らしてフーチを使い始めた。地図の上を鎖を握った手が移動する。彼女が集中しているので、俺達は全員口にチャックをした。


「舞鷹市全域を視てみました。確かにいくつか特異点があるみたいです。ただ、決め手になる情報が足りないですね。困ったな」

「じゃあ、僕と感覚を共有しよう。封印石の情報は掴んでいるからね」

「お、お願いします!」


 マルはシュルリと素早く瞳さんの肩に乗った。肉体的接触を通じて感覚を共有するらしい。その状態になってしばらくまぶたを閉じていた彼女は、そのまままた探索を再開し、反応があったいくつかの場所に印をつけていく。

 結果、地図には5つの丸が描かれた。そのひとつは、既に破壊されたあの神社だ。


「私の見立てだと、これらの場所に封印石があるようです」


 その5ヶ所をじいっと見つめていた仁さんは、マジックを持ってきて線で結び始める。浮かび上がったのはキレイな星の形。五芒星。呪術めいた仕掛けがマジの封印ぽかった。地元にこんな仕掛けがなされていただなんて――。

 出来上がった五芒星を見た瞳さんは、そこで個人的な見解を口にする。


「この街に封印を施したのは当時の陰陽師でしょうね。きっとその当時も化け物がたくさん出たのでしょう。それでしっかり封印した事で、そう言うものと無縁な土地になったのではないでしょうか」

「なるほどなあ。辻褄は合っとるな」

「へ、へぇ~」


 やはり、俺だけなんか知識に差があるようだ、ちょっと悔しい。留守番してるミーコがここにいたら、何かしらの文句が飛んできそうだ。俺は1人でこの部屋に来ていて良かったと胸を撫で下ろす。

 印をつけた5つの地点を穴が空くほど眺めていた仁さんは、ここでポンと膝を打った。


「よし、確認しに行こう!」

「え? 今から?」

「まだ時間はたっぷりあるやろ。善は急げってやつやな」


 時計を見ると現在11時。確かに今から見て回っても余裕があるだろう。ひとつは既に分かっているので4ヶ所回ればいいだけだ。封印石の確認にはマルが必要だし、だからって部屋に瞳さん1人をおいていく訳にも行かないだろう。


「瞳さんはどうする? もう帰る?」

「あの! ついて行っていいですか? 皆さんの活躍も見てみたいですし」

「ええやろ。ついてきい」

「ちょ、いいんですか?」


 封印石の確認をするだけなら危なくないだろうと俺は説得される。いざとなれば俺達が守ればいいとも。俺も修行で力を身につけたし、足手まといにはならない自信がある。と言う流れで、この部屋に集まった全員で出かける事になった。

 瞳さんがチェックをしたあの神社以外の場所は、展望台の隣の広場、山の上、池の側、そして、遺跡の発掘跡。見事に神社ではなかった。やはり再度の神社巡りは無駄足だったんだなあ。トホホ。


 仁さんの家から一番近かったのは池の側。該当地点に着いたところで、マルが仁の肩から降りて走り出す。みんなで追いかけると、確かにその場所に土に埋もれた巨石の頭の部分があった。

 先行していた猫妖精は、五感をフルに使って石の正体を確認する。


「うん、これが封印石みたいだ」

「無事守られとるな。ヨシ!」


 封印石の健在が確認出来たところで次の場所へ。向かったのは遺跡の発掘跡だ。ここでもそれっぽい石があって、まだ破壊されていなかった。その後に向かうのは展望台だけど、正午を過ぎたので腹ごしらえをする。

 早く済ませたかったので、セルフのうどん屋さんで食べる事になった。マルは外で留守番だ。


 仁さんが頼んだのはぶっかけうどんに海老天にお稲荷さん。俺はやっぱりぶっかけうどんに野菜かき揚げ。瞳さんはきつねうどんにちくわ天。それぞれが別々のメニューでも時間差がほとんどないのがセルフうどんのいいところ。

 仁さんと俺が横に並んで座り、瞳さんは俺の向かい側に座る。周りに他のお客さんがいるのもあって、何となくみんな無言でうどんを啜った。まぁ、こんな場で封印とか喋っていたら周りは引くだろうしな。


 無言で食べる事に集中した俺達は早めに店を出る。外で待っていたマルは道を歩いている人にちゅーるをもらっていた。持ち歩いている人、いたんだ……。ミーコは人の食べ物を要求していたけど、マルはどちらもイケるらしい。流石は優秀な兄だけはある。

 俺達が近付いたところで、ちゅーるおじさんはその場を逃げるように去っていった。悪い事をしている訳じゃないんだから、そんなに焦らなくてもいいのになあ。


「うまいもん食うとったやん」

「あ、お帰り。早かったね」

「あのおっちゃんは?」

「初めて会ったんだ。きっと猫好きなんだよ」


 マルはそう言いながらまた仁さんの肩に登る。さあ、封印確認再開だ。次に向かったのは海がよく見える展望台。その隣の広場に確かに封印石はあった。こちらも何もされていないのを確認する。

 マルの確認が終わった後、仁さんは目の前に広がる瀬戸内海を見てぐいーっと背伸びをした。


「後ひとつやな。まぁここまで来たらそこも大丈夫やろ」

「仁さん、それフラグですよっ!」


 オタクの瞳さんがナチュラルにツッコミを入れる。まぁ、仁さんはそう言うの全然気にしていないみたいだったけど。

 最後の封印石候補地は山の上だ。小高い丘みたいな山ではあるものの、ここから遠い上に斜面をかなり歩かないといけない。5つの封印石のある場所で一番体力を使う場所だった。


「原付きでもあれば楽やったんやけどな」

「ボク、電動アシスト自転車持ってます。家に置いてきたけど」

「本格的な山でもないし、行けるでしょ」


 俺達はそんな軽い認識で山に向かう。入口付近まではバス移動だ。そこからは徒歩。これが予想よりきつくて、俺達はともかく瞳さんがバテてしまった。目的地まで3分の1を歩いたところで彼女はへたり込む。

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