5つの封印

第17話 新しい協力者

 修行でパワーアップした俺は自分の力に自信を持てた事により、早く実戦を体験したいと思えるようになってきた。今の実力があれば、雑魚マーガなら一発で倒せるはずだ。ただ、あの昆虫マーガレベルのが出てきたらキツイだろうけど。

 とは言え、俺に課せられた任務は基本的には封印探索。一度全ての神社巡りをしたものの、それをまた繰り返している。前回は封印の気配情報なしで調べていたから精度が低かったんだよな。


「正直、二度手間だよなあ」

「あんたが最初に封印石破壊跡に連れてかなかったのが悪い」

「へーい」


 そもそも、全ての封印が神社にあると考えるのも違うのかも知れない。お寺とかかも知れないし、そこらへんにある巨石が実は封印だったりするのかも知れない。そう考えると索敵範囲が無限大に広がってしまう。

 そこまで考えてしまったところで、俺はハァと大きくため息を吐き出した。


「これ、いつまでやればいいんだ?」

「そりゃー他の封印が見つかるまででしょ。さあ歩け歩け」


 肩に乗ったミーコが俺を急かす。俺自身が封印を感知出来ればいいんだけどなぁ。まぁミーコとのコンビも退屈しないからいいけど。

 と、そんな封印探しの日々は1ヶ月続いた。今のところ、何の成果もなし。妖精が封印を見分けられると言っても現地に行かないと分からないんだから、手間はあんあり変わらない。見当違いの所を探していたら永遠に見つからないのだ。


 その日も何も見つからず、翌朝になって仁さんの部屋で報告をする。と、ここで玄関のドアがガチャリと開いた。

 今まで他のお客さんが訪問する事がなかったために、俺はびっくりして音のした方向に視線を向ける。そもそも、ノックもなしにいきなりドアを開けるってどんな関係の人なんだ。


「ただいま」


 顔を出したのはこの部屋のもう一人の住人、猫妖精のマル。住人ならノックをしないのも納得だ。ただし、彼は初めて目にする女性に抱かれている。俺達よりも随分と若い黒縁メガネをかけた女性だ。彼女は丸顔の童顔で、見た目はかなり幼く見える。学生だろうか。髪はショートカットで服は上下黒で決めている。伏し目がちでオドオドしているので、雰囲気的には陰キャっぽい。仁さんの知り合いだろうか?

 と、ここで、その彼が怪訝そうな顔で猫妖精の顔を見る。


「マル、そいつぁ誰だ?」


 あれ? 仁さんも初対面のようだ。じゃあ、この女性は一体……? 問いかけられた黒猫妖精は女性の胸からぽーんと飛び降りると、すぐにこの部屋の主の足元にやってくる。そうして、俺達の顔を見上げた。


「この子は東雲しののめ 瞳さん。さっき会ったんだ。僕達のサポートをしてくれるって言うんで連れてきた」

「さっき会ったァ? 一体どう言う事や? まぁそれより瞳さん、まずは上がってくれや」

「は、はい」


 初めて耳にする瞳さんの声はその顔に似合ってすごく幼かった。中学生くらいだろうか? ここに連れてきたって事は俺達の秘密を知ってるって事だよな。聞きたい事が渋滞してしまい、逆に俺は何も喋れなかった。

 部屋に上がった彼女は、オドオドしながら俺達から離れた場所にぺたんと正座する。それを見た仁さんがもっと近付けと手招きして、ようやく近くに座ってくれた。


「えっと……あの……東雲です。だ、大学生です」

「えっ? 二十歳すぎとるん? いやもっと若く見えるで」

「あ、えっと、21です。お2人は?」

「あ、自己紹介忘れとったな。ワシは村上 仁。37や。で、こっちが円城 誠。31やったよな」


 仁さんに紹介されて、俺はペコリと頭を下げる。そっか、瞳さんは21かぁ。友達の間で子供扱いされていそうだな。見た目幼いからそっち系の人にモテそう。まぁそう言う想像は心の中に秘めておかなきゃな。

 で、自己紹介が終わったところで一旦話は途切れてしまう。お互いに面識がないから当然だ。なので、全員の視線は彼女を連れてきたマルに注がれる結果になった。


「あ、あのさ。僕は日課で散歩しているんだけど、そこで彼女に会ってさ。いきなり僕に話しかけて来たんだよ。お告げで僕に会いに来たって言うんだ。運命を感じるだろ」

「東雲さん、霊能力的な力が?」

「あ、はい。皆さんの手助けをするようにって……夢で……」

「じゃあ、俺達の秘密も?」


 俺の質問に瞳さんはコクリとうなずく。秘密って何ですかと聞き返さなかった事から、マジなのだと確信した。仁さんの方も彼女の言葉に疑いの目を持っていないようだ。既に妖精とか魔法少女とかマーガとかそう言うのを体験しちゃってるし、ここで霊能者が追加されてもすっと受け入れちゃうよな。

 ここで彼はマジ顔になって、マジトーンで瞳さんに問いかける。


「聞くまでもないかもやけど、当然秘密は守れるんよな?」

「そこは大丈夫です。ボク、友達いないんで」


 瞳さんの返事を聞いた仁さんは立ち上がり、お湯を沸かしに行く。お茶を入れるようだ。そして、その間の彼女の相手は当然俺になる訳で。

 取り敢えずは場を繋げようと、無理やり話題をひねり出した。


「マルと出会った時、普通の猫だと思わなかった?」

「はい、思いました。それで直接心に話しかけてみたんです。そしたら……」

「僕もいきなり心に話しかけられてびっくりしたよ。そこで名前を言い当てられて信用したんだ」


 マルも興奮しながら喋っている。いつも冷静なのに珍しいな。とか思いながら、俺も別の意味で驚いていた。いきなり猫妖精とテレパシーでやり取りするだなんて、世の中にはこう言う人が普通にいるんだな。

 身近に霊能者がいなかった俺は、彼女にちょっと興味を持った。


「じゃあ、東雲さんはすぐにこの状況を受け入れたんだ?」

「いえ、マルさんが実際に喋った時はびっくりしました」

「普通の猫は喋らないもんね」


 ここで室内に軽い笑いが起きる。世代が10歳も違うと会話は成り立たないと思っていたけど、別にそうでもないようだ。まぁ流行りの話とか趣味の話になるとまた別なのだろうけど。

 会話がスムーズに進み始めたところで、俺は本題に入る。


「それで、サポートって事だけど……具体的には何を?」

「皆さんは今封印の場所を見つけ出せなくて困っているんですよね。ボク、探せるかも……」

「そう言う事も出来るんだ?」


 瞳さんは控えめにコクリとうなずいた。俺は彼女の能力に改めて驚く。アメリカには事件解決に協力する超能力者がいるらしいけど、彼女にもそう言う人と同じような力があるんだ。考えてみれば、俺達は魔法使いでもあるのにそう言う魔法を覚えていないなぁ。妖精達も使えないし。本当、その能力が本物なら渡りに船だよ。

 ここで更に話を進めようとしたところで、仁さんが戻ってきてお茶を出してくれた。


「まぁまずはお茶でも飲んでくれや」

「あ、ども」

「有難うございます」


 会話はリセットされたけど、封印探索がこれで一気に進むかも知れない。俺はお茶を飲みながら、封印探索作戦に光明が射して来た事を素直に喜ぶのだった。


「お茶、美味しいです!」

「やろ!」


 まぁ、しばらくは仁さんと瞳さんでお茶談義が止まらなかったのだけれど。

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