第16話 初心者魔法と最後の仕上げ
こうして初心者魔法をマスター出来たところで、俺の頭に疑問が浮かぶ。
「考えてみたら、これって魔法使いの修行だよな。魔法少女にも必要なのか?」
「魔法少女ってのは適正がある人を強制的に魔法使いに変えてんの。つまり、基礎魔力が高くなれば魔法の威力も精度も上がるって訳」
「ほーん」
「それに、マスターすれば日常生活でも魔法が使えるんだよ。便利じゃん」
ミーコはそう言うとフンスと鼻息を吐き出す。その得意顔を目にした後、俺は改めて自分の掌の上の火球を眺めた。
「俺にも魔法の才能があったんだなあ」
「ちょっと納得行かねーけどな」
「え?」
「魔法の才能は先天的なもの。後天的に目覚めるなんて普通ない訳。あんた最近何かあった?」
気がつくと、ミーコがジリジリと詰め寄ってきていた。自覚があったらとっくに話している訳で、思い当たるフシはないとしか答えられない。それを聞いた彼女はとても不機嫌そうだった。
簡単な魔法をマスター出来た段階で今回の修行は終わる。ミーコも最初からそのつもりだったらしい。俺はやっとスパルタから開放されて大きくため息を吐き出した。
「あ~しんどかった。確かに体力を使うな~」
「でしょ? 大魔法の疲労度はこんなもんじゃないよ」
「でも魔法少女になった時、そこまで疲れてなかった気がする」
「そりゃそうよ、あの状態だと疲労度は10分の1くらいで済むんだから」
ミーコは得意顔で魔法少女状態のメリットを説明する。道理で魔法を何発も連発出来る訳だ。と、ここでまた素朴な疑問が頭をよぎった。
「よくゲームとかで魔法を封じられたりするけど、そう言う事もある?」
「それは他の存在から力を借りる系の魔法ね。魔法少女は自分の中の魔力を使うから大丈夫。記憶を封じられたりしない限り」
「うわ、フラグっぽいのやめてくれよ」
「あはは。だから大丈夫だってば」
ミーコは俺の心配を豪快に笑い飛ばす。実際記憶喪失対策はしっかりなされていて、変身指輪が記録装置になっているらしい。忘れても思い出せる仕組みになっているのだとか。そして、この流れで次のステップについて話し始めた。
「最後の修行は実戦ね!」
「実践って今までやってたけど」
「その実践じゃなくて、実際に戦う方の実戦。バトルで使い物になるか試してみないとでしょ」
「そんな都合よくマーガが現れるかなあ……」
俺は頭にモヤモヤとしたものを残しながらその日は就寝する。寝不足だったのもあって、秒で泥のように深い眠りに落ちていった。夢も何も見ない深淵の闇が心にも身体にもとても心地良かった――。
次の休日。ミーコの言う実戦の時がやってくる。彼女に言われるままに空き地で魔法少女衣装になって待っていると、そこにピンクがやってきた。なるほど、模擬戦って事ね。バトルモノの作品でもよくあるヤツだ。
模擬戦には妖精2匹も同席する。バトルフィールドの結界要員だ。魔法が外れても他の場所に飛び火しないようにするガードを作ってくれた。
「君達の修行の成果、見せてもらうね」
「あーしが鍛えたその実力、しっかり見せてやんな!」
マルとミーコが見守る中、俺の前に仁王立ちになったピンクが挑戦的な笑顔を浮かべる。
「修行の話、聞いたよ。この胸を貸したげる」
「よろしくお願いしまーす!」
まずはお互いに礼をして構えを取る。右手にステッキを持ちながら相手の出方を見るものの、ピンクは先制攻撃を行う素振りを見せなかった。お見合い状態になっていると、正面の彼女がニヤリと口角を上げる。
「まずはどのくらい強くなったか見せて。受けたげる」
「じゃ、遠慮なく!」
俺はステッキの先に火球をイメージする。この時、思い浮かんば言葉は。
「ファイマックス!」
修行で学んだファイアーボールの3倍は大きい火球が5倍速いスピードで射出された。ピンクはそれを紙一重で避ける。魔法が発動してから避けられるスピードではないので、俺の口が動いた瞬間から回避を始めていたのだろう。何と言う勝負勘。
ピンクは避けたと同時に詠唱開始。死角から俺の隙を突く。
「マジカルシューティングピンク」
「ぎゃっ!」
ピンクのその魔法は誘導機能付き。俺はその事を失念して避けようとしたばかりに、脇腹にヒットしてしまった。ダメージはかなり緩和しているものの、瞬間的に針で刺した痛みを感じてうめき声を出してしまう。
「修行の成果出てないぞ~」
「ま、まだまだ!」
今度は的にならないようにその場から離脱してピンクを追いかける。彼女も変身ブーストでかなり早く移動していて、今までなら全く追いつけなかった。けれど、今なら並走出来るほどに筋力が上がっている。これには実際に走っている俺が一番驚いてしまった。
「か、体が軽い!」
「私に追いつくとか、やるじゃない」
「今日は負ける気がしないね!」
「あっ、それフラグ~」
ピンクはそう言うと今度は上空にジャンプ。一飛びで軽く10メートルは超えていた。今まではただ見上げるばかりだったけど、もう違う。俺はすぐに足に力を込め、足の筋肉に魔力をまとわせた。
「とおっ!」
「マジカルスーパーボム!」
俺がジャンプしたタイミングでのピンクの爆裂魔法。しかしそれは予測済みだ。俺はすぐにステッキを振る。
「マジカルブルースター!」
「何っ」
俺達の魔法は空中でぶつかり大爆発。上空で爆炎が増殖する中、俺もピンクもダメージを避けるように着地した。お互いに着地前に魔法の仕込みを始め、着地とほぼ同時に魔法を放つ。
「マジカルシューティングピンク!」
「マジカルブルースター!」
ピンクの光の矢とブルーの無数の星型の粒子。粒子の方が数が多かったため、今度はピンクに粒子が直撃する。
俺は攻撃が通った事が嬉しくて声を弾ませた。
「やったか!」
「それフラグだから!」
ほぼノーダメージのピンクが超高速で迫ってくる。あの体力特化のやつだ。俺はすぐステッキを両手で握って集中し、空気の流れを敏感に感じ取る。
「エアスマッシュ!」
ピンクのパンチが頬をかすめる。しかしその動きを利用して俺は見事に回避した。その後もピンクの猛ラッシュは続く。俺はひたすら避けに徹してチャンスを待った。
「やるじゃない」
「修行したんで」
「じゃあスピード上げてくよ! オラオラオラオラオアラオラオラア!」
攻撃を避けている途中で新しい防御魔法を閃いた俺は、早速それを詠唱する。
「マジカルアンブレラ!」
ステッキを介して俺の前方に魔法の傘が出現。ピンクのパンチはそれにポーンと弾かれた。その勢いを止めきれずにピンクは地面に倒れ込む。相手の自爆ではあるものの、それなりのダメージを与えられたようだ。
様子をうかがっていると彼女は起き上がる。そして、右手を差し出した。
「ブルー、強くなったね」
「これで……終わりですか?」
「ああ、引き分けだね」
「引き分け……」
正直、この模擬戦の結果が引き分けかどうかについては引っかかるものはある。ただ、俺の技術の確認作業と言う意味においては、もう十分証明されたと言う事なのだろう。
俺も手を差し出して握手をする。魔法少女に変身中の14歳くらいの女の子の手は小さくてとても柔らかく、一瞬正体がおっさんだと言う事を忘れた。
「これからよろしくね、相棒」
「よ、よろしくです」
握手をした後はグータッチ&ハイタッチ。そしてお互いに笑い合う。こうして絆を深めた俺達は、来るべき激しい戦いに向けて改めて気合を入れ直したのだった。
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