第13話 守り抜いた封印石と今後の課題

 こうして、俺達のステッキから放出された魔力粒子は螺旋を描きながらレイラに向かって飛んでいく。今までで一番殺傷能力の高い攻撃魔法は、動かない黒ローブに直撃。直後に大爆発を起こした。


「どうだっ!」

「こんな大きな威力になるなんて……」

「2人共、油断禁物!」

「そーだよ、あいつはピンピンしてる!」


 ずっと戦いを見守っていた妖精2匹の言葉は正しく、爆炎が消えると何事もなかったようにレイラがそこに立っていた。多少はダメージがあったのか、服についた埃を手で払っている。


「うん、予想通り。でも予想以上じゃなかったね。これで力の差は分かっただろう。そろそろどいてくれないか?」

「うぐぐ……」

「どかぬなら、どかしてやろう。魔法少女」


 今までずっと手を出してこなかったレイラが俺達に向かって手をかざす。ここまでの戦力差があるんだ。本気で攻撃されたら多分ひとたまりもない。俺は緊張感で体が硬直した。

 この状況ですら、ピンクは好戦的な態度を崩さない。


「私達はどかない! 封印石は破壊させない!」

「はぁ、私も舐められたものね。いいよ。どかなかった事を後悔するのね!」


 レイラが開いた手に魔力を集め始めたその時、さっきまで俺達の後ろに控えていたはずの妖精2匹が野生のスピードで一気に駆け出していた。そうして、レイラに向かって高くジャンプ。頂点に達したところで、爪を伸ばして周囲の空間を引き裂いていく。一連の行為があまりに一瞬だったため、俺は何が起こったのかすぐには把握出来なかった。

 ひと仕事終えた2匹は、地面に着地したところで素早く振り返る。


「防御魔法膜を引き裂いた! 今だ!」

「えっと?」

「ブルー、私に続け!」


 一瞬で意図を理解したピンクが空高くジャンプした。慌てて俺も後に続く。ここまで来たもう感覚に任せるしかない。俺は頭を空っぽにして、ピンクの動きを単純にトレースした。

 最高地点に到達した後、俺達は一気に降下する。勿論、片足はレイラに向けて伸ばしていた。


「「スーパーダブル魔法少女キーック!」」

「ほお!」


 俺達の渾身の飛び蹴りは確かに手応えがあった。無意識の内にブーツに集まった魔力が、対象物にぶつかった事によって大爆発を起こす。弾き飛ばされる形で地面に着地した俺達は、自分達の攻撃結果を爆風が消えるまで見定める。

 そのほんの数秒間の待機時間に、俺はポロリとここまでの感想を口にした。


「さっきから同じ事ばかり繰り返してるような」

「いや、今度はそれまでとは違う感じだった」


 ピンクはさっきのキックの手応えに自信があるようだ。俺もその感覚は信じたい。マルやミーコも頑張ってくれたんだから、その成果もあって欲しいと思う。ただ、キックした時に感じたあの感触がどうにも気になっていた。

 それをピンクに話そうとしたところで爆煙が消える。ぼんやりとした人影が鮮明になると、そこには以前ここで取り逃がした昆虫型のマーガが立っていた。


「な、なんだってー!」

「ブルー、よく見ろ! レイラがいない! クソッ!」


 俺が驚いて言葉を失っている間にピンクが冷静に状況を見定めていた。つまり、俺達がキックをした時には、もうマーガに入れ替わっていたのだろう。で、本人は逃げたと。これって逆に言えば俺達の攻撃に恐れをなしたって事じゃないか?

 ピンクはレイラが逃げた事にキレているみたいだけど、俺は逆に自信を持っていた。絶対に勝てない相手じゃないって事が分かったからだ。


 入れ替わりで現れた昆虫マーガは一気に俺達に向かって突進してくる。今回は肉弾戦を選んだようだ。昆虫が喋らないように、このマーガも何も言わずに動いてくる。動きが読めなかった俺達は迎撃体制が取れず、すぐに逃げに徹した。

 俺はピンクと別方向にジャンプして避け、攻撃が空振りに終わったマーガはピタリと足を止めた。


「ここから反撃よ!」

「うん!」


 俺達はすぐにステッキを握り直す。狙いを定めようと集中した瞬間、マーガは俺に向かって突進してきた。その判断があまりにも早かったので、俺は攻撃をキャンセルして咄嗟にジャンプして避ける。

 それで何とか突進の無効化は出来たものの、マーガはしつこく俺だけを狙う。2対1になったら弱い方を先に倒すと言う戦法を本能的に知っているのかも知れない。


 俺は必死に攻撃を避け続けているものの、体力的にいつまで持つか分からない。無視された形になったピンクはステッキを向けてはいるけど、マーガの俊敏さに狙いを定められないみたいだ。

 何度目かのジャンプの後、俺は石段の縁に着地。もうバックでのジャンプ避けは出来ない。前方にジャンプするのはリスクが高かった。この状況に持ち込んだマーガは力を溜めている。特大の一撃を繰り出してきそうな雰囲気だ。追い詰められた俺は、生まれて初めて死を覚悟した。


「マジカルビックバン!」


 ピンクのステッキから強い光弾が射出される。それは動きを止めていたマーガに直撃し、ヤツの体を一瞬で粉砕した。ダブルキックですら余裕で耐えた硬い外骨格を、たった一発で砕いたのだ。俺は目の前で起こった出来事を鳩が豆鉄砲を食らった顔で見つめる。

 呆然と立ち尽くしていると、ピンクが歩いて近付いてきた。


「囮役、有難う」

「いや、あれは狙ってやった訳じゃないから。てか、あんな魔法あったんだ」

「残りの魔力を一気に使い切るから、一日に一度しか撃てないけどね」

「おお、諸刃の剣……」


 俺がピンクの魔法に感心していると、彼女は目の前で倒れ、体を元に戻した。37歳のおっさんがうつ伏せになった姿に驚いていると、そこにマルがやってくる。


「マジカルビックバンのリスクだよ。力を出し切るってこう言う事」

「うわ……これはマジで最後の手段だね」


 俺は変身を解かずに仁さんと妖精2匹を連れて彼の家に戻る。変身を解いたら、とてもじゃないけど人を担いでの移動なんて出来なかったからだ。魔法少女になった時は誰にもその正体に関心を持たれないってやつを、俺はこの時に初めて実感する。仁さんの家に戻るまで大ジャンプ移動をしていたのだけれど、どれだけ通行人に目撃されてもスルー状態だったからだ。

 家について彼を寝かせたところで、俺は変身を解いた。


「運んでくれて有難う、後は僕がやるよ」

「マル1人で大丈夫?」

「仁は疲れ切って寝てるだけだから。その内起きるよ」


 俺はその言葉を信じ、ミーコを連れて自分の家に戻る。部屋に入った途端、疲れがどっと出てきて俺は座り込んだ。


「疲れたぁ~」

「なっさけなーい。そんなんでどうするつもりよ?」

「俺、自分の弱さを実感したよ。こんなんでいいのかな……」


 今日、俺はバトルに関してほとんど役に立てなかった。またレイラや強いマーガが出てきたら、俺一人では到底太刀打ち出来ないだろう。まだ慣れていないってのもあるかもだけど、続けたところでピンクみたいに強くなれるイメージは全然湧かなかった。

 へたり込んだ俺が弱音を吐いていると、ミーコが得意顔でやってくる。


「じゃあ、あんたの次の仕事は修行だね。ビシバシ行くよ!」

「えぇ……」


 ミーコは含み笑いをしながら俺を見上げていた。修行なんて言ってるけど、絶対に普通のアレではない気がする。一体どんなスパルタが待っているのだろう。彼女のいやらしい笑みに、俺は軽い戦慄を覚えたのだった。

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