第7話 始まりの神社
俺はこの神社巡りの終了を宣言する。そりゃ、2順3順するって手もあるけど、一度ここでこの作戦を練り直すべきなんじゃないかと思ったんだ。辞めて別の事をするか、このまま続けるのか。
話を聞いたミーコは、動揺しながら声を震わせる。
「それおかしいでしょ。あ、まだ行ってない神社があったよ。あーし、ちょっと気にしてたから知ってるし」
「それって、俺が黒ローブを見かけた神社だよ。一度行ってるからいいかと思って」
「そこ! 犯人は現場に戻るって言うし! 今日はそこ行くよ!」
「えぇ……」
彼女が強く主張するので、俺は改めて黒ローブが何かをしていた神社に向かった。石段を登って本殿を見る。確か前回はここから先には行かなかったんだよな。
久しぶりに目にした神社は特に変わった印象は受けなかった。普通に建物が佇んでいて、静かな気配を漂わせている。
そうして、破壊された巨石もそのままだった――。
「あの壊れた石の跡を見に行くよ」
「え?」
「何があったのか確認しなきゃでしょ! ほら、急ぐ!」
ミーコに急かされて俺は破壊跡の確認に向かった。アレから2ヶ月以上経つのに放置されていると言う事は、よっぽど管理されていないのだろう。本殿や参道なんかはきれいに見えるんだけどな。
先に到着していた彼女に追いつくと、俺は破壊跡を上から覗き込む。すると、そこには有り得ない光景が広がっていた。
「穴が空いてる……。底が見えない」
「近付きすぎちゃダメ、吸い込まれる」
「え?」
どうやらミーコはこの穴の正体を知っているらしい。彼女いわく、この穴は深淵の闇なのだそうだ。マイナスの地場が働いていて、精神的なエネルギー、魂とかオーラとかそう言ったものを引き寄せて吸い込む特性があるらしい。
こんなヤバいものが地元にあっただなんて……。しかも放置されている……。この謎について考えていた時、突然指輪がブルブルと振動を始めた。
「うわっ!」
「ど、どうしたの?」
「指輪が、バイブみたいに震え」
「ちょ、前見て前!」
ミーコが叫んだので視線を戻すと、穴からバケモノが這い上がってきた。そいつは人間大の大きさの台所とかでよく見る昆虫のような姿をしている。あ、こう言うやつ漫画で見た事があるぞ。
とにかく、久々のバケモノとの対峙に、俺の身体は硬直してしまう。
「何やってんの! 早く変身!」
「あっ」
バケモノとの対抗手段を身につけていた事を今更思い出した俺は、早速拳を頭上に掲げる。練習以外では初めての変身だ。俺はありったけの声を張り上げる。
「へ、へんしーん!」
指輪から光が放たれてステッキに変わる。そうして間髪入れずにステッキから青い光が放たれた。不思議な魔法の光に包まれて、俺は可憐な青い魔法少女の衣装を着た美少女の姿に変わる。
とてつもない快感に包まれた俺は、気がつくと決めポースまでしていた。ああ、ここが無人の神社で良かった。本当に。
「自分に酔うのは後、来たよ!」
「え?」
俺の変身を目の当たりにした昆虫怪人は、お約束のように襲いかかってきていた。突進するバケモノを紙一重で避ける。本当に変身後は体力が強化されていたんだ。体が無茶苦茶軽い。これなら行けるかも知れない。俺は強くステッキを握りしめた。
体力が強化されたとは言え、やはり魔法少女と言えば魔法だ。俺はすぐに間合いを取ってステッキを振りかざす。すると、このタイミングで言葉が浮かんできた。
「マジカルブルースター!」
叫ぶと同時に、ステッキの先から青い小さな星の形をした粒子が光の速さで射出されていく。それらは狙い通りにバケモノの体に連続で直撃していった。直撃した後は爆発して、青い光が周囲に花火のように散らばっていく。
「どうだ! バケモノめ!」
直撃したのもあって、俺は十分な手応えを感じていた。仁さんは一撃でバケモノを倒していたし、俺の魔法でも同じくらいの威力があるはずだ。そう思っていたのだけれど――。
青い爆炎が消え去った後には、ピンピンしているバケモノの姿があった。
「嘘……だろ?」
流石は昆虫タイプ。その硬い外骨格は、俺の魔法を弾き飛ばす強度があったようだ。攻撃が効かないとなると、弱点を探さないといけない。俺はすぐに昆虫の体の構造を思い出す。昆虫の体の仕組みから考えれば、体の各パーツの繋ぎ目は弱いかも知れない。狙うとすれば……。
しかし、俺が思考している間にバケモノからの反撃が始まっていた。
「ボアアアアア!」
事もあろうに、やつは口から火球を吐き出した。飛び道具なんて聞いてないよ! この想定外の展開にパニクった俺は全く動けなかった。回避行動が出来ない間に火球はどんどん迫ってくる。まだ直撃していないのに、肌を焼く熱さが伝わってきた。
ミーコが何か叫んでいる気がするけど聞こえない。時間がすごくゆっくりだ。あれ? これってもしかして死亡フラグ?
「うわあああああ!」
何も出来なかった俺はただ叫びながらまぶたを強く閉じる。初戦でいきなりこんな強敵にエンカウントするなんて、バランスがおかしいよこの現実ってゲーム! 死んだら神様に文句言ってやる!
――目を閉じて数秒、本来なら丸焦げになっているはずなのに、不思議と体は無事だった。何故かさっきまで感じていた熱さも消えている。
「バッカ。危ない時は私を呼びなさいよ!」
その声でまぶたを上げると、俺の前にピンクの魔法少女がいた。彼女がバケモノの放った火球を何らかの手段で弾き飛ばしていたのだ。流石は魔法少女の先輩。俺とはレベルが違う。
助けられた事は正直嬉しかったものの、最初に思ったのは別の事だった。
「えと、口調……」
「この姿の時は女の子なの! でないと不自然でしょ」
「あ、うん」
普段のおっさん姿や口調を知っているため、女の子言葉に違和感を覚えてしまう。とは言え、魔法少女効果で声は可愛いし姿も可愛いので脳がバグってしまいそうだ。つまり、俺も変身後は女の子を演じないといけないのか?
そんな混乱する俺をよそに、仁はステッキを握り直して臨戦態勢を取る。
「強敵ね。でも任せて、このくらいなら」
ピンクの魔法少女はステッキを両手で構えると、正面の敵をしっかりと見据えた。この圧が相手にも伝わっているのか、バケモノも動きを止める。場に緊張感が漂い、俺もゴクリとつばを飲み込む。
そして、先に動いたのはステッキを握った仁の方だった。
「マジカルスーパーボム!」
ステッキの先から放たれた光がバケモノに直撃して大爆発。どうやらこの魔法は爆発系の攻撃らしい。威力はさっきの俺の魔法の数倍から数十倍はあるだろうか。爆風に吹き飛ばされそうになる。こんな攻撃を受けたら、流石の昆虫の外骨格でもひとたまりもないはずだ。
爆煙が消えた後、まだその姿を維持していたバケモノは幻のようにすうっと消えていく。この現象を目にした俺は、勝ちを確信した。
「やった!」
「手応えがない、逃げられた」
「え?」
仁クラスのベテランになると、魔法が直撃しても手応えとか分かるらしい。ステッキを握る手が小刻みに震えている。いつも一撃で倒す彼がバケモノを逃がすだなんて、きっとそれは異常事態なのだろう。
かつてない強敵を前に、俺達はただただ戦慄するのだった。
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