第6話 楽しい神社巡り
食事が終わったら俺は仕事に行く準備だ。ミーコはお留守番。それは仕方がない。
「ミーコ、留守番出来る?」
「バカにしてんの? 出来るに決まってんじゃん」
「じゃ、よろしくな。あ、欲しい物あったから買ってくるよ」
「無理しなくていいし。食費2倍になるでしょ。だから気にすんなし」
ミーコは意外と気遣いの出来る性格のようだ。俺はそんな彼女の優しさが嬉しくなって、スイーツ的なものを買って帰ろうと心に誓う。あまり無駄遣いは出来ないけど、今日くらいはいいだろう。
出勤時間になったので俺は仕事に向かう。今日も天気がいいからいい感じで仕事が出来そうだ。
そうして仕事も終わり、帰りにコンビニでスイーツを買って帰宅。アパートのドアを開けると、ジャージの上下を引っ張り出されていた。その上にミーコがぐでっと寝転がっている。
「ただいまー……。って何これ?」
「お帰り。夕方からのトレーニングの準備だよ」
「仕事終わって疲れてんだけど?」
「軽い運動は疲労回復にもなんだよ。ハードな事をしろって言うんじゃないから安心しな」
こうして、帰って早々にまた適度に体を動かしてやっと俺は開放される。うう、しんどくて何もする気が起きない。それに対して、ミーコはご機嫌な顔をしていた。彼女は見ているだけだったから当然だ。しんどすぎてスイーツを渡しそびれたけど、まだ賞味期限内だからいいか。明日渡そう。
しかしこれが毎日続くのか……。しんどいけど確かに体力はつくのかもな。
それからはこのルーティーンが固定化される。毎日規則正しい生活。早寝早起き。仕事の休憩中にたまに耳に入ってくる魔法少女の活躍。俺は何もしない。いや、出来ない。バケモノは何故か日中に出現し、夜に騒ぎになる事はなかった。夜だと一応俺もフリーになるから、出たら出動する事もあるかも知れない。
仕事で疲れているんだから、真夜中に出現とかはしないでくれよ……。
予定の詰まった日々は時間も一瞬で過ぎ去っていく。気がつけば休日の朝になっていた。今までなら休みの日は寝溜めをするために貴重な時間だ。けれど、今日からはやるべき事をやる日になってしまった。
朝、平日と変わらない時間にミーコが起こしに来る。モミモミマッサージが心地良い。
「ほら、早く起きるし! もう朝だし」
「あとごふぅ~ん」
「舐めた事言ってっとマジで顔引っ掻くから」
「ヒィィ!」
ミーコのひっかき技は超痛い。伸びた爪が凶器になるのだ。一度だけどうしても起きられなくて食らってしまい、それからはパブロフの犬のように機械的に起き上がってしまう。全く、ミーコさんは俺の調教がうまいぜ。
「起きた、起きたから! 暴力はやめて」
「うむ、ヨシ! 早速ご飯食べたら出発して」
「了解っス」
休日は仕事と違って時間に縛られていない分、朝食は若干余裕を持って食べる事が出来た。食べ終わって歯を磨いたら着替えて出発。舞鷹市は無人の神社が多いので、家の近所の神社から巡っていく事にする。あの黒ローブに出会ったのも、そんな無人の神社のひとつだったな……。
玄関で靴を履いていたところで、ミーコが全速力で駆けてきた。
「あーしも一緒に行くのっ!」
「でも危なくなるかもよ」
「やばくなったら逃げるから平気!」
どうやらミーコも神社を見てみたいようだ。観光気分だなあ。までも、話し相手がいると楽しく回れるかも知れない。俺は黒ローブには会えないと踏んで、このわがまま姫の要求を受け入れた。
「では、参りましょうか。お姫様」
「うむ。苦しゅうない」
ミーコ、意外と乗ってくる性格だった。外に出てドアの鍵を締めて今度こそ出発。一番近い神社は徒歩で10分程度の距離だ。今日はいい天気なので、いい散歩日和とも言えた。いやいや、散歩じゃないんだよな。うん、調査調査。
まだ朝も早かったので道を歩いている人も少ない。休日の朝だもの、ゆっくり寝ている人が多いのだろうなあ。
「ふあ~あ。今日もいい天気じゃーん」
「気持ちいいね~」
「お、神社見えてきた。本当にちけーな」
「神社、結構あるんだぞ。全部回るのは骨が折れるよ」
俺が肩をすくめてトホホなジェスチャーをすると、ミーコは鼻で笑う。
「これもいい運動! 泣き言言わない」
「へーい」
神社につくと早速お参り。今日は他の神社にもどんどん当たっていくので、お賽銭は必要最低限にした。この日のために小銭入れをパンパンにしてきたのだ。
その後は周囲をグルグル回ってみたものの、怪しい人影は全く見当たらなかった。
「だーれもいねーし」
「まぁ田舎の無人神社、しかも朝だもの。いなくて普通なんだよ」
「よーし、次行こう! 次ィ!」
その後も行ける範囲で神社を巡ってみたものの、当然ながら怪しい人物に遭遇する事はなかった。参拝した神社の中には猫が休んでいたりする事もある。そう言う時はミーコが俺の肩から降りて、猫に寄っていった。
立ち止まってその様子を見ていると、どうやらコミニュケーションを取っているようだ。見た目がそっくりだからか、猫とも会話が出来るらしい。しばらく観察していると、彼女はトコトコと戻ってきた。
「だーめ。あの子も知らないって」
「お前、猫とも話が出来るんだ」
「あーしはどんな動物とも話そうと思えば話せるし。て言うかお前って言うなし」
「あ、ごめん。気をつける」
ミーコの特技も最大限に活用しつつ、その日の神社巡りは終わる。結果はと言うと、収穫なしだった。そりゃ、こんな行き当たりばったりの作戦がうまくいくはずがないわな。
俺は歩き疲れて足が棒になったものの、彼女はとても満足そうだ。猫と話す以外は俺の肩に捕まってたんだから、そりゃ楽ってもんだよ。
「結構疲れた~」
「まぁ初日だし? 休みの日はどんどん巡るよ!」
「へ~い」
こうして休日の神社巡りの日々は続き、地元の神社の景観の素晴らしさを再確認しつつ、成果のない時間が積み重なっていく。次第に、俺は自分が何をしているかが分からなくなってしまっていた。
それは一緒に巡っていたミーコも同じようで、休日の度に目を輝かせるその姿は、単に神社好きな子が新規開拓に興奮しているようにしか見えない。
「さあ、今日も元気に神社を巡るよ! 行くならどこかおみくじが引ける所がいいね! 先週は末吉だったから、今日こそ大吉を」
「当初の目的、忘れてない?」
「そそそそ、そんな事ねーし! あーしは真面目だし」
ミーコは神社巡りで出会ったおみくじに心を惹かれているようだ。猫の体なので代理で俺が引いているのだけど、運任せで運勢を示されるのが面白らしい。
今日はそんなウキウキな彼女に残念な知らせを告げなくてはならない。ちょっと心苦しいけれど。
「なぁミーコ」
「何? 突然改まって」
「もう、この辺りの神社は大体巡ってしまったんだ。そりゃまだ見つかっていないすごく目立たなかったり奥地にある神社が他もあるかも知れないけど、ほぼほぼコンプリートしたんだ」
「え? 嘘でしょ?」
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