封印全解除

第26話 封印石の真実

 休日魔法少女から連日魔法少女になった俺は、来る日も来る日もマーガを倒す日々を過ごしていた。これが実に忙しい。幸い、マーガは日中にしか現れないのだけれど、1時間に5体くらい倒さないと追いつかなくなってしまう。移動時間もあるから常にギリギリだ。

 そうなると、食事も調理パンとかになる。食べ終わった後の休憩の時間も中々取れない。何この売れっ子タレントみたいなスケジュール。まぁこれが日中だけで済んでいるのが救いか。夜はちゃんと眠れるし。


「そりゃこんな事を続けていたら自然に鍛えられるわなあ」


 このマーガ撃退の日々で、ピンクが肉体強化魔法を重視していた理由も分かった。単純に早くケリがつくからだ。マーガを見つけて一発ぶん殴れば消滅する。呪文を唱える必要もない。その便利さに気付いてからは、俺も肉体強化魔法のみで戦うようになっていった。

 やはり暴力! 暴力は全てを解決する……ッ! 


 効率よくマーガを倒せるようになり、やっと俺は休憩時間を少しずつ作れるようになる。ただ、マーガの方も現れる時は複数同時に出現したりもするので、そんな時は絶望感に襲われたりもした。

 しかしそれにしても出現しすぎだろ……なんでだよ。これでもし雑魚じゃないのが混じってたら詰むわ。今後もずっと雑魚以外出現するんじゃねえぞ……っ。


 俺達は無限に湧き出てくるマーガの対処にかかりっきりになってしまい、大事な事をまるっと忘れてしまっていた。そう、それは封印石のチェック。忘れていたと言うか、手が回らなかったんだ。

 マーガは夜には出てこないから、日が暮れてから確認するって手もない事はない。ただ、封印石があるのは大自然の真ん中だ。街灯もないから灯りが必要になる。そこまでする必要もないって思っちゃうんだよな。


「早朝行けばーじゃん。あーし、いつもそのくらいに起こしてるだろ?」

「確かに、朝の散歩のついでならいいかな……」


 ミーコのアドバイスで、やっと俺は現状での封印石のチェック方法に気が付いた。ダメだな、こんな単純な事すら思いつけないなんて……。俺は早速ご褒美にミーコの好物の刺し身を提供する。まぁ、スーパーの特売品だけど。

 彼女が美味しそうに食べるのを見て、俺の頬はニマりと緩んだのだった。


 翌朝、早速朝の散歩コースを延長して封印石のチェックに向かう。まず最初に向かったのは景色のいい海が見える展望台だ。散歩コースを少し延長するだけなんで割と近いんだよな。

 現場に着いた頃にちょうど朝日が昇ってきたので、チェックを後回しに俺は展望台に登る。そこから見える海からの朝日はとても神秘的で、思わず手を合わせてしまった。特に何かを願う事もなく、無事に今日が始まった事に対する感謝を太陽に捧げ、俺は展望台を降りる。


 目的の場所はこの展望台のすぐ隣だ。一見、芸術家がそこに置いたみたいな立派な巨石がここには鎮座してある。知識がなければ、誰もこれが魔素が封印された封印石だとは思わないだろう。

 それは魔王軍も同じなのかも知れない。朝日に照らされながらぐるりと見回してみたものの、そこに何の異常も見つからなかったからだ。


「うん、大丈夫!」


 しっかり無事を確認した俺は、もうひとつの封印石がある遺跡へと向かう。かつて開発のために調査をしていたら偶然見つかった1000年以上前の遺跡。この場所のすぐ近くにその巨石はある。

 もしかしたら、この遺跡自体にも何らかの秘密が隠されているのかも知れない。その辺りは専門家じゃない俺にはさっぱり分からないけれど。


 遺跡は展望台のある場所からはかなり離れていたので、結構歩く羽目になる。そろそろマーガ発生の情報が流れてくる頃かも知れない。焦った俺はちょっと小走りになった。何ならこの時点で変身して魔法少女パワーで向かった方がいいのかも。

 この結論に至った時、既に俺は現場まで後数分の所まで来ていた。もっと早くに気付くべきだったぜ。


 そして、お目当ての封印石はと言うと――。


「何……だと……?」


 そこには壊したてホヤホヤの粉々に砕け散った巨石だったものがあった。何故そう判断出来るのかと言うと、答えは簡単だ。今まさに魔素が空中に放出されている最中だったからだ。俺は間に合わなかった事が悔しくて思わず地面を殴る。

 しかし一体誰がこの封印石を破壊したのだろう。四天王かも知れないし、力のあるマーガだったのかも知れない。現場にはその痕跡は何も見つからなかった。


 いつまでも引きずってもいられないので、俺は変身して封印石を復元する。数をこなしただけあって、この作業もそれほど手間を掛けずにこなす事が出来た。

 4つめの封印石が破壊されたと言う事は、そう、マーガの出現率がまた上がったと言う事だ。この予想の通り、復元が終わったところでマーガ出現情報が大量に俺の意識に流れてくる。


「さあ、本業を始めるか」


 俺は腕をポキポキ鳴らして、遺跡から一番近いマーガを倒しに飛び出していった。



 魔素の増加で増え続けるマーガを倒す日々。この終わらない無間地獄の日常に感覚が麻痺し始めた頃、瞳さんから連絡があった。日が暮れて仁さんの部屋に全員が集まる。久しぶりに目にした彼女は、目つきもマジモードでとても深刻な顔をしていた。

 このシリアススタイルを目にした俺も、ヤバいものを感じてゴクリとつばを飲む。


「あの、皆さん。スゴイ事が分かりました」

「な、なんや?」


 いつになく重い雰囲気に、流石の仁さんも戸惑いを隠せないようだ。瞳さんは出されたお茶を一口飲むと、俺達の顔をじっと見つめる。


「魔王軍の四天王が出現したと聞きました。彼らの目的が分かったんです。それは、封印石の全破壊です」

「いや、それはもう分かっとるやん。だからチェックしとるし、復元も……」


 彼女の導き出した結論が今までしてきた事を繰り返しているだけな事もあって、仁さんは呆れ顔でツッコミを入れる。でも俺はそれに同調はしなかった。何故なら、あの瞳さんがそれだけのために呼び出すとは考えられなかったからだ。

 案の定、彼女は仁さんの言葉を遮って更に言葉を続ける。


「そうじゃないんです。再封印しても意味がなかったんです」

「はぁ?」


 瞳さんの出した結論に仁さんの口がぽかんと開く。俺も驚いたけど、話を聞いていた猫妖精達もこの展開に目を大きくしていた。


「どう言う事や? ワシらのしてきた事は無意味やったんか?」

「彼らの目的は……封印されていた魔素を全部出す事だったんです!」

「「な、なんだってー!!」」


 瞳さんの語る真実に俺達は劇画調の顔になる。きっとその答えに辿り着くまでに様々な経緯があったのだろう。俺はすぐには飲み込めなかったものの、説のひとつとして受け入れた。

 しかし、同じ話を聞いていた仁さんは違ったようだ。

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