第27話 役割分担と新たな四天王

「どう言う事なんや?」

「そもそも、魔族は何故封印石を壊していたかです。あの巨石を壊す事で魔素が放出されて、マーガが生まれるようになった。ボク達は封印石が他にこの土地を鎮める意味もあったのだろうと思ってしまった。封印ついでに魔素を封じ込めたのだろうと」

「それがちゃう言うんか?」

「気付いたのは単純な事実です。復元した封印石が狙われていません。封印石自体に意味があるなら再度壊しに来るはずです」


 この話を聞いて、俺は目からウロコがポロポロと落ちる。そう言えば復元した封印石はそのままだ。レイラが壊しに来た事はあったけど、アレも俺達の力を試しにきたのが主目的だったみたいで、石も結局破壊されてはいない。封印石自体に意味があるのなら、復元したものに全く見向きもしないのは確かに不自然だ。

 と言う事は、あの5つの封印石はただ魔素を封じる目的のためだけのものだったのか。


 俺が瞳さん説に納得して認識をアップデートしていると、仁さんが腕組みをして鼻息を荒くする。


「それなら残りの1つを確実に守ればいいだけやな。話は早い」

「ちょま、4つ目も壊されて街にマーガがたくさん出てるのに?」


 俺は彼の言葉に速攻で突っ込む。マーガを倒しながら封印石の死守――少し前ならそれも可能だった。でも今はマーガの出現頻度が上がっている。俺達が極限まで効率化を図っても封印石の常時守護は不可能に近いだろう。

 俺達がこの問題に頭を悩ませていると、瞳さんが策を思いついた。


「あの……監視カメラを設置して、敵が現れた時に駆けつけると言うのは?」

「その時に俺達のどちらも近くにいなかったらきっと間に合わない。敵が狙うとしたらそう言うタイミングで来るんじゃないか」


 俺はレイラが封印石を破壊する場面を目にしている。硬い巨石を、まるでお菓子の空袋を潰すような感覚でサクッと壊していた。どこかで感知して駆けつけたのでは遅いのだ。魔法少女のスピードを持ってしても、後出しジャンケンで封印石は守れない。封印石を守るには、その場でずっと待ち構えているしかない。

 話が振り出しに戻ったところで、考え続けていた仁さんがどんと自分の胸を叩いた。


「分かった。街はワシに任せろ! 市内のマーガはみんな倒したるわ!」


 確かに、現状考えられる最上の策は役割分担しかない。むちゃくちゃ出現するマーガを仁さん1人で対処すると言うのはかなり厳しい話だろう。それを一手に引き受けると言うのだから、そこは正直頭が下がる。

 しかし、封印石を守る方だってリスクがない訳じゃない。何故なら、既に四天王が現れているからだ。最後の封印石の破壊にあのレベルの強敵が現れる可能性は高い。ここで俺は思わず本音をポロッとこぼした。


「え? 俺1人で四天王と戦えと?」

「幹部が現れたらワシもすぐに向かう! これしかないやろ」


 今の状況を考えると、役割分担以外に街を守る方法はない。逆に俺が街を守って仁さんが封印石を守るパターンもあるけど、彼の方がマーガ退治に手慣れているし、俺1人だと街を守りきれない気がする。

 選択肢がそれしかない以上、俺はこの作戦を受け入れるしかなかった。


「分かったよ。じゃあ、四天王が現れたらよろしく」

「任しとけ!」


 こうして、翌日以降の作戦は決まる。俺は強敵に1人で立ち向かう不安に押し潰されそうになりながら、布団に潜り込んだのだった。


 翌日、いつものように朝日が昇る前からミーコに起こされる。今日からの事を考えていた俺は、目は覚めていても体が全く動かなかった。


「うう、布団から出たくない」

「早く起きなさいよ。寝てても時間が過ぎるだけなんだから」

「うう、お腹痛い。今日は無理」

「ワガママ言ってんじゃねーし!」


 ミーコが魔法で掛け布団を強制的に排除したので、俺は仕方なく起き上がった。モタモタしていると彼女の爪が襲ってくるので、淡々と朝の準備をこなす。筋トレに朝のジョギング。朝食の準備に朝食に後片付け。それらが終わったら、すぐに封印石を守りに出発する。

 ミーコも同行したがったけど、何が起こるか分からないから留守番を頼む。彼女のためにも生きて戻らないとな。


 俺は頬を両手で叩くと気合を入れ直す。まだ朝日が昇り始める頃合いだ。マーガだってもっと後から出現し始める。もし封印石の場所に四天王とかが現れるにしても、そんなすぐには来ないだろう。

 俺は少しだけ心の余裕を持って歩き始めた。何も起こらない事を願いながら――。



 最後に残った封印石のある場所は、海がよく見える展望台の隣の広場だ。休日や連休のような観光シーズン以外では、ほとんど人が来ない静かな場所。敵が現れないなら、1日海を見て過ごすのもいいな。

 俺がそんな淡い希望を抱きながら現地に到着すると、そこには珍しく人影があった。俺と同じこの場所が好きな人だろうか? だとすると、ちょっと嬉しいな。


 任務もあるものの、嬉しくなった俺は挨拶でもしようかなと人影に近付いていく。姿がハッキリ分かるようになると、その人物は身長が190センチくらいでガリガリに痩せた体型をしているのが分かった。肩幅が広くて、まるでカートゥーンの登場人物のようだ。しかも雰囲気がなんとなく怪しい。

 俺は挨拶をしようと言う気持ちも削がれ、大人しく任務の方に専念する事にした。


「うん、ここはまだ大丈夫だ」

「君はその石の価値を知っておれられるのですな」

「うわあっ!」


 封印石のチェックをしている時に声をかけてきたのは、さっき展望台にいたはずのデカヒョロ男だ。全く気配を感じさせずに一瞬でこの場に現れた彼は、顔面蒼白で目にクマを作っており、全体的に生気のない雰囲気を漂わせている。

 かなり怪しい人物ではあるものの、見た目は普通の人間の範囲内の風貌だ。服装も特に怪しくはない。ただの巨石マニアなのかな。俺は無難にやり過ごそうと、作り笑いを浮かべる。


「こう言うの、好きなんですよ。あなたも?」

「小生はこの石を破壊しに来た者。そこをどいてはくださらぬか?」

「は、破壊?」

「申し遅れた。小生は魔王軍四天王が1人、ヌーンと申す」


 デカガリ男――ヌーンは自分の正体を呆気なく俺にバラした。まさか四天王に見た目ほぼ人間のメンバーがいたとは。勿論人間に化けている可能性もある。ただ、それが問題ではない。

 俺はまだ変身していない。生身では多分全く相手にならないだろう。かと言って、四天王の目の前で変身する訳にも行かない。魔法少女は正体を知られる訳には行かないのだ。俺は何とか隙を作ろうと話を引き伸ばす事にした。


「ヌーンさん? 素敵な名前ですね」

「ほう! 小生の名の良さが分かり申すか! 然り、この名は我が敬愛する両親がつけたもの。名前の由来はですな……」


 軽い世間話で名前を褒めたばかりに、ヌーンはかなり上機嫌で自分語りを始めた。あまりのマシンガントークを前に、俺はすっかり聞き役に徹する羽目になる。

 この時、海上で日の出が昇り始めた。ヌーンもまた視線を海の方に向ける。


「おお、絶景ですな。小生、この景色を見に来たのですよ」


 ヤツの視線がそれたところで、俺は素早く変身する。魔法少女衣装に変わったところで高くジャンプして、速攻でその場から離脱した。着地したところでピンクに四天王が来た事を知らせ、すぐに現場に戻る。

 こうする事で、少なくなくとも変身前の俺が怪しまれる事はないはずだ。

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