黒ローブのレイラの挑発
第11話 封印石の復元と黒ローブ
目的が決まったところで、俺達が最初にする事は何か。それは、破壊された封印の地へ赴き、巨石の調査をする事。舞鷹市に施されている封印がどんなものかを調べる事で、他の封印を探す手がかりを見つけると言う訳だ。
俺達にそう言う芸当は出来ないけれど、妖精のマルやミーコなら何かしらの痕跡とかを見つけられるかも知れない。ミーコは一度来ているけれど、あの時は封印石の様子を見ただけでちゃんと調べた訳じゃない。
「あーしだって本腰を入れたら色々分かるし! これマジだし!」
「妹にも僕と同じ才能はある。役に立たない事はないよ」
「おっしゃ、じゃ、全員で行くか!」
こう言う流れだ。そんな訳で、俺達はあの破壊された封印の石のある神社にやってきた。石段を登りきると、当時のままの光景が広がっている。まるで時間が静止しているかのようだ。俺達は他の建物には脇目も振らず、まっすぐに破壊された跡に向かう。やはりそこはあの時と同じく、破壊された状態のままだった。
妖精2匹は俺達の肩から飛び降りると、早速調査を開始する。周辺をじっくり眺めたり、クンクンと匂いを嗅いだり、耳を澄ませて周辺の音を拾ったり、石をカリカリと爪を研ぐように触ってみたり、ペロペロと舐めてみたり――五感をフル活用して封印石の特徴を調べていた。
俺達は妖精達の邪魔をしないように、その様子を黙って見守る。前回みたいに、またどこからかマーガが出てくるかも知れないからだ。そう、今回の俺達の役目は妖精達のボディーガード。調査の邪魔をされて手がかりを失ったら、それこそ詰みになる。そんな事態だけは避けなくてはならない。
この様子を誰かが見たら、石の周りを好き勝手に遊ぶ猫達を見て楽しんでいる飼い主達のように見えるだろう。実際、そんな感じだけど。
調査を開始して数分後、調べ尽くしたらしい2匹は俺達の前に戻ってきた。
「大体の特徴は記憶に刻んできたよ。これで探せるはずだ」
「あーしも癖みたいなものは分かったし」
2匹共しっかり手応えを感じてくれたようだ。俺達はこの成果に満足して、お互いに顔を見合わせるとグータッチをする。これでここでの用事は終わったと立ち上がると、ミーコがズボンを引っ張った。
「もう終わったと思ってんの? まだ残ってっから」
「え?」
「この封印を再封印すんの。魔法少女の魔法でね」
「出来るんだ?」
ミーコ達妖精が言うには、この封印の技術は妖精界で使われているものと同じものらしく、つまりは魔法少女の魔法で修復可能らしい。その話を聞いた俺達はうなずき合うと、すぐに魔法少女に変身。破壊された石に向かってステッキをかざす。
その体勢が出来たところで、マルがやり方を教えてくれた。
「ピンクとブルーでタイミングを合わせて石が戻るイメージを思い浮かべて欲しい。で、どちらでもいいから何か言葉が思い浮かんだら唱えるんだ。思い浮かばなかった方は、思い浮かんだ方に協力するイメージを持ってくれれば魔法はシンクロする」
「な、なるほど?」
「おっしゃ! じゃあやろか!」
俺達は、言われた通りにステッキをかざした状態で想像力を膨らませる。石の最初の状態を知っていた俺の方が先に閃いたので、そのまま降りてきた言葉を唱えた。
「リカバレスト!」
「……」
俺の呪文とピンクのイメージがシンクロして、お互いのステッキから光が放出される。2つの光は絡まり合う螺旋軌道を描いて封印石を照射。光は復元力に還元されて、みるみる修復されていった。
「おおお……」
「す、すごい」
修復はほんの数秒で終わり、見事に元の姿になる。ただし、これは外観が元に戻っただけだ。封印の力を回復させるには更に魔力を込めないといけないらしい。そのあたりの作業もマルから教えてもらい、俺達は何とか封印の力自体も復元させる事が出来た。
この作業は、お互いの魔力量を同じにしないといけなかったため、作業が完了したところで俺は地面にへたばった。
「うわあ~疲れたあー」
「情けないのう。ワシの方が合わせたくらいやのに」
ピンクはまだピンピンしている。きっと潜在魔力量が俺より多いのだろう。変身したら女の子言葉にしろってそっちの方が言っていたのに、見事に素の言葉遣いをしている。まぁ、周りにギャラリーがいないからいいか。
ロリ声でおっさんの言葉遣いは、少し違和感を感じないでもないけど……。
復元されたばかりの封印石に妖精達が近付き、入念にチェックする。五感をフル活用した検査を行い、マルがくるりと振り返った。
「うん、OK。これでここ由来の化け物は今後出現しないよ」
「はは、なんて事をしてくれるんです」
俺達しかいないはずのこの場所に第三者の声が届く。しかもその内容はまさに関係者が発するものだ。悪い予感がした俺はすぐに立ち上がり、周囲を警戒する。ピンクも臨戦態勢に入っていた。
さっきの復元で魔力をかなり消費していたけれど、後何発かは魔法も使えるはずだ。俺はステッキに握り直して、どんな状況になっても対処出来るように感覚を研ぎ澄ませた。
静かな境内に緊張感だけが高まり、突然生暖かい嫌な風が吹く。マル達もまた毛を逆立てて気配を探っていた。
「その石は破壊されて当然のもの。余計な事はしないでくれるかな」
その声と共に俺たちの前に突然現れたのは、この封印石を壊した張本人の黒ローブ。声質からすると女性のようだ。顔を隠しているために別人の可能性も否定出来ないけれど、俺の本能は本物だと告げている。
ただ、その不気味な威圧感は、俺の口を動かせないようにするのに十分だった。
「君達が妖精共の
「私はピュアピンク、そっちがピュアブルー」
「可愛らしいね前ね。封印を復元させるとは、魔力も中々だ」
レイラは敵幹部ムーブを発揮して、俺達に向かって拍手をする。勿論それは感動の拍手ではない。挑発のそれだ。俺ですら舐められていると感じるくらいだから、ピンクの感情も怒りで満ちている事だろう。
見たところ、レイラは魔法少女時の俺達と同じくらいの背格好で、華奢な体つきをしている。あまり実力者のようには見えない。魔力は筋力に比例しないから、力の底は分からないけれど。
このいきなり現れた敵幹部っぽい存在に、ピンクはステッキを向ける。
「私達を倒しに来たの?」
「いいや? 私は強い魔力を感じたから確認しに来ただけ。ただ、そこの石は破壊させてもおうかな」
「させないっ!」
ピンクはすぐに『マジカルシューティングピンク』でレイラを攻撃。どうやら魔法少女の魔法は無詠唱でも発動出来るらしい。俺にも出来るのだろうか?
ステッキから放たれた魔法の矢はまっすぐ彼女に直撃して爆発。正直、俺は人の姿をしている相手にも容赦なく攻撃出来るピンクのメンタルに引いてしまう。今後、俺もこの手の敵と戦う羽目になるのかも知れないと言うのに。
魔法の爆発の勢いから手応えを感じたピンクは、ここでフラグを立てる。
「やったか!」
「ちょ」
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