第14話 船のパーティーはとても楽しいです
しばらく走ると、立派な運河が見えて来た。
「今日乗る船はあれですわ」
令嬢が指さす方向には、これまた立派な船だ。
「あんな素敵な船に乗るのですね。私、船に乗ること自体初めてですの」
「そうでしたわね。今日は目いっぱい船の旅をお楽しみください」
令嬢たちが笑顔を向けてくれた。最初の頃は本当に辛かったけれど、こうやって皆と仲良くなれて、本当によかったわ。それもこれも、全部スカーレット様のお陰ね。
「さあ、参りましょう」
馬車を降りると既に殿方たちは到着していた様で、船の前で待っていた。
「それでは皆様、乗り込んでいきましょう。少し揺れますので、お気を付けください」
初めて乗り込む船、なんだか緊張するわ。ゆっくり歩みを進めていく。
「スカーレット、大丈夫かい?僕の手を握って」
私の隣で、相変わらず仲睦まじいスカーレット様と王太子殿下が手を取り合っている。そんな2人に見とれていると…
「危ない!アンジュ嬢」
「きゃ」
バランスを崩し、転びそうになったところを、間一髪、ダルク様に助けられたのだ。
「ありがとうございます、ダルク様。もう少しで転ぶところでしたわ」
私ったら、おっちょこちょいね。
「イヤ…大丈夫だ…運河とはいえ船は少し揺れる。気を付けた方がいい」
そう言うと、クルリとあちらを向いて去って行ったダルク様。相変わらずクールな方だ。
船に乗り込むと、既にたくさんのお料理や飲み物が準備されていた。
「皆様、今日はお集まりいただき、ありがとうございます。目いっぱい楽しみましょう。それから、あちらの階段からデッキに出る事も出来ますので」
この船を準備してくれた令嬢の挨拶で、パーティースタートだ。
「アンジュ様、タイを石窯で焼き上げたこのお料理、ミラージュ王国の伝統料理の一つなのです。よかったら食べてみてください」
そう教えてくれたのは、スカーレット様だ。
「そうなのですね、せっかくなので頂きますわ」
近くにいたメイドが、すぐにお皿に乗せてくれた。早速1口。
「タイの身がふっくらしていて、とても美味しいですわ。お魚ってこんなにふっくらしているだなんて、知りませんでした」
「お口に合ってよかったですわ。次はこちらを」
他の令嬢たちも加わり、色々なミラージュ王国の郷土料理を勧めてくれた。学院でもミラージュ王国の郷土料理が出る事もあったけれど、こんなに沢山のお料理があるだなんて知らなかったわ。
「さっきから思っていたのですが、アンジュ様のドレス、とても素敵ですわね。この素材は、絹ですか?」
1人の令嬢が、私のドレスに興味を持った様だ。
「はい、我が国は絹の生産が盛んでして。特に家の領地は、積極的に絹の生産を行っておりますの。そう言えば皆様の着ていらっしゃるドレス、素材が違いますわね」
「我が国ではあまり絹はなじみがなくて…それにしても、とても肌触りがいいのですね」
「はい、着心地もいいのですよ。よかったら今度、カリオス王国から取り寄せましょうか?」
「まあ、いいのですか?嬉しいですわ」
「何の話をしているのだい?」
令嬢トークに花を咲かせていると、王太子殿下がやって来たのだ。
「見て下さい、イカロス様。アンジュ様のドレス、絹で出来ているそうなのです。本当に触り心地が良くて、素敵だと思いませんか?」
すかさずスカーレット様が王太子殿下に話しかけた。
「確かに艶があって綺麗だね。触ってもいいかい?」
「はい、どうぞ」
王太子殿下が、遠慮しがちに私のドレスに触った。
「これは触り心地がいい。確かカリオス王国は、絹の生産が盛んだったね。これを機に、絹を仕入れてみるのもいいかもしれない」
顎に手を当てて呟く王太子殿下。
「今度カリオス王国の国王陛下に打診してみるよ」
何と、この何気ないパーティーで、国同士の貿易の話になるだなんて…
それも我が国では当たり前の様に使われている絹が、この国では珍しいものだったなんて…実際現地に行ってみないと分からないものだ。
これを機に、ミラージュ王国でも絹を使う人が増えてくれたら嬉しいな。
その後も美味しいお料理をたくさん食べ、令嬢たちとたくさん話をした。
なんだか少し疲れたわ。そうだ!
「せっかくなのでデッキに行って参りますわ。運河から見るミラージュ王国の王都を見てみたいですし」
そう皆に断りを入れ、デッキへと向かう。
デッキにつくと、何人かの令嬢や令息たちも景色を眺めていた。
「まあ、なんて綺麗なのかしら?」
運河から見える王都の街並みは、また格別だ。元々綺麗な街並みなのだが、夜という事で灯りが灯されており、それがとても綺麗なのだ。
こんなにも綺麗な夜景は初めて見たわ。この地に来て、本当によかった。
せっかくなので船を移動しながら、いろんな景色を楽しんでいく。すると…
「ダルク様?」
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