第15話 ダルク様とたくさん話をしました
端っこの方でうずくまっているダルク様を見つけた。
「大丈夫ですか?体調が悪いのですか?」
珍しく真っ青な顔をしている。
「だ…大丈夫だ…ちょっと酔っただけで…」
酔う?そう言えば船酔いというものがあると聞いたことがある。
「とにかく、こちらに横になってください」
近くにあったベンチにダルク様を寝かせると、急いでホールへと戻る。そして近くにいたメイドに、船酔いをしている人がいると伝えると、お薬と水を準備してくれた。
急いでデッキに戻る。
「ダルク様、お待たせいたしました。船酔いに効くお薬と、お水です。どうか飲んでください」
何とか彼を起き上がらせ、お薬とお水を手渡す。
「ありがとう…せっかく船を楽しんでいたのに、私のせいで申し訳ない」
「何をおっしゃっているのですか。困った時はお互い様ですわ。それにダルク様は以前、私が怪我をしたとき、病院まで付き添って下さったではありませんか」
「あの程度の事、当たり前の事だ。それにしても、この程度の揺れで気持ち悪くなるだなんて、情けない」
珍しくダルク様が落ちこんでいる。その姿がなんだか可笑しくて、つい笑みが漏れる。
「情けなく何てございませんわ。乗り物酔いは、自分ではどうする事も出来ませんもの。それよりも、少し体調は戻りましたか?」
「ああ、だいぶ楽になって来たよ。ありがとう」
「それは良かったですわ。乗り物酔いは、遠くを見ると良いと言います。見て下さい、ダルク様、とても綺麗な夜景が広がっていますわ」
「本当だ、この国にこんな綺麗な景色があるだなんて、気が付かなかったよ」
「まあ、ダルク様ったら。あなた様はずっとこの国で生きていらしたのでしょう?」
「そうなのだが…私はなんていうか、こういった娯楽はあまり行ってこなかった。というより、行う必要がないと考え、避けてきたのだよ。でも今日…その…君と夜景が見られてよかったよ」
そう言うと、少し恥ずかしそうに呟いたダルク様。
「それは良かったですわ。せっかくこんなにも魅力的な国に住んでいらっしゃるのです。どうかこれからは、娯楽もぜひ取り入れてみてください。きっと得られることも、多いかと思いますわ」
「そうかもしれないね…アンジュ嬢は、後1ヶ月で国に帰るのだろう?」
「はい、この国での留学期間は、半年と決まっておりますので。せっかく皆様と仲良くなれたのに、残念ではありますが、国には私を待っていてくれる家族や友人もおりますので…」
お父様やお母様、レイズ、それに友人達。元気になった私を彼らに見て欲しいという思いもある。
「そうなのだね…でも、国には君が心から愛した令息もいるのだろう?それも別の令嬢と婚約をすると言っていたし。そんな国に帰っても、大丈夫なのかい?」
どうやら私がこの国に来た理由を、ダルク様は覚えていて下さったようだ。
「この5ヶ月、ミラージュ王国で皆様と一緒に過ごすうちに、彼に対する気持ちもすっかりなくなりましたわ。もう私は、彼を見てもなんとも思わない自信があります。国に帰ったら、何度も婚約を申し込み迷惑を掛けた事をしっかり謝罪し、婚約者様と幸せになって欲しいと伝えようと思っております」
お陰様で、もうデイビッド様の事は綺麗さっぱり諦められた。だから、もう大丈夫だ。
「そうか…君は強いのだね…」
「強くはありませんわ。もし強い人間だったら、留学なんてしませんでしたし。それに両親や弟、友人達には本当に心配をかけてしまいましたので。国に帰ったら、彼らに恩返しをしようと思っておりますの」
「そうか…アンジュ嬢は、ミラージュ王国にまた来る気はないのかい?スカーレット様もあなたの事を気に入っているし。あなたがスカーレット様を支えてくれたら、その…王太子殿下も喜ぶかと…」
「ダルク様は、本当に王太子殿下の事を大切に思っていらっしゃるのですね。確かに私も、スカーレット様と一緒にいられたら嬉しいですが、それは叶わぬ夢です。私はこの地に縁もゆかりもありませんので。それに、王太子殿下とスカーレット様の結婚式には、参列させて頂こうと思っておりますわ。スカーレット様とも約束をしておりますし」
そう、お2人が結婚するときは、私も参列して欲しいとスカーレット様に言われているのだ。
「その件なのだが、その…あなたさえよければ、私と…」
「アンジュ様、それにダルク様も。こちらにいらしたのですね。そろそろ船が到着いたしますわ」
令嬢たちが私を呼びに来てくれた。
「あら、もう着いてしまうのね。それは残念だわ。ダルク様、もう着くそうです。降りましょう」
「…ああ…そうだね…」
なぜか気まずそうな顔をしているダルク様。一体どうしたのかしら?
令嬢たちやダルク様と一緒に、船を降りる。
「アンジュ嬢、降りるときも揺れるから、気を付けて」
そう言うと、スッと手を出してくれたダルク様。もしかして、お薬とお水を渡したお礼かしら?
「ありがとうございます」
ダルク様の手を取り、ゆっくり降りる。
その時だった。
「アンジュ!!」
えっ?この声は…
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