第12話 楽しい日々に感謝です

ミラージュ王国に来て早5ヶ月、私も3年生になった。あの日以降、すっかりクラスの皆とも仲良くなった。最後まで私に文句を言っていたマリン様にも、その後謝罪を受けた。


特にスカーレット様とは、何でも話せる親友の様な存在になれたのだ。実はスカーレット様のお部屋と、私のお部屋は隣同士という事も分かり、時折お部屋を行き来する事もある。


今日もスカーレット様と一緒に、中庭でティータイムだ。


「スカーレット様、これ、カリオス王国で今人気のお菓子なのですよ。友人が送ってくれたのです。よかったら一緒に食べませんか?」


「まあ、可愛らしいお菓子だ事。これ、どうやって作られているのかしら?」


「友人の手紙には、飴細工と呼ばれるお菓子の様ですわ。凄いですわよね、こんなに細かく作られているだなんて。あの…たくさんありますので、よろしければ王太子殿下とダルク様もどうぞ…」


スカーレット様の隣で、飴細工を不思議そうに見ている王太子殿下と、その隣で真顔でこちらを見ているダルク様にも勧める。


「カリオス王国で流行っているお菓子か。確かに随分と細かいところまで作られているのだね。これ、全部食べられるのかい?」


「その様ですわ。全て飴で作られているそうです」


「それじゃあ僕は、この獅子の飴細工を頂くよ」


「私はウサギにしますわ」


王太子殿下とスカーレット様が、それぞれ飴細工を手に取った。ただ、なぜかダルク様は、ずっと真顔でこちらを見つめていて、飴には見向きもしない。


「あの…ダルク様、よろしければあなた様もどうぞ」


改めて声を掛ける。


「ごめんね、アンジュ嬢。ダルクは甘いものがあまり好きではないのだよ」


申し訳なさそうにそう呟く、王太子殿下。


「まあ、そうだったのですね。そうとも知らず、無理に勧めて申し訳ございません」


それならそうと、早く言ってくれればいいのに…


スカーレット様の話では、元々ダルク様は無口で、こんな感じなのだとか。ちなみにダルク様は公爵家の三男坊で、王太子殿下を生涯傍で支えると誓っているらしい。


その為、結婚もしないと本人は宣言しているとの事。


「それでは私は、このリスにしますわ。他にも沢山ありますので、スカーレット様も王太子殿下も、気に入ったお菓子があれば持って帰ってください」


「いいのですか?嬉しいですわ。それでは私は、犬と小鳥を」


「僕はライオンと狼を頂くよ」


2人がそれぞれ飴細工を選んだ。その間もなぜか私をじーっと見ているダルク様。もしかして、飴細工が欲しいのかしら?


「あの…ダルク様、さっきからこちらをずっと見ておりますが、飴細工が欲しいのですか?どうぞ、お好きなものを持って行ってください。このクマなんてどうですか?」


「いや…その…私は別に…クマか…せっかくだから、頂こう」


なぜか急に、ダルク様がシドロモドロになった。一体どうしたのかしら?よくわからないが、飴細工を渡せてよかったわ。


お茶を楽しんだ後は、王太子殿下たちと別れ、女子寮に戻ってきた。ここでも令嬢たちに、飴細工を配る。


「アンジュ様、こんな素敵なお菓子を頂いてもよろしいのですか?嬉しいですわ」


そう言って皆が飴細工を嬉しそうに手に取っている。


「沢山ありますので、遠慮なく持って行ってください」


「本当に、食べるのが勿体ないくらい素敵ですわね。そうですわ、私も自国のお菓子を送ってもらいましたの。夕食後、皆さまで食べましょう」


「それなら、私もお菓子を準備いたしますわ。せっかくなので、令嬢トークをしましょう。そうだわ、今日も皆で夕食も食べましょう」


「いいですわね。皆で食べると、美味しいですものね。それでは、また多目的ルームを予約しておきますわ」


クラスの皆と仲良くなってから、夕食も皆でワイワイ言いながら食べる日が続いている。最初はずっと部屋で1人で食事をしていたのに。その事を思うと、随分と幸せだわ。


早速令嬢が予約してくれた多目的ルームで食事を楽しむ。


「アンジュ様は、この地に幼馴染を忘れる為にいらしたのですよね?」


「はい、お陰様で、もうほとんど彼の事を考えなくなりましたわ。やはり環境を変える事は大切ですわね」


ミラージュ王国に来てから、いつの間にかデイビッド様の事を考えなくなっていたのだ。


「それは良かったですわ。アンジュ様、殿方はその幼馴染だけではありませんもの。きっと素敵な殿方が見つかりますわ」


「そうですわよ、アンジュ様。せっかくなので、この地で素敵な殿方を見つけられてはいかがですか?そしてその幼馴染を見返すのです!」


「皆様、ありがとうございます。でも…私は後1ヶ月で国に帰る身ですし、そう簡単に私の事を愛してくださる殿方は見つかりませんわ」


「それなら、ダルク様なんてどう?」

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