第11話 令嬢たちに文句を言われました

翌日、いつもの様に制服に着替える。なんだかいつもより心が軽い気がするのは、昨日スカーレット様とお友達になれたからだろうか。


でも…


もし今日、学院に行って、スカーレット様から無視されたらどうしよう…そんな不安が私を襲う。


「お嬢様、浮かない顔をしてどうされたのですか?もしお嬢様が学院に行くのが嫌とおっしゃるなら、お怪我もしておりますし、お休みしてもいいのですよ」


心配そうにカリアが話しかけてきた。


「ありがとう、大丈夫よ。それじゃあ、行ってくるわね」


部屋から出ると、そこには…


「おはようございます、アンジュ様。お怪我の方はどうですか?」


スカーレット様がわざわざ待っていて下さったのだ。


「おはようございます、スカーレット様。もしかして私を待っていて下さったのですか?お陰様で、しっかり治療を受けることが出来ましたので、問題ありませんわ」


「それは良かったですわ。なんだかあなた様が心配で…さあ、一緒に教室に参りましょう」


私の手を握ると、歩き出したスカーレット様。なんてお優しい方なのかしら?


「スカーレット様、私の様な者とお友達になって下さり、ありがとうございました」


改めてスカーレット様にお礼を言った。


「何をおっしゃっているのですか?私の方こそ、今まで酷い態度をとってしまい、本当にごめんなさい。こんな私が、王妃になれるのか不安で…」


「そんな!スカーレット様はきっと、素敵な王妃殿下になられますわ。それに王太子殿下からも、随分愛されている様ですし」


本当にスカーレット様が羨ましいわ。でもきっと、スカーレット様がそれだけ魅力的な女性だからだろう。私はどんなに頑張っても、デイビッド様に振り向いてもらえなかったものね…


「アンジュ様、そんな悲しそうなお顔をされて、どうされたのですか?大丈夫ですわ、これからは私が、アンジュ様を守りますから。さあ、参りましょう」


スカーレット様に手を引かれ、教室へとやって来た。


「皆様、おはようございます」


いつもの様に挨拶をする。でも、相変わらず誰も挨拶をしてくれない。ただ…


「皆様、アンジュ様がご挨拶をなさったのですよ。挨拶は貴族の基本です。そんな事も出来ないのですか?」


すかさずスカーレット様が、他の生徒たちに注意している。


「…おはようございます…」


ぽつりぽつりと、挨拶をしてくれるクラスメイト達。その時だった。


「ちょっとあなた、一体どうやってスカーレット様に取り入ったの?手に包帯まで巻いて。もしかして、スカーレット様を脅して、仲良くなったの?」


やって来たのは、留学1日目の時に、私に文句を言ってきた令嬢だ。


「マリン様、なんて事をおっしゃるの?アンジュ様は昨日、私が見つけた雛鳥を守るために、大きな鳥に襲われて怪我をしたのです。その後も危険を顧みず、木に登って雛鳥を巣に帰してくれたのですよ。アンジュ様は私の大切な友人です。彼女の事を悪く言うのはおやめください」


スカーレット様がすかさず私と令嬢の間に入ってくれた。


「スカーレット様、この女に騙されているのです。それならどうして、こんな時期に留学なんてして来たのですか?おかしいでしょう」


令嬢が叫ぶ。皆が一斉に私の方を振り向いた。


「それは…」


困った顔のスカーレット様。


「私がこの時期に留学したのは、大好きだった男性を忘れるためです。私にはずっと思いを寄せていた幼馴染がおりました。でも…彼は、別の令嬢と恋仲になり、その女性と婚約を結ぶと聞いて…彼を忘れるために、この地にやって来ました。自国にいたら、どうしても彼と顔を合わせてしまいますので…」


私に対するクラスメイトの評価は、既に最低だろう。ならば別に、この地に来た理由を隠す必要は無いと思ったのだ。


「アンジュ様…その様なお話しを皆の前で…」


「いいのです。本当の事を話した方が、皆様も納得してくださるでしょうし」


心配そうにこちらを見つめているスカーレット様に笑顔で答えた。


「で…でも、好きな殿方を忘れるためだけに、わざわざ留学をするだなんて…もしかして、相手の令嬢に酷い事をしたとか…」


「マリン様、アンジュ様の話を聞いて、よくもそんな酷い事を言えますね。アンジュ様は留学して来てから、ずっと謙虚でしたわ。それなのに私たちは、途中から留学してきたという理由だけで、アンジュ様を無視し傷つけたのです。ただでさえ傷心のアンジュ様の心に、塩を塗ったのは私達ですわ。アンジュ様、本当にごめんなさい」


そう言ってスカーレット様が頭を下げて来たのだ。


「どうか頭をお上げください。本当に私は大丈夫ですから。それにスカーレット様には感謝しているのです。こんな私と、お友達になって下さって…」


「アンジュ様…」


「でも…」


まだ令嬢が何か言おうとしている時だった。


「アンジュ嬢の事は、我が王族も調査させてもらったよ。確かに彼女は、カリオス王国で何か問題を起こしたという事実はなかったよ」


私達の元にやって来たのは、王太子殿下だ。


「アンジュ嬢、僕からも謝罪させてくれ。他国の留学生でもある君に、初日から酷い態度をとってしまった事を。本当に申し訳なかった」


そう言って王太子殿下が頭を下げたのだ。


「どうか頭をお上げください。私は本当に大丈夫ですので」


必死にそう伝えた。まさか他国の王太子殿下に頭を下げられるだなんて…


ただ、その姿を見たクラスメイト達が


「あの…アンジュ様、酷い態度をとってごめんなさい。これからは、私達とも仲良くしてくださるかしら?」


「私ともどうかお願いします」


「俺も」


次々とクラスメイト達が、私と仲良くしてくれると言ってくれたのだ。それが嬉しくてたまらない。


「皆様、ありがとうございます。どうかよろしくお願いいたします」


この1ヶ月、本当に辛かった。でも…もうそんな日々もこれで終わる。そう思ったら嬉しくて、涙を流しながら何度も頭を下げたのだった。

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